第18話 題して『大学生男子。ちょっと過激な森林浴』的な!
そこは木々が並んでいるだけの何もない空間。だが野鳥の鳴き声に混じってまたヒルデさんの声が聞こえてくる。
『翔くんが前回の展開が嫌だって言うからサバイバル番組風にしてみました』
「嫌なのは展開じゃなくてこの見世物企画自体なんだけどな……」
裸で異世界に送り込まれて勝手に
木の実を口の中に放って噛み潰し、果汁で喉を潤しつつ気難しげに鼻を鳴らす。そして再び俺は黙々と焼き魚を頬張った。
『あなたに拒否権はないの。元の世界に帰りたかったらお題をクリアし、
んん……口の中でベリーの甘酸っぱさと魚の淡白な脂が混ざりだした。
『そうじゃないとこっちも困るの。神々を退屈させると企画は失敗して、また天罰ルーレットで今度こそ
「むぐむぐ……ああ、やっぱり魚にベリーはあわないな。口の中で調和もケンカもしねぇ。ただ個別に味がするぞ」
『ちょっと聞いてるの……!?』
「あの、そろそろ出てきてもらえる? 姿が見えないで声だけ聞こえると天からのお告げ感が凄いんで、話しづらいんだけど……」
『実際、神界から話しかけているのだから天からのお告げで間違ってないわよ』
「へぇ。じゃあそのお告げとやらで、次何をすればいいか教えてよ」
『いいでしょう。特別に私がナビゲートします』
ヒルデさんは「ふふん」とご機嫌な調子で鼻を鳴らすと、明るい声で話し始めた。
『まずは北西に向かって。しばらく歩くと森を抜けるはずよ。そしたら平原を二十キロ進むと街があるわ。街に入ったら集会場へ行って冒険者登録をして。冒険者はあなたみたいに素性の分からない人でもなれる都合のいい職業だから問題なく登録できるはずよ』
なんだよ、魔王を倒すとかいう使命はないくせに冒険者とかお決まりの展開じゃん……。
『もしかして不安? ふふっ、無理もないわ。突然異世界に来て、モンスターと戦うような職業しか選択肢にないんですもの。でも大丈夫よ。翔くんには救済カードがあるわ。そのカードを使えばどんなピンチでも撥ね除けられるわ。さぁ、冒険へ出発よ!』
「だりぃ……寝るわ俺」
不測の事態に備えて俺は、テントの中に入って横になった。
今は体力を温存する時だ。今朝は魚が手に入って食事にありつくことができたが、次はどうなるか分からない。となれば、休息をとりつつどうやって食料を確保するか考えるのがこの森で生存するのに必要なことなんだ。
それにだいたい方位が分からないのに何が北西に向かえだ。素人が右も左も分からないまま森を歩き回ったら遭難コースまっしぐらだろう。こんなよく分からない企画のために命は賭けられない。
だから俺は動くわけにはいかなかった。
「すー……すー……」
『え? まさか本当に寝たの? おーい、ちょっと……起きなさい、コラ……っ!』
「んー……すー……すー」
「寝るんじゃないのッ! まだ始まったばかりでしょうがッ!」
「うわぁ! どっからわいてきた……!?」
突然現れたヒルデさんにテントから引っ張り出され、俺は思わずはっと息を呑んだ。そのまま引きずられながら土に背中と尻を擦りつけ、地面から飛び出した木の根に肘をぶつけたところでようやく止まると、目の端に部屋が飛び込んだ。
よく見ると、木々の間にパネルが埋め込まれていた。そのパネルを点でつなぐようにして空間が裂けて現れた部屋はラジオのスタジオのような造りだった。一枚板の長机に天井から釣り下がったマイクアーム。机の両サイドには革張りの上等な椅子まである。
そこでナレーションを入れていたんだな。こっちが異世界サバイバルをしていたのにいい気なもんだ。
そう思いながら起き上がり「どっからわいてきたって、人を虫みたいに言うんじゃないのっ」とご立腹なヒルデさんに俺は面倒そうな視線を投げた。
「い、痛ぇ……せっかく寝ようとしてたのに、なんなんだよ……」
「それだと半裸の男が横になっているだけの映像になるでしょ」
「グラビアみたいでいいじゃないか」
題して『大学生男子。ちょっと過激な森林浴』的な!
「ふふふ……あんまりふざけるようだとつねるわよぉー?」
「おおっ、ちょっ、ヒルデさん……っ! もうつねってるから……!」
お腹の肉をつままれ、そこそこ鍛えられた腹筋に鋭い痛みが走った。
(次回に続く)
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