第41話 抱き枕の戦士、魔法学院の試験を受ける
なんだろうこの『もうお前が主人公でいいよ』感は……企画的には司会進行役のはずなのに目立ちすぎだ。これじゃ俺らが何しても、さっきのを見せられたあとじゃな……、という風な空気になるだろう。
そんな非難を送るとヒルデさんは、形のいい唇をふふっとほころばせて首を振った。
「もっと凄いのが見れるわ。正平くんなら、ね」
ということで今度は、抱き枕を抱えたクールな戦士が前に出た。
「お、おい……あの男が持ってるのって、何だ? 武器に見えないけど……」
「なんかクッションみたいだよな。あんなのでどうする気だ? 全然想像がつかないぞ」
「つーか、表面に絵みたいなのが書いてあるぞ。何かの儀式的なものか? 部族が自分たちの神様を描くことで、その力を授かるって感じの」
ギャラリーが困惑した面持ちで見つめる中、試験が始まった。
新たに召喚されたゴーレムが、腕を振り上げ、ぶんっと力任せに拳を振るった。
「――ふっ」
正平が抱き枕を振りかぶって、正面から豪腕を弾くように思いっきりスイングした。
すると冗談みたいな現象が起きた。あれだけ巨大で、地面を抉るほどの威力を誇った拳が抱き枕に打ち返され、そのまま勢い余ってゴーレムが仰向けに倒された。
そしてすかさずゴーレムの胸に正平が飛び乗ると、
「こいつでトドメだ! ドォラァラァラァラァラァラァラァラァラァラァ、ドォラァッ!」
抱き枕ラッシュ。クッションが跳ねる度にゴーレムの体がどんどん砕けていき、最後に重い一撃を頭部に叩き込むと、震えた声のアナウンスが響く。
『え……嘘でしょ……損壊率百パーセント。合格、です……』
「おいおいおいッ! どんな魔法だよ、これはよォ!」
「あんな柔らかそうなモノなのに、一体どうやったら岩で出来たゴーレムがぶっ壊れるんだよ!?」
「り、理屈じゃねぇ……現象として確かに起こった……彼は、物理とか魔法とか、そんなモノの外側にいるのかもしれないな……」
「ふっ……俺の推しの前ではゴーレムなどただ大きいだけの木偶の坊だな」
瞠目する学院生の視線を浴びながら正平はクールに去った。
正平と入れ替わるようにして俺が前に出る。
正直、さっきのふたりみたいにあのゴーレムを圧倒できる能力もアイテムも俺にはないが、荷馬車で正平に聞いてヒントをもらった。だから俺にだって勝機はある。
最後の救済カードをポケットから取り出し、ペンであるアイテムの名前を記し、俺はそのカードを構えた。
「
カードがぽんっと白い煙を出して、グローブに変化する。全体的に黒いカラーリングで、拳を保護するように金属が埋め込まれたタクティカルグローブ。それを手につけながら、正平に破壊されたゴーレムが魔法陣に沈むようにして回収される光景を眺めた。
しばらくすると新しいゴーレムが補充された。光の円からせり上がって出てきたそいつは、思っていた以上に大きく感じる。大型重機を前にした時みたいな威圧感だ。
こんなの普通にちびる。おしっこ漏れる。超恐いとかそんな安っぽい表現では収まりきれない恐怖の塊が目の前にいるんだ。
だが今の俺はこれまでと一味違う。武人のような表情で冷静にアナウンスを待っていた。
『それでは試験開始』
「――ッ!」
開始の合図と共に俺はズボンを脱ぎ捨てた。
いや、ズボンだけじゃない。パンツさえその下半身にはなかった。けれど不思議なことに、俺の股間は大衆に晒されていない。分厚い雲のようなモザイクが、腰周りを完全に覆い隠していた。
(次回に続く)
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