三章 若き伯爵

第24話 金髪ウザ絡み系貴族美少女と銀髪北欧美女

 数時間後、馬車から降りて見上げた光景は、壮観というに相応しいものだった。

 レンガ調の外壁が数十メートルも伸びた広い屋敷。二階建てのようだが、屋根付近に小塔のように出っ張った窓がいくつもあるから実質三階建てか……それにしても一階も二階も大窓がはめ込まれている分、普通の建物と違ってより高く感じる。十メートルはあるんじゃないか? 横にも縦にもデカい家だ。


 そして屋敷の両サイドには、温室のようなガラス張りのテラスまであって、そこで貴族がティータイムを楽しんでそうな間取りだった。


「ひ、広ぇ……」


 俺は思わず息を呑んだ。

 屋敷にもビックリしたが、ざっと首を回すとさらに圧巻の景色がそこに広がっていた。

 数百メートル先に見える門からここまで続く庭園。屋敷脇に等間隔に連なる丸っこい低木に、敷地の両側に弧を描くように咲いた赤い花の花壇。あらためて門の方に目を向けると、レンガ道の両側に木々が並んでいて並木道になっていた。

 どの木も、草花も手入れが行き届いていて、敷地の広さも相まって権力者の豪邸と呼ぶに相応しい趣だ。


「ここがビフレスト邸。私のお家です。ささっ、どうぞ上がってください♪」

「その前に、私を雇うって話だけど……具体的に何をさせるつもりなの?」

「んふふぅ、そうですねー……」


 警戒した様子のヒルデさんをじっと見つめながらフィーネが悪戯っぽく笑ってみせた。それから思案げに顎に人差し指を当ててから口を開く。


「私ぃ、前から美人秘書が欲しかったんですよー。だからヒルデさんには私の秘書になってもらいます。ああでも、難しいことは一切しなくていいです。ただ私の半歩後ろに常に立っていて、私が執務で『うわー! もう嫌ァー!』状態になって鬱になった時に、その大きなおっぱいを揉ませながら優しく介抱してくれればいいですから♪」

「それ秘書じゃねぇよ、おっぱい係じゃん」


 ウザ絡みする後輩のようにぺらぺらと喋っているフィーネに俺は思わずツッコミを入れた。だが俺なんて眼中にないのか、ヒルデさんを見据えたまま桜色の唇を「ふふっ」と緩ませる。


「知ってます? おっぱい揉むとストレス解消になるんですよ」

「それなら自分のを揉んでなさいよ……」

「あと、私のスケジュール管理は全部そこにいる執事のクリストフがやってくれますから安心してください」

「ちょっと私の話聞いてる? というかそれだと、本当に私後ろに立って胸揉ませるだけの存在じゃない。非常に不名誉だわ」


 口をへの字に曲げて不満を露にするヒルデさんだが、そんな非難の視線を華麗にスルーし、フィーネはクリストフさんが待っている馬車の方に歩み寄っていた。


「お嬢様。わたしはこれで」

「うん。それじゃあ、馬車を戻したら応接間にお茶を持ってきてね。それと使用人を集めて。大事な話があるから」

「かしこまりました。では後ほど」


 小さく頭を下げると、クリストフさんは手綱を握って馬車を走らせ、低木脇の道から屋敷の奥のほうに消えていく。

 それからフィーネに案内されるように立派な扉を抜け、玄関ホールに入った。

 向かって正面に二階へと続く幅広い階段。その大理石の踏み板の上にはふかふかの赤い絨毯が敷かれ、玄関に入ってすぐのところまで伸びている。壁には大きな絵画がいくつも飾られ、両脇にあるドアの横には胸から上を模ったローマ風の石像まであった。

 どれも高そうな美術品だ。右を見ても左を見ても高級で……まさにお金持ちの邸宅。そこへ土で汚れた裸足で上等な絨毯を踏みつけるのは結構な勇気がいる。


 いやぁ……申し訳ねぇ。さっきまで森で生活していた身としてはこんな欧米の高級ホテルみたいなところなんて、場違い感が凄すぎてえらいことになっている。

 こういう場所はドレスコードがあると聞くけど……タキシードとか燕尾服が相応しいのか? でもまぁ、ひとつだけ自信を持って言えることは、半裸の腰蓑じゃあないってことだな。


 そんなことを思いながら階段脇のドアに入り、長い廊下を抜けると応接間に通された。

 ここも当然のように高級な匂いがぷんぷんする。

 窓辺に精緻な刺繍の入ったソファーセットが置かれ、天井にはシャンデリラが釣り下がり、宮殿のような造りのアルコーブには暖炉まである。そして金の装飾が施された調度品の数々が豪華な彩りを添え、部屋の品位をもう一段階といわず何段階も上げていた。



(次回に続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る