神界特別企画! 異世界に飛ばしてみた!~テレビの企画みたいなノリで異世界転移させられたかと思ったら急にバラエティ企画が始まったんだが……~
第38話 まぁその、なんだ。俺らってまともな異世界転移してないな……
第38話 まぁその、なんだ。俺らってまともな異世界転移してないな……
解せない。前にチート能力はないって言っておいてチート装備はあるとか詐欺だろ……、と俺がブツブツと言っていると今度は正平が訊いてくる。
「で、そう言うお前は何を書いたんだ?」
「ペンとフックだ」
「フック? んん? えっと、それ使うと何が起こるんだ?」
「殴られる」
「殴られるってお前、自傷でスキルを発動するタイプのキャラだったのか……?」
興味津々で訊いてきたかと思うと、信じられないと言うような顔で正平に目を見張られ、俺は居た堪れない気持ちで口を開いた。
「ちげーよ、普通に殴られるだけだよ……殴られ損だよ」
「ふはははっ。俺のカードを子供扱いしたくせに貴重なカードをそんなことに使うとか、なに異世界に来てまでウケ狙ってるんだコイツは」
「ホントそれ。ふふっ、いや~成瀬くんは面白いねぇ」
二人にひとしきり笑われ、俺の眉間に深い皺ができたころ、拓美先輩がふぅーと呼吸を整えながら真顔を作った。
「まぁ、フックはネタとしてアリだけど、ペンの方は一体どんな意図で用意したんだい?」
「いや、その書くものがなくて……だからまず最初に、ペンを選んで……」
「はぁ? だったらペンすらカードに書けないだろ」
正平の疑問に答えようと、俺は両手を擦り合わせるジェスチャーをしてみせた。
「その辺にあった葉っぱを擦って出た汁で書いたんだよ」
「そこまでして……街の集会所とかに行けば普通に書くものくらい置いてあるのに、馬鹿だなぁ」
「うるせぇ、正平にはわからねぇだろうよ。裸で異世界に転移させられた俺の気持ちは」
「どうしてそんなことになる? 俺、結構異世界モノのアニメ見てきたが、お前みたいな特異なケースは初めてだぞ」
正平にジト目を返されると、俺はどっと肩を落とした。
「そりゃ特異だろうよ。ラブホのバスルームから出てきたら突然黒服の巨漢に捕まって気が付いたら異世界の森の中だったんだから……クソ、騙された。俺の純情を返せよ……」
「なにが純情だ。ヤる気満々じゃねーか。純情じゃなくて欲情だ欲情」
「ふっはは! 純情じゃなくて欲情って上手いねぇ。けど、災難だったね成瀬くん。美人局に引っかかったかと思ったら転移って」
「もう俺のことはもういいから。それよりそっちはどうなんですか……?」
「俺の場合は、合コン帰りにレギィと飲み直そうと思ってバーに入ったんだ。で、レギィが『個室がいい』って言うから奥の部屋に入ったら、閉じ込められて。そしたら突然部屋中にガスが充満して、それを吸って俺は気絶したんだ。それからしばらくして目覚めると、異世界の路地裏に転がされていたよ」
「完全に罠じゃん。ダンジョンのトラップかよ……」
「ダンジョンなら宝箱とか置いてそうなシチュエーションだが、現実にはそんなものはないからやられ損だな」
面白おかしく拓美先輩に語られると、俺は苦笑いを浮かべ、正平もやれやれと首を振っていた。
ラブホ裏切り転移とは別方向で嫌な体験だ。閉じ込められてガスでって普通にトラウマレベルだろ。
「次は、俺だが……なんと言うか、合コンの後フリストちゃんと街中をぶらぶら歩いてたら急に『ごめんなさいごめんなさい、でもこうするしかないんですッ!』ってフリストちゃんが言い出して、俺が何言っても話が通じなくなって」
正平はそう言うと、ぷるぷると震えだした。
「それで気づいたら橋から突き落とされてた……あの時は死ぬかと思ったな」
「キチガイどころか完全に殺人未遂じゃん……」
「それシャレにならないねぇ。フリストちゃんって一番気弱そうだったのに、見かけによらずぶっとんだ子だったんだね……いや~俺の担当レギィでよかったよ」
九死に一生を得る的な話に俺が同情するように表情を曇らせ、拓美先輩も信じられないと言うように小さく首を振ってからほっと息をついた。
すっかり同情するような視線になった俺たちを尻目に、正平は伏目がちに言葉を続ける。
「で、橋から川に落ちたわけだが、普通に溺れて気を失った。だがどいうわけか、俺は死んでなくて、気が付くと川岸に倒れていたんだ。そこで周囲を見渡してみたら都会の景色が一変してヨーロッパ風の街並みになってた」
なんということだろう。一人はラブホ美人局転移。もう一人はバーで睡眠ガス転移。そして最後は川に突き落とされる殺人未遂転移。
こんなのあんまりだ。あの戦乙女ども、ろくな転移法もってないな。確か転移するには気絶させる方針とか言ってたけど……それにしても方法がずさんすぎる。
そう思うと、俺はがっくりと肩を落とした。
「まぁその、なんだ。俺らってまともな異世界転移してないな……」
三人でうな垂れて「そうだね……」とか「だな……」とか言って力なく頷き合った。
(次回に続く)
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