第26話 異世界の魔石は浮気調査アプリみたいに使えるようです

「言っときますけど、ここでは使用人同士の恋愛禁止です。ですからイチャつかないでください。会話も必要最低限でお願いします。あと過度なスキンシップはもってのほか、厳禁です」

「メンヘラ女並みに面倒くさいじゃん……」

「ホントにね……」


 苦笑する俺にヒルデさんも似たような表情で頷いた。

 それを目ざとく捉え、俺は含み笑う。


「あれ? フレンドリーで良い子じゃなかったの?」

「いや、それは……」

「やっぱりヒルデさんもメンヘラ鬼畜サイコ娘だって思ってるじゃん」

「そこまでは思ってない、思ってないけど……だってしかたないじゃない。私これでも企画部部長で、責任ある立場なのよ。しかも一番有名な戦乙女で、それなりの名声があるのに……それがここじゃ、風俗一歩手前のおっパブ嬢みたいな扱いになるなんて……」


 冗談じゃないわ、と整った顔に不満げな色をのせて感情を吐き出すヒルデさん。なんだかキャリアウーマンな女部長が水商売に落ちるA〇みたいな落ち込みっぷりだ。

 だがフィーネが感情の整理をする暇を与えてくれるはずもなく、無遠慮に首を突っ込んできた。


「あの、二人だけで勝手に盛り上がらないでくれます?」

「別に盛り上がってねーよ」

「そうよ。どちらかと言うと盛り下がってるわ……」

「まぁそんなことより、二人には私に位置情報を知らせてくれるこの魔石を身に付けてもらいます。ちなみにこれ、対象の興奮度合をリアルタイムで計測できたり身に付けた者の周囲の音声を届けてくれたりしますから、こっそり女を連れ込んで私の屋敷をラブホ代わりにパコパコしても即バレですよ?」

「何その魔石、浮気調査アプリより本格的じゃん。興奮度合モニタリングとかおちおち勃起もできねぇじゃん……ってかラブホって、まさかこの世界にもあるの……?」

「ラブホ?」

「いや、何で首かしげてんだよ。お前が言ったことだろ」

「え……私、そんなこと言いましたか……?」


 変な間があった。

 だがフィーネの様子はとぼけているものではなく、本当に知らない感じでぼんやりとしている。おかしい……たった今自分が言ったことも忘れるなんて普通ないだろう。

 そう思って隣のヒルデさんにも確認したが「聞き間違いなんじゃない……? ほら、矢継ぎ早に言われたからきっと勘違いしたのよ」という答えが返ってきた。


 いや、でも確かに聞こえた。聞き間違えなんかじゃない。そもそもラブホをどう聞き間違えたら別の言葉になるのか見当もつかないだろ。なのになぜ、ヒルデさんはそんなこと言うんだ?


 顔を逸らし、窓の方を向いたヒルデさんに、俺は疑心の視線を送った。


「とにかくです……!」


 ソファーの前に置かれたローテーブルに両手をつき、フィーネが前のめりになって俺を見上げてきた。金髪のミディアムがはらりと頬に流れる。


「もしこの屋敷でそういうことをしたら、一週間貞操帯をつけてもらいます。男の人は三日に一発射精しないと股間が爆発すると聞きますが、一週間だと二度爆発しますね。ざまあみろです。節操なしなへこへこワンちゃんの末路にはピッタリですね」

「男の身体はそんなオモシロ体質じゃないんだぞ……まぁ性欲って意味なら爆発はするけどな」


 そう言うと、もうラブホの件はどうでもよくなった。なにせこの貴族っ、さっきから下ネタを平気で言っている。貴族と言えば、上品、清楚、気高い、とかの塊のような生き物だろう。それなのにコイツときたらギャルJK並みに下品な話に耐性がある。見てくれは上品なお嬢様でも、中身はフランクなJKなんだろう。

 そのギャップに俺が、なんなんだコイツは……貴族のくせに妙に話しやすいぞ、と心の中で困惑した。



(次回に続く)

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