第37話 こんなチート武器見たことない!? 最強の○○!

「実技か……一体なにさせられるんだろう?」


 街に入り、石畳になった道を荷馬車から眺めながら俺は呟いた。

 試験を受けるのは俺とヒルデさん、それと正平だ。そして気になる試験内容はというと、学院が用意した練成生物を倒したりするものだという。練成生物はランダムで決められるから実際に対峙するまで分からないらしいが、なんでも戦乙女のヒルデさんならどんな相手でも余裕でクリアできる程度のモノらしく、正平も村での一件を見る限り大丈夫だとフィーネに太鼓判を押されていた。

 それとは対照的に俺の評価は散々だった。


『先輩は奇跡でも起こさない限り無理でしょうね』

『見せてくださいよ、奇跡。それともでまかせだった? 虚言癖の原住民さん?』

『村ではほとんど活躍できずに触手に叩かれてただけでしたもんねー』


 大変遺憾だがその通りだった。


 くそっ……言いたい放題いいやがって……あのメスガキ貴族、いつか泣かす。


 今思い出しても腹立たしい。ああいう大人を舐めたガキには、大人パワーで色々わからせ、屈服させるのがマナーだ。絶対に許さないぞ。いつかわからせてやる!

 俺は静かな決意を抱きつつ頷くと、荷馬車の中をざっと見回した。


 木箱に寄りかかって拓美先輩が座っていた。馬車の揺れに身をゆだね、ゆったりとくつろいでいる。それは拓美先輩だけ試験を受けなくていい余裕からくるものだろうか、それとも楽しそうなイベントがなくて退屈しているだけなのか分からない。

 そんな拓美先輩は、コックとして学院の食堂に潜入することになっていた。

 面倒な試験を受けなくて済むのなら俺も学院の職員は……なんか難しそうだから無理だな。でも警備員とか施設管理の仕事とかならできそうだし、そっちの方が調査するときに色々動きやすいだろ。わざわざ編入生になる必要なんてないんじゃね?


 そう思ってもすでに遅い。もう一時間もしないうちに実技試験とやらが始まる。

 準備が必要だ。このままでは確実に落第コースまっしぐらだから。

 俺はそうならないために重い腰を上げた。


「おーい正平。ちょっと参考にしたいんだけど、お前って救済カードになんて書いた?」

「ネットが繋がるスマホだ。ちなみにソーラー充電できるから充電が切れる心配はない」


 荷物脇に隠れて見えなかったが、どうやらスマホに没頭していたらしい。御者席後ろの日が当たる場所で正平がスマホを掲げて得意げに笑っている。


「お前異世界来てもスマホいじってるだけとか、いつも通りじゃん」

「当然だろ。こんな娯楽のない世界じゃこいつがないと生きていけないからな」

「まぁねぇ。で、二枚目はなんなんだよ。村で抱き枕みたいなの振り回してたけど、もしかしてアレか?」

「あ、それ俺も気になる。昨日聞いた時、迂闊に話したら敵に対策をとられる危険性があるからここでは話せません、って言われて結局教えてもらえなかったからさぁ」


 そこで拓美先輩も話に加わり、三人で円陣を組むように座った。


「ふぅん……もう淫魔も近くにいないようだし、いいか……」


 おもむろにポケットからカードを取り出し、正平がそれを俺の目の前に突き出してきた。


「俺は『最強の抱き枕』と書いた」

「いや、小学生かよ……! なんでも最強ってつければ強いと思うなよ」

「だが翔も見ただろ。俺のセイラちゃん抱き枕に蹂躙される植物人間たちを。つまり、馬鹿げた話だが、ある程度融通が利くシステムになってるってことだ」

「へー、いいなぁ。それだったら俺も『小火器(弾無限)』とか書けばよかったな」


 思わずくわっと腰を上げた俺に、神妙な顔で語る正平。それを見て苦笑した拓美先輩が、悩ましげに金髪の癖毛を掻いている。

 なんだろう。納得がいかない。拓美先輩みたいに銃と弾に分けて堅実に用意するよりも、僕が考えた最強設定みたいな頭の悪い意見の方が得をするなんて、やはり納得がいかない。

 そういう不満が胸の中にわだかまったところで、俺は口を開いた。


「つーか、なんだよ。対策をとられるとかなんとか言って、もったいぶったわりに最強の抱き枕とか……どうやって対策とられるんだよ」

「それは、抱き枕が最強であって俺自身は普通の人間だろ。当然相手によっては、反応する間も無くやられることもあるだろうし、抱き枕以外は無防備だ。不意打ちとかには対処できない」


 発想は子供っぽくても正平なりに分析していたらしい。



(次回に続く)

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