第30話 金髪メンヘラ美少女VS植物人間 エッチなモンスターは八つ裂きです!

「…………出ないですね」


 ドアノッカーをコンコンとしてからフィーネがそう言うと、ひと足先に馬車から降りていた拓美先輩が丸太小屋の窓を覗き込んだ。


「暗いねぇ……でも奥にぼんやりと灯りが見えるから誰かいると思うよ」

「そうですか……あ、開いている。お邪魔しまーす」


 ドアをノックしても反応がないのをいいことに、フィーネがずかずかと上がりこむ。その無遠慮な肩を俺は咄嗟につかんだ。


「お前、勝手に入ったらまずいだろ」

「いいんですよ。田舎は鍵かけないのが常識みたいだから、こうやって直接訪ねるのが正しい作法なんだし」

「まぁ、こんなところで待ちぼうけじゃ仕方ないしねぇ」


 溜息混じりに言うフィーネに頷くと、拓美先輩は脇に携えた短機関銃のグリップを握った。

 サプレッサー付きのMP7だ。なんでも拓美先輩は救済カードに『小火器』と書いたらしい。それによって拳銃などの小さい物から機関銃やグレネードランチャーのような大きいものまで、個人で扱える火器すべてに変化するカードになった。しかも二枚目のカードに『弾薬』と書いたことで、異世界でも撃ち放題ときた。


 なにそれズルい! 俺もちゃんとした武器が欲しい!


 そう出発前にヒルデさんに不満をぶちまけたら「言ったじゃない。どんなモノにでもなれるって。よく考えないで使った翔くんが悪いわ。これに懲りたら救済カードを無闇に使わないこと。いい?」と言い含められた。

 だからだろうか、最後に残った一枚を使うのが恐かった。

 俺とヒルデさん、それにフィーネと拓美先輩の四人で奥のリビングまで行くと、暖炉の前の椅子に四十前後の男が座っていた。


「あ、なんだ。いるじゃん。あの、おじさん、ちょっとお時間いいですか?」


 暗い表情で俯いている男にフィーネが近づく。


「数日前に兵隊がここを通ったと思うんですけど、知りませんか?」

「お嬢さん方。旅の者かい?」

「そうですね……まぁそんなところ、かな?」


 フィーネが小さく頷きながら足を止めると、


「いけないな。まだ学生だろ? 学生がこんな辺鄙なところにくるなんて、危ない。それに無防備に近づいてこられたら、これじゃあ……」


 おもむろに立ち上がり、男がフィーネに向かって不気味に笑った。


「ヤってくれって言っているようなものじゃないか――ッ!」


 男が口を大きく開ける。するとそこから長い触手のようなモノが飛び出してきた。


「……ッ!」

「下がって!」


 咄嗟に飛び退くフィーネと入れ替わるようにして、ヒルデさんが前に出た。

 一閃。目にも止まらぬ細剣が触手を裂き、バサッと切り捨てた。男がよろめき、痛みのあまり身体を痙攣させる。


「ウッ、グギャアァァァァァァァァァ――――――ッ!」

「このっ」


 懐からリボルバーを引き抜き、フィーネが男の胸に向かって銃弾を放った。不思議なことにその弾は着弾後、男の身体を焼く火の玉となって燃え上がった。


「アッアッアッ――――うう……ッ」

「どうです? マジックガンの威力は」

「よ、容赦ねぇな……」

「うん、やるねぇ。うちの女性陣は殺意が高い」


 丸焼けになって力尽きる男を見下ろしつつ油断なくマジックガンを構えるフィーネに、俺は引きつった笑みを向け、拓美先輩もヒューと口笛を吹いて同意した。

 完全に相手が丸焦げになって死んだのを確認すると、フィーネはマジックガンをホルスターに仕舞った。

 実際にマジックガンが発射されるのをはじめて見たが、まさに魔法のような現象だった。銃で撃たれたのに引火性の高いオイルを浴びせられて火をつけられたみたいに燃え、さらに不思議なことに床にも椅子にも引火しなかった。

 その秘密は銃弾にあった。魔石が埋め込まれた弾には、あらかじめ魔法の基礎式が込められている。それによって、無詠唱かつ超スピードで魔法を放てるという理想的な発動法を確立していた。ただこのマジックガンは非常に高価で貴族と一部の士官の人間しかもってない、と出発前にフィーネが自慢してきたが、実際見ると結構エグかった。



(次回に続く)

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