第39話 ついに始まった魔法学院実技試験! その試験内容とは……

 それから間も無く荷馬車が止まり、御者をしてくれていたユーリさんに促されるまま学院に降り立った。


「おおすげぇー……雰囲気あるじゃん。さすが魔法学院」


 俺が見上げる先には、大聖堂と城を掛け合わせたような建造物がそびえていた。

 精緻な装飾のように凹凸や妙に角ばった外壁。十メートル程の城壁のような建物が校舎を囲み、そこから覗く外観に思わず目を見張る。


 無数に連なる円錐の塔に、その塔と塔を繋ぐ連絡通路が重なってひとつの巨大な構造物を造っている。さらには低めの塔の屋上や手前の四角い建物の屋上に木々が茂っている。いわゆる空中庭園というやつか? ここからじゃ庭園はよく見えないが、所々に植物をちりばめたその光景は、人工的な美しさの中に自然が合わさってファンタジーな雰囲気を醸し出している。


「ここに通うことになるのか……ふっ、今から楽しみだな」

「楽しんでいるところ申し訳ないのですが、先輩。まずは試験をクリアしないと入ることすらできませんよ」

「そんなことないだろ。試験受けるんだから、校舎に入るくらいはできるって」

「いや、試験会場はこっちの闘技場なんで」

「ホントにクリアしないと入ることすらできないのかよ……」


 フィーネが指差した円形闘技場に視線を転がし、俺は呆然と灰色の壁を眺めた。

 闘技場は校舎から数百メートルほど離れた場所にあって、今回みたいな試験や訓練に使われるらしい。きっとばんばん魔法が飛び交う広場なんだろう。

 魔法が使えない身としては羨ましい限りだが、そもそも魔法が使えないのに魔法学院に編入しようだなんておかしな話だ。絶対無理ゲーじゃん。


 などと俺が考えていると、程無くして闘技場に到着した。途中で「じゃあ、私たちは観客席に行ってますね」と言ったフィーネたちと別れ、中央広場には俺と正平、それにヒルデさんだけが入った。


 他に誰もいなかった。

 広場をぐるっと囲むように設けられた観客席にはちらほらと赤黒の軍服ワンピースや黒地に黄色と赤のラインの入ったジャケットが見て取れるが、俺たちの目の前は砂色の地面が広がっているだけだ。


『ただいまより編入試験を開始します。準備ができた人から中央に出てきてください』


 俺たちから向かって正面の下段。そこにある実況席のようなところや、背後、左右からアナウンスが響いてきた。壁を見上げると四角い模様が彫られていた。どうやら魔術的なモノで拡声器を作っているようだ。


「ヒルデさん、お手本を見せてよ」

「それはいいけど……私とかけるくんじゃ戦闘スタイルが全然違うから、参考にならないんじゃないの?」

「いいよ、参考にならなくて。相手がどんな奴か知るのが重要なんで」

「つまりは当て馬みたいに使うということだな」

「うん――って正平、思わず頷いちゃっただろ……! ヒルデさん違うから、当て馬だなんて。俺はただ確実に合格できるヒルデさんにまず合格してもらって、それで俺たちもイケる空気を作ってもらいたいだけで……」

「いいわよ当て馬でも。ここで相手の出方が分からない状態で戦って、アナタたちが負けるようなことがもしあったら企画的にも困るし」


 じっとりした視線を俺に送ると、ヒルデさんは踵を返し、優雅に中央へと歩んでいく。そしてぴたりと足を止めたところで、ヒルデさんの前に光の円が地面に描かれた。


「おお……! 魔法陣だ、異世界っぽい……!」


 俺は壁際で色めき立った。

 今までは、風の精霊の力を借りて弾丸を発射する銃とか、あらかじめ魔法を付与した銃弾を撃って魔法を発動させるとか、そんな構造的にはファンタジーでも銃という現代火器の見た目から異世界っぽさが薄かった。


 だがこの魔方陣からせり上がるように出てきているそれは、異世界っぽさの塊だった。

 大まかに人の形をした巨躯に、クリスタルで出来た単眼がはめ込まれた頭部。腕も足も丸太のように太く、拳はヒルデさんの上半身をすっぽり覆いそうなほど大きい。高さは五メートルくらいはあるか……ごつごつした表面といい無機質な外観といい目に映るものすべてが異質だった。



(次回に続く)


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