第35話 翔たちのピンチに現れた者の武器はヘンテコなものだった……

 くそっ、と俺は歯噛みし、自分の弱さを呪った。ぎゅっとライフルを握り、立ち上がっても前に足が動いてくれない。何度突撃したってきっと弾かれるから……無駄だと分かっていて飛び出す勇気がないから。

 そんな俺を嘲笑うが如く炎の壁の向こうで勝どきが上がっていた。


「上物だ! こいつをヘレナ様に献上すれば俺らも安泰だな!」

「でも小ぶりだな。金髪の小娘の方か。俺は銀髪のお姉さんがよかったな」

「ロリで上等! ミニマム最高! 食わず嫌いは下がってな!」

「追い詰められたフィーネちゃん! 非力な翔くんは一発食らって及び腰! これは勝負あったか!?」


 くそっ、このまま見てることしかできないのか……!

 俺は悔しさに顔を歪めながらポケットに手を入れた。

 救済カードはあと一枚残っている。こいつを使えばフィーネを救えるだろう。

 だが思いつかない。

 この状況を打開できるアイテムはなんだ? 奴らを効率的に倒せる武器は?

 正真正銘最後のチャンス。このカードは異世界で生き残るための切り札。もう軽はずみなアイデアやその場しのぎのモノに使っていいものじゃない。

 だから慎重に考えなくちゃいけない。でも現実は非情だ。考えれば考えるほど思いつかない。行き詰って、頭の中が真っ白になって、ただフィーネの身体に触手が這いまわるのを見ることしかできなかった。


「ヒィヤッ! ううっ、負けないッ、こんな触手にっ、なんて……!」

「は、早く決めないと。救済カードを何にするか……植物の触手が相手だから火炎放射器とかか? いやでもフィーネごと燃やしそうだし……」


 触手から距離を取り、ポケットに手を突っ込んだまま逡巡する。

 だがそこで、俺の迷いを吹き飛ばすような異変が炎の壁の向こうで起こった。

 兵士たちの困惑する声や怒声が響きだし、


「な、なんでしょう。炎の壁の向こうで何かが起こっています……!」


 ヒルデさんがそう言うと、ブンッという何かを振り回す音やそれに吹き飛ばされた者が地面や家屋に激突する音まで聞こえだした。


「な、なんなんだよお前は!?」

「気をつけろ! ヘンテコな得物だが、相当強いぞ!」

「なんてデタラメなパワーと柔軟性!? 俺らの攻撃が弾かれるぞ!」

「許さん! 触手は魔法少女の天敵だ! その事実を俺が打ち破る!」

「わけの分からないことを! これでも食ら――ヘブッ!」


 またブンッと何かが振るわれ、数人が一気に吹き飛ぶような凄い音がした。

 突然の奇襲に圧倒される兵士たち。その阿鼻叫喚な叫びに混じって聞こえてきた声に、俺は聞き覚えがあった。


「ま、まさかこの声って……」

「お前ら触手は魔法少女を捕らえ、犯してきた! 俺は忘れないぞ! エロ同人でセイラちゃんにした悪逆非道の数々を! その罪を今ここで償ってもらう!」

「知らねぇよ! 誰だよセイラちゃんって――ぐァ!」

「これはとんだとばっちり! わけも分からず制裁を受け、次々と吹っ飛ばされる植物人間たち!」


 ヒルデさんがそう言った直後、吹っ飛ばされた植物人間が炎の壁を破って俺と拓美先輩の間に抜けていく。そしてまた、ブンッと振るわれた得物によって炎の壁が切り裂かれた。


「やっぱりお前か……」


 俺の視線の先には、なぎ倒された兵士たちの中に正平が立っていた。見慣れた藍色の癖毛にクールな瞳。合コンの時に着ていたシャツのボタンをすべて開け、フリフリの衣装を着たピンク色の髪の魔法少女を見せつけるようにさらけ出している。

 そのプリントTシャツだけでも異世界の村には似つかわしくない出で立ちだが、たった今炎の壁を切り裂いた獲物はさらに似つかわしくない。

 大まかに四角くひょろ長い長方形。柔らかそうなクッション生地。表面にはTシャツと同じセイラちゃんのプリント。

 抱き枕だった。それがどういう物理現象をもたらしているのか知らないが、さらに数人の兵士たちをぶっ飛ばし、数メートル先の炎上している家屋に叩き込んだ。


「ここで登場したのは、抱き枕を極めし者ピローマスター佐久間正平さくましょうへいくんだ! 植物人間を魔法少女の天敵と認め、推しを護る狂戦士と化しています!」

「ひぐっ! 痛ァ……なんでか知らないけど、助かったぁ」


 正平が兵士たちを倒したことで拘束が解け、触手から落とされたフィーネが尻餅をついてほっと息をついている。だがすぐに村の中央で暴れている抱き枕の狂戦士が目に入ると、マジックガンを構えた。


「反撃します! 淫魔どもを根絶やしにして!」


 フィーネ指揮の元、俺と拓美先輩が射撃を加え、近接戦では正平が敵陣をかき乱す。ここからは俺たちに優勢で、前衛と後衛に分かれて効率的に敵を倒すことができた。

 そうして淫魔に支配された村は浄化されたのだった。



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