第23話 ここにきて初めて異世界人と交流! 掛け合いが面白い!

「銀髪に赤い瞳、それにその格好は……調眼スキャニング……!」


 ヒルデさんを見て驚いたように目を見開いたかと思うと、少女は目を淡く光らせた。


「そんな……この神聖値はまさか本当に……」


 魔法かなにかでステータス的なものを見たのだろうか……何だか知らないが勝手に驚いてくれている。

 これは行くしかねぇな。相手が怯んだところを目ざとく攻める。こういうのは勢いが肝心なんだ。

 俺は持っていた槍をコンッと地面に突き立て、神妙な顔を作った。


「俺は森の賢者。そして隣にいるのが付き人のブリュンヒルデだ」


 神妙な顔をさらに神聖なものに昇華させる。イメージはお気に入りのエロ動画で一発抜いた直後の、一切の邪念を取り払った賢者モードの自分。


「さぁそちらも名乗るがいい。そんな豪華な馬車に乗ってるんだ。さぞ金持ちな令嬢なのだろう?」

「そっちの半裸の男、なんか超失礼なんですけどー」

「半裸の男ではない。翔だ」

「カケル? 変な名前ですね。どこの国の名前なんですか?」

「お前も大概失礼だぞ?」


 目を細めて諭すような視線を向ける俺に、そんなことよりそっちの彼女よ、と言って少女がヒルデさんに向き直った。


「私は、フィーネ・ファル・ビフレスト伯爵。これでも一応、このビフレスト領を治める領主をやってます」


 やけに軽い貴族様だった。


「あのぉ、私のこと知りませんか? この辺の商会を牛耳ってるフィーネ嬢って有名なんですけどー?」

「知らん」

「そうですかぁ、やっぱりその格好通りド田舎の原住民さんなんですねぇ。情弱のお兄さん、街で好奇な視線に晒される前にお家に帰ったら?」

「なんだとォ……!」

「それとも『俺は今日から都会デビューして自分を変えるぜ』って息巻いて集落を出てきた無作法な頭ゆるゆるザコ脳みそで、自分の身の程も分からないんですかぁ?」

「こ、このメスガキ……ッ!」


 ぷぷぷぅーと言わんばかりに小馬鹿な態度を取られたものだから、俺は条件反射的にイライラした。こういう奴には一度ガツンと言って自分の舐めた態度を改めさせ、わからせてやるのが日本でのマナーなのだ。

 だが俺が一歩前に踏み出したところで、ヒルデさんが手をばっと広げて制してきた。


「私は知っているわ。資料で見ただけの知識だけど、優秀な成績でウィルヘイム魔法学院に入学し、十三歳の時に伯爵位を継承して家督を継ぎ、その後は街の商会にも顔を出して多方面で活躍する秀才。十六歳になった今では女王陛下からも信頼が厚い有力な地方貴族として国の内外に知られるようになっているとか」

「すげぇ説明してくれるじゃん……」


 俺は思わず苦笑した。

 というか、このフィーネとか言う少女。ヒルデさんの話を聞いた限りだとかなりの権力を持ってそうだ。


 ここは冷静になって、ゴマでもすったほうがいいのでは……?


 未来への投資のために、俺はフレンドリーな笑顔を作った。


「フィーネよ。いきなりで申し訳ないが、俺を雇ってみないか?」

「えー、普通に嫌なんですけどぉ……」

「俺は奇跡を起こせる。傍においておけば何かと役に立つぞ」

「例えば何ができるんですか?」

「さっき見ただろ? 不思議な力で馬車が止まるのを……あれは俺がやったんだ」


 偶然の結果、救済カードが車輪に挟まって止まっただけだが、間違ったことは言ってない。だというのに、へーそうなんですかー、と未だに半信半疑な面持ちのフィーネ。疑ってはいるものの、完全には否定できない。そんな感じの葛藤も孕んでいるように見える。

 あともう一押しだ。こうなれば、交渉の切り札を出すしかなかった。


「今ならワルキューレも一人ついてくるぞ?」

「ヨッシャ雇う雇う! そっちの男は雑用に使うからいいとして、彼女には興味あるし、何してもらおうかな~♪」

「ちょっと翔くん!? 私を交渉材料に使わないで……!」

「ヒルデさん、俺たちは一蓮托生、一緒に見世物企画を盛り上げる仲じゃないか」

「そうだけど、その通りだけど……」


 納得がいかないというようにぷるぷると肩を震わせているヒルデさんの背を押し、俺は馬車へと向かった。

 こうして地方貴族、フィーネの使用人としての人生が始まったのだった。


(お願い)

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