第42話 最強の○○を使って魔法学院の試験を合格します!
「よし! これなら……!」
迷いのない手さばきでモザイクの一部をつかむ。感触はない。重さも、何の刺激もない。まさに雲をつかむような行為。だがグローブの手の中には粗いモザイクが握られていた。
ゴーレムがばっと豪腕を上げる。その拳に潰される前に俺はクリスタルの単眼にモザイクを投げつけた。
「ヒィィィィハァァァァァァァァーッ!」
ハイテンションなモザイクの妖精が飛んでいくと、ゴーレムの拳が放たれた。
「んー―ッ!」
思わずよろけてしまうような衝撃が襲った。真横で炸裂した拳にぞっとし、逃げるように数歩だけ距離を取る。
モザイクが間に合ってよかった。モザイクが奴の視界を奪ってくれたおかげで運よく狙いが外れてくれたから。
「ふへへ……どうだ、何も見えねェだろ!」
顔面モザイクゴーレム。そんな稀有なモンスターが誕生していた。
モザイクを取り払おうと体を揺する巨躯に俺は接近し、足を殴る。それだけで頑丈な脛が吹っ飛び、バランスを崩して地面に転がった。
ぐぎぎっと錆びた機械のように起き上がろうとするゴーレムに追撃の拳をお見舞いし、腕を、胴体を、頭を容赦なく潰した。
とても岩を殴っている感覚じゃなかった。砂で作った山を殴るのに近い感じで、多少の抵抗はあるものの力を加えれば崩れるような……そんな容易さ。
『またあんなので……! ああえっと、戦闘不能。損壊率百パーセントです』
感触を確かめるように手を閉じたり開いたりしていた俺の耳に、仰天するアナウンスが届いた。
「あ、あの野郎やりやがった……! 変態だが強いぞ!」
「だからどんな魔法だよ! ゴーレムに引っ付けた妙なモノといい、殴って壊せる破壊力といい、もうわけわかんねぇよ……!」
学院生たちの声を受けると、俺は仰向けで沈黙しているゴーレムに飛び乗り、
「ならば教えてやろう! 格闘術にモザイクを投げつけるモーションを加えることで相手の意表を突く戦闘スタイル……名付けてCQM――近接モザイク術だ!」
堂々と声を張った。その勇猛な姿にギャラリーは戦慄した。
「な、なんて奴だ。妙なモヤで隠れてるとはいえ、下半身丸出しで堂々と説明するなんて」
「羞恥心ぶっ壊れてんじゃねぇの……? まともな精神じゃあんなことできないって」
「つーか早くズボン穿けよ、半裸マン」
「は、半裸マンって……ふふっ。翔くんにぴったりじゃない」
「きゃははは! 先輩面白い、さすが原住民。命懸けなら形振りなんてかまってられませんからね」
「まぁナニは振ってただろうけど。半裸だけに、ね」
「お前ら馬鹿にしやがって、こっちだって必死なんだぞ……」
正平が半裸マンとか言ってくるし、それを聞いてヒルデさんがくすくす笑ってるし、フィーネも観客席でご機嫌だし、その隣で拓美先輩もなんか上手いこと言ってるし、そのせいで居た堪れない空気になっていた。
うわぁ絶対この後、俺のあだ名半裸マンになりそうな気がするぞ……モザイクでちゃんと股間を隠してるのに何が半裸マンだよ、チクショウめ!
そう思いながら俺は、脱ぎ捨てたズボンを拾い上げ、溜息をつきながらそれを穿いた。
とはいえ試験は無事クリアした。それは間違いなくこのグローブのおかげだ。
昨日、村で正平が炎の壁を切り裂いたところと、最強の抱き枕からヒントを得て獲得したこれは『最強のグローブ』だ。
切れないはずの炎さえ切ったということは、触れることができないモザイクすら干渉できるはず。それに最後の救済カードを使うのだから汎用性があって、素人でも扱いやすいものがいい。そんな思惑から生まれたのがこのグローブだ。
自分の選択が正しかったことに満足すると、俺は笑い声の混じった歓声を身に受けながら地面に転がったズボンを拾い上げ、いそいそとはいたのだった。
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