第28話 束縛系美少女貴族と虚勢で乗り越える男子大学生のやり取りが面白い!

「じゃあ本題に入りましょう。昨日、女王陛下からお達しがありました」


 そういえば大事な話があると言っていたが、これのことだろうか。

 俺がそう思っている間も、フィーネは滔々と言葉を紡ぐ。


「兵員増強のために国境近くの砦に向かっていた銃騎兵小隊および歩兵中隊からの連絡が途絶えたそうです。そこで私たちは、国境付近を調査し、彼らを襲った奴らを殲滅しなくちゃいけないんですよー」

「そうか。そりゃ大変そうだな」

「なに人事みたいに言ってるんですか? これはここにいる全員の問題です」


 ゆったりと構えて聞き流していると、フィーネがじっとりとした視線を俺に向けてきた。それがどうにも納得できなくて、俺は即座に首を横に振った。


「いや明らかに非戦闘員だろ、ここにいるの。お前貴族なんだから私兵とか使えよ」

「私の領地ってそれなりに広いですけど、ほとんどが未開の山とか森ばかりなんです。だから、領民の大半は開拓民や農民、それと商人ばかり……兵力と呼べるものは、最低限領地を守るために編制された二個歩兵中隊だけです」

「なんだよ。私兵は動かせないのかよ」


 俺の不満げな声を聞くとフィーネは「はい」と頷いた。


「それでよく領地を守れてるな……」

「ええ。まぁお金ならあるから有事の時は適当に傭兵団雇って、後方支援に農民を駆り出せばそれなりに戦えるものなんですよ」


 呆れ混じりに言った俺の言葉に、フィーネは誇らしげにふふんと胸を張って答えた。それからヒルデさんに視線を向け、形の良い唇をご機嫌な様子で小さく吊り上げる。


「それに今はワルキューレの血を引く者が使用人になったから、戦力的にはこれまでの倍以上です」


 ワルキューレの血を引くどころか純正のワルキューレなのだが、そんなことより戦力的に倍以上ってところに俺は驚いた。


「え、なに? ヒルデさんってそんなに強いの……?」

「えぇ。それなりに鍛えてますから。剣術だけだと……千人くらいなら相手にできるわ」

「それなりで千人とか、ヒルデさんマジパネェっす」


 あまりにぶっ飛んだ戦闘力に思わず不良の舎弟みたいなテンションになった俺。そんな俺の言葉を補足するようにフィーネが「そう。彼女は凄いんです」と言ってティーカップをテーブルに置いた。


「ワルキューレの血を引く者は聖女や貴族、果ては女王陛下になれるほど貴重な存在なんです。その戦闘能力は個にして群。筋力や耐久力、そして俊敏性は人間の限界を大きく上回り、魔力適正もAランク以上。さらに自然治癒力もずば抜けてます。銃で撃たれても数分で治癒しますし、まさに英雄的スペックですね」

「お前、そんな超人みたいな奴をおっぱい係にしようとしてるのか……」


 開いた口が塞がらない。

 ヒルデさんのヤバいスペックを語っているが、今さっきなんて秘書だのおっぱいだの言っていたフィーネ。その欲望に正直なのか豪胆なのかよくわからないフィーネの態度に、俺は馬鹿みたいに口を開けていた。


「そっちこそ、付き人だって言ってたじゃないですか。原住民にはもったいなさすぎますよ」

「事実、付き人なんだからいいだろ」

「へー、じゃあこんなに凄いワルキューレを従えてる原住民様は、一体なにが出来るんですか? なんか奇跡が起こせるとか言ってたけどー」


 思わぬ反撃に俺は「うぅん……」と眉根を寄せて口をつぐんだ。

 何ができると言われても……サバイバルの時に使っていた粗末な槍は馬車に乗る際に捨てたから今はほぼ丸腰だ。戦力的には殴る蹴るしかできない成人男性一人分。救済カードだって『ペン』と『フック』だけだ。ペンの方は、どこからともなく取り出すというマジックに使えそうだが、所詮宴会芸のしょぼいマジックだ。やったらやったで絶対馬鹿にされる。もうひとつのカードは、ただの自傷行為みたいなものだし、どうしたものか……。

 俺は悩んだ末、ミステリアスな笑みを浮かべた。


「秘密だ」

「えー、もったいぶらないでくださいよ。使用人が何をどれほど出来るか把握しておかないと、いざという時困るじゃん」

「それは一理あるが、奇跡というものはそうほいほいと出せるもんじゃねぇんだよ」


 俺がそう言うと、夕焼け色の瞳がつまらなそうにそっぽを向いた。


「ふーん。そんなに教えたくないんでしたら別にいいですけど……あ、そうだ。じゃあ実力は実戦で見せてもらおうっと」

「おい、なんだよ実戦って」

「はいはーい、みんな支度してー。夕方には調査に出るから」


 完全に俺を無視し、フィーネがその場にいる全員に指示を出した。


「ねぇユーリ。そこの原住民さんにちゃんとした服着せて。あと二人に適当な部屋を用意してあげてね」

「かしこまりました、お嬢様。お二人ともこちらへ」


 ユーリと呼ばれたメイドが、俺とヒルデさんに向かって手振りで廊下に出るように促してくる。実戦とか不穏すぎる単語に少々思うところがあるが、服をくれるというのならひとまず保留にしてありがたく受け取ろう。

 俺は立ち上がり、目の前で揺れ動くユーリさんの深緑の髪を追ってヒルデさんと一緒に館の中を案内されるのだった。

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