第15話 異世界ヒロイン登場! ちょっと癖が強いけど、そこがいい!

 太陽の光が長い回廊を明るく照らしている。

 ちらっと視線を窓の方に向けると、ヴェルトハイム城から木と石で組まれた街並みが望めた。大通りは人々が行き交っていて活気に満ちているけど、その先は頑丈な城壁がぐるっと街を囲んでいてちょっと物々しい。壁上の通路には、常に見張りの兵士が魔法銃や魔導砲を持ち出して魔物や、魔物よりも恐ろしい化け物どもを警戒していた。


 ここは王都ヴェルトハイム。私――フィーネ・ファル・ビフレスト伯爵の生まれ育ったウィルヘイム王国の心臓部だった。

 数カ月ぶりの王都だ。私は地方貴族で、まだ十六歳の学院生だからあんまりここに来る機会はないけど、別に観光で来たわけじゃない。私が招集を受けるのは決まって化け物退治だから。


 肩口までの金髪を揺らして回廊を曲がり、玉座の間に入る。

 パーティや式典で何十人も貴族や高級将校を招くだけあって広い。天井を見上げると立派なシャンデリアが六つもあって、さらに神々を表した天井画も描かれていた。

 相変わらず凄い。城も大きいし、内装は豪華で、この玉座の間なんて特にヤバい。まぁこれがこの国の強さとか威厳とかを象徴してるから手を抜けないってことだけど。

 いや、手を抜けないのはこれから命じられると思う任務の方かな?


「女王陛下、ご命令により出頭しました」


 玉座がある壇上の手前まで歩むと、私はこめかみまで手を上げ、綺麗に敬礼した。普通の貴族はお辞儀で挨拶するけど、私が通っているウィルヘイム王立魔法学院は軍学校の側面もあるからこの挨拶が身にしみついていた。

 休め、と手振りで示しながら陛下が口を開く。


「よく来てくれた。ビフレスト伯爵」


 ちょっと低めだけど綺麗な声だった。

 声だけでも威厳があるのに、陛下は作り物のように整った顔でスタイルもいい。さらに身に纏っているシックな黒の礼服は、黄色い肩章のついたマントと黒のタイトスカートが目を引く。その格好は彼女、グレーネ・エアド・ウィルヘイム陛下を頂点とした軍事国家を一目で表すもの。

 だけど格好よりも陛下を女王たらしめているのは、長い銀髪のポニーテールと赤い瞳だ。この容姿は陛下が戦乙女ワルキューレの血を引く証であり、陛下を戦乙女として崇めているウィルヘイム王国にとってこの血筋は非常に重要だった。


「陛下がお呼びになれば、すっとんで駆けつけますよ」

「それは頼もしい限りだな」

「ええ、頼もしいですよ? まぁ、本音を言うと仕事があるから学院の授業パスできるからですけどね。なんか芸能人っぽくてよくないですか? 私これから陛下と打ち合わせがあるのーって感じで抜けると有名人オーラ出てるっていうかー」

「ビフレスト伯爵、いささか目に余りますぞ」


 渋い声がした方へちらっと視線を向けると、フリッツ防衛大臣が壇下横に控えていた。

 深い青色の高級将校のジャケットに白いズボンという凛々しい格好だけど、前髪が大きく後退した白髪にたるんだ肉は中年を通り越して初老。ぎゅっと眉間に皺を溜めているから気難しそうなおじいちゃんって感じでちょっと苦手だなー。


 でも目に余ると言われたので一応思い返してみる。

 肩章のついたマントを小さく揺らし、赤と黒を基調とした軍服ワンピース姿で私は愛嬌いっぱいに受け答えしていた。

 なんだぁ、いつもの可愛いフィーネちゃんじゃん。じゃーどこが目に余るんだろう?


 にこっ♪


 とりあえずスマイルをプレゼント。


「はぁー……」


 なぜかため息をもらった。このおじいちゃんやっぱり冷たい。やだ。超失礼ぇー。


「伯爵としての威厳がないことはこの際問いませんが、陛下に対して友人のように接するのはいかがなものかと」

「よい。ビフレスト――いや、フィーネと話すのはおもしろいからな。畏まられたら私の楽しみが減ってしまうじゃないか」

「陛下がそうおっしゃるのなら……この場にはわたしたちだけですし、不問といたしましょう」


 フリッツ大臣が頷くと、陛下が微笑む。


「ところでフィーネ、芸能人とはなんだ?」

「え? 何ですか?」

「いや、お前が言ったんじゃないか。で、どういう意味なんだ? 有名人なのはなんとなくわかるが……」

「それはですね……」


 陛下に問われた私は言葉を詰まらせる。

 私だって知らない。ただふと頭に入ってきたから喋っただけで意味を聞かれても説明のしようがないっていうか、正直困るなぁ。

 でもこういうことは結構あったりする。自分の知らない言葉が突然口から出たりするのは。だからこうして周りの人たちから「は?」という反応をされる。



(次回に続く)


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