四章 ウィルヘイム王立魔法学院

第36話 金髪美少女貴族がぶっかけJKに……(安心してください、全年齢です)

 翌日、馬車の後部から見える空は、相変わらずの晴れ模様。

 草原の中を駆け、揺れる木製の荷馬車に腰を預けていると、だんだん尻が痛くなって俺は寝返りを打つように身じろぎした。

 それから布製の屋根をぼーっと見上げると、ふと昨日の村での件を思い出した。


 植物人間たちを根絶やしにした後、フィーネに正平を紹介した。抱き枕というヘンテコな武器を使う正平に胡散臭そうなジト目を送っていたフィーネだったが、植物人間たちの群れに飛び込んで無双した確かな実力と俺たちの友達だということもあって、この抱き枕の狂戦士もフィーネに雇われる形に話がまとまった。


 その後クリストフさんとユーリさんも合流し、村の探索が始まった。するとそこで、フィーネがあるものを見つけた。


『一番奥の、比較的大きな家……多分村長の家だと思うけど。そこにマントがありました』

『ん? いや、そんなもんどこでもあるだろ』

『いいえ、よく見てください。襟のところに蓮の花のエンブレムがついてるでしょ。それにこのマントのデザインは私が着ていたものと同じです』


 胡散臭そうに目を細める俺に、フィーネが植物人間にボタンを千切られた自分のマントを掲げてみせた。


『つまり、ウィルヘイム王立魔法学院の生徒か、その関係者がここにいた。もっと言えばその生徒が植物人間あるいは彼らの主である淫魔の可能性が高いってことです』

『へー学院ねぇ……というかお前のそれ、学校の制服だったのか?』

『そうですよ。ふふふ、可愛くてカッコイイでしょー』

『まぁ今は白い液体塗れだけどな』

『でも興奮しますよね、先輩。私知ってますよ。ぶっかけは男のロマンだって』

『ふっ。まあな』

『ちなみにこの制服。襟のエンブレムを付け替えれば、軍隊の高級士官用の軍服にもなります。先輩良かったですね、軍服ぶっかけプレイ後のフィーネちゃんが見れて』

『そんな制服ぶっかけA〇みたいなこと言うんじゃねぇよ。興奮するだろうが』

『ふふふ、こんなので興奮するだなんて変態ですねー。先輩が大好きなぶっかけ後輩美少女JKですよー♪』

『あの、近づかないでもらえますか? 青臭いんで……いやっ、ホントに臭せぇなんだこの臭い……ッ!? 植物特有の青臭さの中に独特の臭いが混じってるぞ……』


 ぶっかけJKは非常に魅力的な響きだが、実際目の当たりにすると臭くてしょうがない。植物触手のべっとりした体液が歩いているようなものだ。


 というか、異世界貴族のくせにJKってよく知ってるな。いや待てよ。女子高生って意味じゃなくてこの世界特有の略語なんじゃ。


 そう思って聞こうとした時には、フィーネはすっかり不機嫌な顔でむっとしていた。


『あーあ、なんですかその態度は。さっきはあんなに鼻息荒げて興奮するとか言ったくせにぃ。冷たくあしらうなんて許せない』

『いいから着替えてこいよ。もう安全みたいだしさ』

『その前に謝罪を要求します』

『えっと、まぁ確かに言い過ぎたよな。女子に向かって臭いとか……ごめんな』

『そんな口だけの謝罪なんていりません』

『じゃあどうしろって言うんだ?』

『ハグしてください。それで、今のは僕の失言だったよハニー、って臭いセリフを吐いてそのあと、自分のキモさに悶えつつお布団の中とかで丸まって後悔してください』

『じょ、冗談じゃねェ! それだと俺にも汚ねェ液体がつくだろうが……!』

『あっ、こらー逃げるなー!』

『ヒッ!? こっちに来るんじゃねェッ! そんなマーキングなんていらねェんだよ!』


 触手の体液塗れの金髪美少女が追いかけてくる。もうJKがこの世界でどういう略語になってるかなんてどうでもよくなった。

 その際、家の前でヒルデさんが『ちょっと早い気もするけど。学校編突入か……』とか企画の段取りらしきことを呟いていた。呑気なものだった。


 そしてそんなこんなで今に至るわけだが、今朝方フィーネはこんなことも言っていた。


『学院にいるかもしれない淫魔の調査をしたいので、先輩方にはこれから編入試験を受けてもらいます』

『はぁ? 編入試験……?』


 突然のことに俺が目を丸くしてぱちくりと瞬きしている間も、フィーネは人懐っこい笑顔を浮かべてくいくいと腕を引っ張ってきていた。


『さぁ、さっさと合格して私と一緒に学院生活をエンジョイしつつ、どこにいるか分からない淫魔に神経すり減らしながら、いつ犯されるか怯えながら生きていきましょうねー』

『そんな刺客に怯えながら暮すみたいな生活送りたくねぇよ……つか、なんで俺たちも通わなくちゃならないんだ。俺の職業、一応このビフレスト家の庭師なんだろ?』

『そうです。でも探すなら人数は多い方がいいでしょう』


 とのことらしい。

 まったく勝手なことだが、雇い主の要望なら引き受けるしかなかった。

 ただ編入試験というからには当然筆記試験がある。ヒルデさんの話によるとこの国の言語は会話なら問題ないらしいが、医療走査装置メディカルスキャナーで脳をいじっても調整が難しいらしく、読み書きの方はまだできないという。つまり問題を解く以前に字が書けないのでお手上げだ。絶対に落第する。


 そのことをフィーネに相談すると、試験は筆記試験と実技試験の合計点で合否が決まるらしく、仮に筆記が〇点でも実技が最高得点なら一発で合格できると説明された。



(次回に続く)

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