第33話 植物系パニックヴィレッジ開幕!

「こ、こいつら普通じゃない……ッ! 根絶やしにされるぞッ!」

「農場の奴らを出せ! 敵は少数だ、物量で圧倒しろ!」

「よしゃ! 今に見てろ、引っ捕まえたら陰部はもちろんのこと、髪先までねっとり責めてやる!」

「おう! そのあとは苗床にして、赤ちゃん製造タンクにしてやろうな!」


 なにやら村人たちが色めき立っている。

 何人かが左手の道を駆け回り、その場に残った十数人は散り散りになって燃え盛る家屋の脇に逃げていった。


「何か仕掛けてくるようです。恐らく、先日襲って取り込んだ王国軍の兵士たちをけしかけてくるのでしょうが、翔くんたちの攻撃を受けた直後でのこの様子……きっと植物人間たちは勝算があるのでしょう。これは不味い! 早速ピンチ到来か!?」


 なんてヒルデさんが言うものだから、俺の背筋に緊張が走っていた。


「ど、どうする? なんか奴らの本隊が来るみたいだけど……」

「私たちがやることに変わりはありません。殲滅です。一匹残らずの殲滅です――っていうか、さっきからどうしたの? なんかヒルデさん、喋ってるだけで何もしてないんですけど」

「気にするな。あれもワルキューレの仕事の一環だ」

「そうそう。お仕事中だから邪魔しないようにね」


 俺と拓美先輩がそう言うと「まぁいいですけど……さすがにこっちがピンチになったら手を貸してくれるだろうし」と言いながらフィーネはみんなを見渡した。


「私たちが囮になって敵を引き付けるから、クリストフとユーリは側面に回り込んで攻撃を。数が多くても二方向から囲むように燃やしちゃえば敵陣は瓦解します」

「ええ、そう致しましょう」

「では行ってきますね、お嬢様」


 二人の従者が右に回り込むように駆け出した。


「残りの人たちは私と一緒に中央広場で迎撃の準備を」


 フィーネの指示に従って俺は「おう……!」と気合を入れてライフルに新しいクリップを装填する。拓美先輩も救済カードからたっぷり弾薬の詰まったボックスマガジンを転がして備える。そしてヒルデさんはドローンに撮影の指示を出しているのか「俯瞰でも撮って」と手を振るっていた。


 それから少しすると、左手から地鳴りのような足音が響きだし、赤々と燃え、黒い煙が立ち込める道から怒涛の勢いで男たちが雪崩れ込んできた。


「おっと! 凄い数です……! 軽く百人は超えています! このまま私たちはあの物量に押しつぶされてしまうのでしょうか……!」


 ヒルデさんの実況が軽快に響く先にいるのは、黒いナポレオンジャケットにフリフリなネクタイという昔の騎兵隊スタイルの兵士たち。いかにもマスケット銃が似合いそうな感じだが、両腕を緑色の触手に変化させ、ゾンビ映画さながらの勢いで迫ってくる様は恐怖を可視化したような恐ろしさがあった。

 そんな彼らの足元に向け、拓美先輩が機関銃を薙ぐように振るって撃った。先頭の十数人がそれで転び、彼らに躓いて後ろの連中も派手に倒れた。


「ナイス!」


 フィーネが嬉々として転んだ連中にマジックガンを向け、蹲った彼らを燃える絨毯に変えていく。意外にも村の広場に溢れかえった兵士たちを押さえ込めている。


「拓美くん&フィーネちゃんのコンビネーション射撃が決まった! 敵の物量とこちらの弾幕が拮抗しています!」


 ヒルデさんがそう言っているが、その拮抗も長くは続かない。押さえていてもやはりこぼれ出る奴らはどうしてもいる。撃ち漏らしたそいつらが確実に距離を詰め、それをフィーネが倒す。そうやって出来たわずかな猶予だ。


「くそっ! 弾切れだ! リロード、援護カバーしてくれ!」


 だがその猶予も拓美先輩の声ひとつで崩壊した。

 機関銃の射撃が止んだ途端、兵士たちが一気に押し寄せる。俺もエレメントライフルのクリップが空になるまで撃ったが足止めにすらならない。圧倒的物量。牙を剥き、ゾンビのように群がってくる暴力の権現。これにはさすがのフィーネも無駄と悟って銃口を下ろすしかなかった。


「ひィィィっ! 来る、来るよヒルデさん! アンタの出番だッ!」

「そうでもないわよ、ほら」


 へっぴり腰で喚く俺に、冷静な調子で顎をしゃくるヒルデさん。その優しげな視線が向いている方を辿ってみると、フィーネがマジックガンをもう一丁取り出していた。

 素早く三発だけ撃った。その銃弾は一定の間隔で地面を穿ち、瞬く間に炎上した。

 高さにして三メートル強といったところだろうか。中央広場の一角に炎の壁が出来た。


炎魂の揺壁ファイヤーウォールの魔法を込めた魔弾です。これで奴らの進行は妨げられました。そしてこれを合図にして――」


 右方向から銃声が響き、炎の向こう側で村人と兵士たちの悲鳴が轟く。


「クリストフたちが挟撃します。このまま炎の壁で挟んで焼き尽くしましょうかねぇ」

「財力の炎です! 高価な魔弾を使ったファイヤーウォールで一網打尽にしました!」


 めらめらと燃える炎の音が聞こえる中、フィーネとヒルデさんの声が頼もしく響いた。その間に拓美先輩がコッキングレバーを引いてリロードを終えた。


「便利なものだねぇ。おかげでゆっくりリロードできたよ」

「でもこの炎の壁、向こうの様子が見えないからそんな便利って言うほどでもないんですよねぇ。まぁ近づかせないために使ったから別にいいだけど」

「見えなくても適当に拓美先輩のマシンガン撃ちまくれば倒せるだろ」

「んー、確かにあの銃なら効率的に倒せそうですねぇ……」


 俺の言葉に可愛らしく小首をかしげて考え込むフィーネ。だがそこで、ゴゴッと地面が揺れた。



(次回に続く)

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