第27話 異世界であの人と再会!? 不安が一気に消えてくる!

 それからしばらくすると、不意にドアが開いた。


「お嬢様、お待たせいたしました」


 入ってきたのは先ほど別れた執事のクリストフさん。ティーセットが入ったカートを押し、ソファー横に来ると優雅な所作でお茶の準備を始める。その燕尾服の後ろをついてきたのは二人の若者。一人は、深緑のような落ち着いた色合いの髪を後ろで細く結った可愛らしいメイドの少女。そして最後に入ってきたコック風の格好をした青年を見た瞬間、俺は目を見開いた。


「たッ、拓美たくみ先輩……!」

「お、成瀬なるせくんじゃん。君もこっちに来てたんだね」


 まるで街でばったり会った時のリアクションだった。

 だが安心する。このフレンドリーな笑顔に見慣れた金髪のゆるいパーマ。合コンで別れたっきり会っていない――いや、こんな世界に来てしまったから二度と会えないと思っていたのに、俺の目の前で気さくに「よっ」と片手をひらひらさせている。。


 拓美先輩もこの世界に転移してたんだ……よかった。俺一人じゃなかった。

 こんなに嬉しいことはない。見知らぬ土地で頼れる相手と言えば、怪しげな企画を進行するヒルデさんだけ……しかも運よく貴族の使用人になれると思ったら主はメンヘラ鬼畜サイコ娘。もう面倒な毎日が待っていることが確定しているような状況だった。


 でもそんな矢先、頼もしい先輩が現れたんだ。

 俺は喜びのあまりソファーからばっと立ち上がった。


「やった……! 他に飛ばされた仲間がいたなんて、俺ビックリしましたよ」

「俺も驚いたよ。というかなんだい? その格好は」

「いや、これには色々ありまして……」


 ブランケットからはみ出した腰蓑に苦笑を向ける拓美先輩だったが、異世界に飛ばされた俺と似た境遇にあるから察したのだろう。同情するように頷いてきた。


「君の方も大変だったようだね……ま、こんな嘘みたいな企画に選ばれる人間が他にもいたなんて心強いじゃないか。しかもそっちはワルキューレ同伴とか、やるねぇー成瀬くん。散々ごねてガイドでもさせているのかい?」

「いや、別にごねてませんけど。なんか想定していた通りにいかないとかで直接案内されることになったんですよ」

「いいわね、レギィの方は。ちゃんと指示通り動いてくれて」


 拓美先輩と話していると、ヒルデさんが溜息まじりに口を開いた。

 レギィと言ったが、あの合コンで一緒だったクール美人のことか……まさかレギィさんも戦乙女で、向こうは向こうのコンビとして行動しているのか?

 そこのところを拓美先輩に聞いてみると明るい声音が返ってきた。


「そうそう。で、まぁ色々あって、今はここで料理長してるんだ。けど、料理長といってもコックは俺一人なんだけど」


 ソファーに腰を落ち着けつつ、部屋にいる使用人を見てみると確かに白いコックコートを着ているのは拓美先輩だけ。あとは、執事とメイドが一人ずついるだけだ。こんなに広い屋敷なのに使用人がこれだけしかいないなんて少し変な気もするが、そもそもこのくらいの屋敷にどれくらいの使用人がいるのが普通かなんて庶民の俺には見当もつかなかった。


 だからひとまずその疑問は脇へ追いやり、俺はフィーネの方に向き直った。

 クリストフさんが用意した紅茶をテーブルから持ち上げ、優雅にティーカップを傾けてからフィーネが小さく首を傾げた。


「二人は知り合いなんですか?」

「あぁ。学校の先輩と後輩だ」


 俺が頷くと、フィーネは思案げに視線を巡らせた。


「へー……まぁでも、名前の響きが二人とも独特ですし、同郷っぽい感じがしますよね。いかにもよそ者って響き」

「確かに……よそ者感あって目立ちそうだな。もしかしてこの国って移民には厳しいとか?」

「そんなことないと思うよ。俺も、市場に行ったけど店主たちはみんな気さくに接してくれ――」

「はーい。じゃあ全員揃ったことだし、新しい使用人たちを紹介しまーす」


 拓美先輩が言い終わる前にフィーネがやんわりと仕切りだした。


「秘書のヒルデさんと、えーと……なににしようかなぁ。あ、庭師でいいや。庭師の原住民さんでーす」

「紹介が雑な上に原住民呼ばわりとか、悪意しか感じないんだが……!」


 不満げに眉根を寄せ、俺が思わず食ってかかると、フィーネはふるふると静かに首を横に振った。


「そんなことありませんよ。自然に生きる原住民にピッタリじゃないですか。庭師が適任ですよ。それに私あまり我慢しないタイプなんで、本当に嫌いな相手を傍に置いたりしませんから」

「なんかお前が言うとめちゃくちゃ説得力あるな」

「ふふん、そうでしょー♪」


 まるで褒められたみたいに上機嫌なフィーネ。別に褒めたわけじゃないが、いちいち訂正するのも面倒だ。俺は半ば諦めたようにそっと息をついた。



(次回に続く)

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