第31話 人類の天敵、淫魔とは一体……

「全然話は聞けなかったけど、収獲はありましたね」

「化け物ってのは、ぱっと見ただけで分かったけど……なんなんだこいつ。モンスターか?」

「淫魔に取り込まれた哀れな被害者です。識別名は植物人間。ただの低級淫魔ですね」


 焼死体から目を逸らし、出口の方へ歩みだすフィーネに俺が訊ねると、そんな説明が返ってきた。

 だがぴんとこない。俺は気になってフィーネに聞き返す。


「インマ……? え、それってなに? モンスター?」

「そんな簡単に殺せる優しい生き物じゃありませんよ。淫魔は人類の天敵。淫らな魔物です。人の性を絞りとって強大な力に変えるふざけた存在。さっきのおじさんは使役されてただけのザコだったけど、あれでも一度捕まれば嫌というほど体中をしゃぶられ、孕ませられて苗床ルート確定ってヤバい相手だったし」

「こ、この世界には、そんなけしからん敵がいるのか……」


 淫魔の死体を見つめながら俺は呟いた。

 剣と魔法とモンスターなファンタジー世界を想像していたが、実際は魔法銃で淫魔がヤバいエロファンタジーだったなんて……。

 呆然と立ち尽くす俺の脇を抜け、ヒルデさんと拓美先輩を従えてフィーネは外に出る。慌てて俺も付いて行くと、フィーネと一緒に馬車に歩み寄った。


「ここの住人は淫魔になってたよ。村外れで淫魔が出たってことは恐らく村はすでに全滅してる。最悪兵士たちも植物人間でしょうね。予想される敵戦力は、およそ五百ってところかな。クリストフ、村を根絶やしにするから、大口径の魔弾をありったけ用意して」

「かしこまりました。焼き討ちに致しましょう」

「お前ら極端すぎるだろ。まだ村に入ってもないのに全部燃やすみたいなことを。仮にやるにしても村の様子を見てからでも遅くねーだろ……」

「相手は淫魔ですよ……? 何をそんな甘いことを……一匹残らず殺さなきゃならないでしょ。奴らの繁殖能力は害虫並み。数日で数百、数週間で伝染病のように爆発的に増え、早ければ二、三ヶ月で小国だって滅ぼせるほどに膨れ上がります。兵士たちと連絡が取れなくなって数日は経ってますから余裕で村は淫魔の巣窟になってますよ」

「そ、そうか……」


 聞き分けのない子供を諭すようにフィーネに言われ、俺は苦い顔を作った。

 ゾンビ映画みたいな話だった。国を滅ぼせるレベルまで増えるとかモンスターの被害なんて目じゃない。それなりの装備を持った人なら奴らを倒すことはできても、一般人じゃ一溜まりもないだろう。国民がどんどん淫魔になって、戦闘員を支援する者たちがいなくなって戦線を維持できない……そんなシナリオが頭に浮かぶ。


「じゃあ村に入ろっか。みんな行くよー」


 腰のポーチに魔弾の詰まったレンコン型のスピードローダーを補充し、フィーネが軽い調子で手招きした。

 クリストフさんが腰に剣、脇にライフルを携え、ユーリさんも服の上から予備の弾薬を入れたベルトポーチをつけて二丁のライフルを背負って馬車から降りる。ふたりとも燕尾服とメイド服を着ているとは思えないほど物騒だ。


 拓美先輩はMP7からより殺傷能力が高い軽機関銃に救済カードを変化させ、ヒルデさんはこの一振りさえあればいいと言うように細剣の柄に手を置いている。

 みんな臨戦態勢だ。これからさっきの植物人間と戦うのか……しかしあの口から出てきた触手みたいなヤツ。あんなのを飛ばされたら反応できずに即捕まるか貫かれるかして終わりなきがするが……まぁ距離を取ればいいか。遠くから撃って援護してやろうかな。

 などと考えながら道に沿って歩むフィーネについてく俺だったが、地面に落ち葉が目立ちはじめると警戒するように目を細めた。


「止まれ」

「どうかしました? まさかここに来て恐くなったとか? いいんですよ、一番後ろで牽制射撃だけしてくれれば――」

「違う。そこの道、なんかちょっと変だ」


 フィーネに首を振ると、俺は先頭に立った。

 枯葉には誰かに踏まれた形跡はない。だが不自然に盛り上がった箇所がいくつかある。俺は首を捻りながら手近にあった小枝を拾って、その盛り上がりを突いてみた。

 すると、カチンッという金属音が響き、虎バサミが勢いよく口を閉じた。


「さすが原住民。よく気づきましたね」

「そりゃどうも。でも、俺からすると電気もガスもないお前らこそ原始的だぞ」

「ふーん、私たちが原始的かぁ。なんか色々物知りだし、原住民さんのことこれから先輩って呼ぼうかな」

「なんでそうなる」

「原住民じゃ、私も呼びにくいって思ってたんです。だからちょうどいい機会じゃないですか、先輩♪」

「もう好きにしてくれ……」


 ご機嫌な様子のフィーネに俺はやれやれと首を振った。こいつ……異世界貴族のくせに、先輩呼びとか気さくな性格と合わさって学校の後輩感がさらに強くなってきてるぞ。



(次回に続く)

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