第13話 このカードはどんな物にでもなる魔法のカードだと……じゃあ試しに使ってみるか……

「このカードは、どんなモノにでもなれます。書いたモノに応じて姿を変える魔法のカード。それがこの救済カードです。さぁ、あなたがこの異世界に持っていきたいモノを書いてください」

「なるほど。無人島で持っていくなら何がいい的なヤツか」

「必要ない時は機能停止クロウズと唱えればカードの姿に、機能再開オープンと唱えれば再び姿を変えます。またカードの状態であれば直接肌に引っ付けることができるという、紛失の防止機能付きです」

「へぇ……つまりこういうことか?」


 おもむろに救済カードを一枚、股間に宛がった。

 ひたりと張り付く感触。そして手を離してみると見事にイチモツのカバーとなった。

 かなり際どいが、この魔法のカードのおかげでモザイクが必要なくなり、股間を覆っていた粗いモヤが徐々に晴れていく。


『あれ? もう仕事終わりっすか? ちぃーす、お疲れ様でーす』

「ちょッ!? このモザイク喋るの……!?」


 機械で加工したようなピーピー声のモザイクに驚き、俺は思わずかっと目を見開いた。


「なんてことをっ!? 神々がもたらした万能のアイテムをパンツ代わりに使うなんて何考えてるの……!?」

「それよりヒルデさん、モザイクモザイク……っ! こいつ喋るよ、生命宿っちゃってるよ!」

「ただのモザイクの妖精でしょう。このくらいで騒がないで」

「いや、さらりと流してるけど、これわりと衝撃的だからね――って、あのモザイクどこいった? 空気に溶けるように消えたけど……」

「ちょっと!? 後ろ向かないで! 映るからッ、大事なものが映っちゃうからッ!」

「おっと失礼……ッ! 紳士の紳士がポロリしてしまうところだった」


 ドローンの方に尻が向きかけたその瞬間、俺は咄嗟に片膝を突き、太ももの間でイチモツを隠し、さらに保険として片手を尻の下に添えて垂れた睾丸をカバーした。

 格好は裸だが、そのポーズはヒルデさんに忠誠を誓う騎士のそれだった。


『あはははっ、こいつはいい! この人間、裸芸を極めているな!』

『下品だが、このくらいぶっ飛んでる奴の方が退屈しなくていいではないか』

『しかし我々が与えた救済カードをあのようなことに使うのはいかがなものかと……』


 ドローンのスピーカーから男たち声が聞こえた。

 どうやら講堂の神々のコメントのようだ。

 やや好感触。気難しそうに唸る者もいるが、今すぐに天罰が下る様子はないようだ。

 救済カードをパンツに使ったお咎めは保留としたのか、ヒルデさんが腕を振るった。


「さぁ書きなさい。あなたが今、一番欲するものを」


 そう言って今度は小声で「いい? 次はちゃんと使うのよ」と念を押してくる。


「分かってるって……でも、書くって言ってもペンとかないしなぁ……」


 手元にはカードが三枚だけ……もしかして渡し忘れているのでは?

 そう思って聞いてみたが、


「ペンください」

「そんなものないわ」


 返ってきた答えは酷いものだった。


「いや、そのセリフ聞き飽きたよ。何でペンくらい用意してないかなぁ。ヒルデさん、それでもこの企画の進行担当なの?」

「こっちにもルールがあるのよ。転移者に与えられるモノは救済カードだけ。それ以外は認められないの」

「ペンぐらい融通きかせてくれてもいいだろ。じゃないと、なんのコーナーか知らないけど、これ以上進まないよ?」

「原則として救済カード以外は現地調達。この見世物企画は、転移者の自主性を重視し、創意工夫する様を神々にお送りするものなの。だからなんでもほいほいと与えるわけにはいきません」

「はぁ……そうっすか。じゃあお望みどおり現地調達しようかな……」


 俺はがっくりと肩を落とし、あらためて周囲を見回した。

 樹幹の太い木々が生い茂る森に背の低い草花。当然だがペンは転がっていなし、近くに民家もない。自然豊かな場所だ。マイナスイオン的なものを感じる。


「ん? これは……」


 草花をよく見ると、ヨモギに似たものが生えていた。


 これ……すりつぶしたらインクの代わりになるんじゃね……?


 思ったら即行動だ。俺は葉っぱをむしり取り、手近にあった木片の上で火でも起こすように擦って草の汁を作り出す。それを指ですくってカードに『ペン』と書く。

 所々薄くて不恰好だがなんとか形になった。


「あとは、唱えるだけか……えーと、機能再開オープン?」


 その声に反応し、ぽんっと煙を上げて手元にボールペンが出現した。


「おお、本当にペンになったぞ……!」

「あなた正気? そのカードはどんなモノにでもなれるのよ? それなのに最初に書いたのがなんの変哲もないペンって……」

「何を言ってるんだ。これがないと始まらないでしょ。書くモノがなかったんだから」


 呆れるヒルデさんをよそに、次のアイテムの名前を記そうと俺はペンを握った。



(次回に続く)

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