第12話 ワルキューレ、ブリュンヒルデ登場! って、なんか放送されてるんだが……!?

 ドローンに小さく頷き返すと、ヒルデさんが向き直ってきた。


「それより次のコーナーにいきましょう」

「え? 何? なんの?」

「今から説明するわ……その前に、あらためましてかけるくん。私はブリュンヒルデ。戦乙女ワルキューレよ」

「ブリュンヒルデ?」

「そう。それが私の本名」

「ワルキューレ?」

「ええ、オーディン様に仕える戦乙女。それで今はあなたのお目付け役よ」

「はぁ……ワルキューレねぇ……」


 とはいえ、もうヒルデさんで定着している。今さらあらためられても困る。

 そこでワルキューレの方は一旦脇に追いやって、俺は軽い調子で再び口を開いた。


「でもブリュンヒルデさんは長いんで、今までどおりヒルデさんって呼んでもいいかな?」

「別にいいけど……急に物分りが良くなったわね」

「そりゃあ、もう異世界に来てるんでしょう? だったら、もうそのくらいじゃあねぇ」


 それがたとえ、北欧神話で出てくるような人物だと言われても、モザイクの衝撃に比べれば微々たるものだ。

 ふっと得意げな笑みを浮かべて答える俺に気を良くしたのか、ヒルデさんも「ならよかったわ」と微笑み、それから表情を引き締めた。


「ここからが本題よ。あなたにはこれからこの世界で与えられるお題をクリアし、神界特別企画を一緒に盛り上げ、神々を満足させるようなタレントになってもらいます」

「タレントって、テレビとかに出てるあのタレント?」

「ええ、そうよ」

「そうか……じゃあさ、チート能力に目覚めたり、魔王を倒す使命を与えられる的な展開で盛り上げるってこと?」

「そんなものないわ」

「断言された……!?」


 チート能力も魔王もいない異世界なんて、こんなの、夢も希望もないじゃないか!


「さっきも言ったとおりあなたはタレントなの。勇者でもなければ、チート能力を持った転移者でもない。ただの人よ――いえ、正しくは全裸の変態よ」


 酷い! アンタらがこんな格好で送り込んだのに……! 


「このやり取りは神界放送で、映像として講堂にテレビ中継されているわ」


 心中で不満を募らせている場合じゃなかった。

 ヒルデさんの視線を追うと、さっきのドローンが講堂の様子を映し出していた。円形の階段席に、古代ローマ風や古代ギリシャ風、他にも色んな民族衣装を着た老若男女が見て取れる。結構な人数だ。何人いるんだ……?

 いやそれより、俺は神様たちが見てる前で全裸のまま腰振りを披露したわけか……。

 すごい罰当たりな気がする。だが、それ以上に全裸でテレビに映っている恥ずかしさが勝って、咄嗟に股間を手で隠す。


「だから、神々を退屈させないために進行させてもらうわ。突然のことで混乱してると思うけど、今は私に合わせて動いて、いい?」

「分かった。分かったからまず服をください、お願いします」

「そんなものないわ」

「いやなんでだよ……ッ!? 服くらい用意してくれよ! つーかさっきのラブホにあるだろ俺の服が……!」

「ここでお題発表~♪」

「無視されたんだが……!?」

「最初のお題はこちら『生活の基盤を作ろう』でーす♪」


 明るい調子で企画を進行するヒルデさん。その姿は美人な司会のお姉さんで、彼女を見るためにこの放送を見る視聴者がいそうなくらい優雅で美しいが、全裸のまま放置された俺には見とれている余裕はなかった。


「嫌なお題だな。現地調達感がぷんぷんするぞ……」


 不安しかない。チート能力もないって断言されたんだ。これは、異世界サバイバルの予感がぷんぷんする。


「タレント――つまり転移者には三枚の救済カードが支給されます。このカードを使ってお題クリアを目指しましょう」


 ヒルデさんが手のひらサイズのカードをポケットから取り出し、手渡してくる。そのカードは片面にトランプの裏側に描かれているような模様、もう片面は白紙というちょっと変わったものだった。



(次回に続く)

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