第25話 原住民系転移大学生と金髪美少女小悪魔貴族のコミカルな会話魅力!

「適当にくつろいでてください。自分の家だと思って」

「ええ、ありがとう」

「自分の家か……この部屋だけでも俺の家のリビングとキッチン合わせたより広いぞ」


 フィーネに促されるままヒルデさんと一緒に二人掛けのソファーに俺は腰掛けた。その際、薄っすら汚れた腰蓑がクッションにつかないようにブランケットをぐっと伸ばしてガードした。


 もし汚したらあとが恐い。こっちは無一文なんだ。弁償なんてできない。土埃ひとつが命取りだ。絶対に汚すわけにはいかん……!


 などと俺が細心の注意を払って固まっている横で、ヒルデさんが小声で「ねぇ……」と話しかけてきた。


「あのね。今、ふと思ったんだけど、これって『あなたの家を紹介させてもらってもいいですか?』っていう感じの企画に使えない?」

「いや、その番組ならもうあるし、なんなら紹介どころかもう使用人になったんだよ?」

「それじゃあ『家の紹介ついでに雇ってもらっていいですか?』ってことね」

「斬新すぎる……!? それ、絶対人つかまらねぇよ。どこぞの社長でもないかぎり」

「ふふっ、でも貴族ならつかまえたわ」

「まぁそうだけど……」

「なにこそこそ話してるんですか?」


 対面のソファーにぽすんと腰を下ろし、フィーネが小首をかしげて訊いてきた。

 下手に嘘をつくのは不味いが、本当のことを言っても信じてもらえるはずもない。だから、こっちの話だ、と意味深に含み笑うだけにとどめる。


「えー、私も混ぜてくださいよぉ。何だか面白そうな匂いがぷんぷんしますし」

「こいつ、なかなか鼻が利くな。見世物企画だから面白くて当然だし……」

「見世物企画? 内容は? どんなことするの?」

「世間の晒し者になって不特定多数に笑われる催し物的なヤツだ。ちなみに俺の場合は、裸にむかれて散々笑いものになった挙句にガタイのいい男にぶん殴られてお開きだ」

「なにそれ、酷い……」


 ちょっと引き気味で小さく首を振るフィーネ。


「さらには翌日からは、全裸でサバイバル。もちろん食料も水もないし、森で肉食動物の危険に晒されながら一人孤独に耐えつつ暮らしていた。そのくせこの催しを企画した連中は高みの見物だ。人の不幸を笑って、部屋で優雅に眺めてる……まったくクソ企画だな」

「俺君、かわいそう……」


 俺が半ば愚痴をこぼすように言うと、フィーネが同情するような視線を向けてくる。それから顔を暗くし、うんうんと頷いてきた。


「辛かったですよね……森で野宿して一人寂しく焚き火を見つめて、村に戻ろうにも方向音痴すぎて遭難。街に行って助けを求めても無一文で相手にされないどころか、原始人が街に迷い込んできたぞと笑いもの……」

「や、やめろフィーネ、変な同情をするな……っ! 俺はそこまでかわいそうな奴じゃない……!」

「でも、ここに来たからにはもう大丈夫です。私は裸にむいたりしませんし、暴力も振るいません。ちゃんとご飯もあげるし、安心して眠れる寝床だって用意します。もう怯えて外で暮らすことはありません。あとついでにビフレスト家の使用人だと分かるように家紋を入れた首輪だってつけちゃいます♪」

「捨て猫を拾ったみたいに扱うんじゃねーよ」


 はぁと溜息混じりに言った俺だが、そんなことなど聞こえない様子でフィーネは目を伏せた。


「森の賢者だって虚勢を張り、無力な自分を自覚しつつそれでもたどり着いたお屋敷。そこで超絶可愛い美少女貴族、フィーネちゃんの保護下で荒んだ心に潤いをもどしていくんですね」

「自分で超絶可愛いとか言ってるぞこの子……」

「可愛くないですか?」


 上目遣い。夕焼け色の潤んだ瞳。それは完全に狙った角度から繰り出される暴力的な愛らしさを含んだ視線。媚び媚びで、アイドルめいた……それこそ、この子のためならいくらだって金を積めると思えるほどのキュートさであった。

 その視線に抗えるわけもなく、俺は悔しいと思いながら口を開く。


「いや、可愛いけど……」

「ふふふっ、素直で良いですねー。素直すぎて普通にチョロいです。ちょーと優しくされただけで『え? もしかし俺に気があるんじゃね』って根拠のない自信に突き動かされてる男子くらいチョロいです」

「言ってろ……というかお前、俺で遊んで楽しんでるだろ」

「あ、バレました?」


 悪戯っぽく笑っていた表情が一転、けろりとしたモノに変る。

 人間ってこうも急に態度を変えられるんだな、と思わず感心してしまうほどの変貌っぷり。だがすぐにはっとして、俺はさっきから隣で黙って座っているヒルデさんに向き直った。


「ちょっとヒルデさん、ヤバいよこの子……同情するフリしてからかうとかサイコパスの素養あるよ……」

「サイコパスの素養って、あなた失礼ね。ふ、フレンドリーで良い子じゃない……」

「そう思うなら俺の目を見て言ってくださいよ」

「うう……ふ、フレ……フレ、ンド――」

「なに私の目の前で見つめ合って堂々とイチャイチャしてるんですか?」


 何かに耐えるようにヒルデさんが唇を震わせていると、フィーネがむっとした顔で割り込んできた。



(次回に続く)

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