第14話 ふっくがこのカードになるってそんなのあり? しかも神々の煽りがすごいんだが……!

「うう……っ、それにしてもさすがにちょっと冷えてきたな」


 さっきから夜風が吹くたびに肌寒い。裸だから仕方ないけど、これじゃあんまりだ。


「とりあえず服だ。服が欲しい」


 一刻も早く着る物が欲しくて慌てて書いたのがいけなかったのか、ひらがなで『ふ』と無意識に書いて、それから――


「くしゅっ!」


 くしゃみが不意に出た。そのせいで手元が狂って文字が歪んだ。


「やべっ、字が……これ、書き直しとかできません?」

「できません」

「マジか……まぁでも、ふくって一応読めるし……やってみるか」


 俺はしぶしぶ「機能再開オープン」と唱えた。


「グフッ!?」


 唱え終わった直後、何かがカードからぬっと出てきて右頬に殴られたみたいな衝撃が走った。そのまま力に押されるようにして一回転半し、俺は地面に倒れた。


「い、痛い……っ! 痛いよ、なんで……? うう……っ、何が起こったんだ……?」


 顔がじんじんする。頬が熱い。口の中を切ったのか、うっすらと鉄の味が口内に広がってきて思わず顔を顰めた。

 幸いなことに、歯も折れてないし首も何故か痛めていないが、突然の衝撃に俺は呆然と固まった。

 そんな俺の頭上にヒルデさんのアナウンスが響く。


「えー、ただいまのフックは、軍神アレス様のものでした」

「えっ? 何っ、フック? もしかして俺、殴られたの……?」

「ええ、そうよ」

「ひ、酷い……! ただ服が欲しかっただけなのに……っ!」

「自分で書いたじゃない」

「俺はふくって書いたんだよ。ほら……んん?」


 ゴツい腕が引っ込み、ただのカードになったそれを拾い上げてよく見てみると『ふ』と『く』の間に小さな『っ』があって微妙に『ふっく』と読めなくもない感じだった。

 この不幸な事故にやるせない思いを胸に抱えつつ視線を巡らせ、最後にドローンの方を見ると、投影ウインドウの中でスパルタの兵士のようなコリント式ヘルムに赤いマントを羽織った男がガッツポーズをしていた。


 あいつか!? あいつが殴ったのか……!


 人を殴ってガッツポーズで煽っている男に怒りの視線を送っていると、ヒルデさんが優しく笑った。


「ふふっ、でもあなた運がいいわね。神の鉄拳は日頃の行いが悪ければ悪いほど威力を増すわ。これでかけるくんが善人だって証明されたわね」


「そんな証明いらねーよ……! つーか、ふっくだと引っかける方のフックとかもあるだろうが! なんで殴る方のフックなんだよ!?」


 ばっと飛び起き、俺はこの理不尽な対応に抗議しようとヒルデさんに詰め寄った。


「救済カードに記入されたものは神々の裁量で決まるのよ」

「なにそれ嘘じゃん! 神様が勝手に決めるんじゃ全然救済じゃねェよ!」


 眉をぎゅとひそめ、ヒルデさんに不満をぶつける俺だったが、そこで堪えきれないとばかりに『ぶぅっ』と噴出すような歓声が聞こえてきた。


『ふっ、救済カードをペンに変える愚か者かと思ったらさらにバカな行動に出るとはな』

『ええ、まったくですな! わざわざカードを使ってまで殴られるなんて、まさしくドMの極み! これを無意識でやっているのなら彼は潜在的な変態になりますぞ……!』

『いや~、それにしても裸の人間が回転しながら倒れるところなんて、なかなかどうしてこう、スカッとするといいますか、普段見られないぶん新鮮でしたな』


 神々とやらのコメントがムカついた。服すらもらえない境遇が嫌だった。それになにより今は、ヒルデさんの笑顔が情けない姿を笑われているようで痛かった。


「もう嫌だァァァ! こんなクソ企画やってられるかァァァァァァ――――――ッ!」


 俺は半泣きになりながら、夜の森の奥へと逃げていった。

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