第11話 異世界に来て最初にしたことが……○○の確認って、ふざけんな!

 残念すぎて深い溜息が出る。

 落胆オーラ全開で肩を落とす俺を見て、ヒルデさんが訳知り顔ですっと目を閉じた。


「その反応、信じてないようね」

「そりゃまぁ信じてないのもあるけど……それよりこっちは準備万端だったんだ。せっかく勇気だしてラブホに来たのに。童貞がラブホに入るのがどれほど大変か、アンタには分からないでしょ……」

「ごめんなさい。こんな、結果的に翔くんの気持ちを弄ぶような形になってしまって」

「ホントだよ! 異世界とかふざけんな、返せ! 俺の期待を返せよぉ……ッ!」


 騙されたから。ひどい仕打ちを受けたから。もうヒルデさんに敬語を使う気にはなれなくて、俺は泣きつくように跪き、ドタキャンされた哀れな男となって嗚咽を漏らしていた。

 それを見かねたのか、ヒルデさんは珍しく感情的に声を張った。 


「だって仕方がないじゃない……! こういう方針に決まったの、転移者を気絶させて起きたら異世界でしたって展開にしようって」

「それで、俺はここまで運ばれたと?」


 どうやら向こうにも込み入った事情があるようだ。

 むくりと起き上がり、俺は耳を傾けた。


「ええ。ただもっと簡単な方法もあるんだけど、部屋に閉じ込めて催眠ガスで眠らせるとか、川に突き落とすとか……でもそれはいくらなんでも可哀想だわ。何も悪いことしてない人にそんなことするのは」

「いやいやッ、この格好の方がよっぽど可哀想だろ!? どうしてくれるんだッ、うおおお……!」

「ちょ、その卑猥な動きをやめなさい! モザイクが荒ぶってるわ……!」


 怒りのあまり腰を振って威嚇すると、ヒルデさんが頬を赤らめ、慌てて腕をぶんぶんと振ってきた。

 これはいい。冷静で包容力のあるお姉さんが取り乱しているではないか。興奮する。イケナイ性癖に目覚めそうだ。おかげでちょっとスッキリした。

 腰振りに合わせてぐわんぐわんとひしゃげるモザイクを尻目に、俺はふっと愉悦の笑みを浮かべた。


「あなた恥ずかしくないの? そんな格好で」

「いやぁ、その。モザイク柄のパンツだと思えばそんなに恥ずかしくないけど……」

「適応力が凄いのか、元々変態なのかしらね……」

「…………」


 呆れ顔のヒルデさんをよそに俺は考え込んだ。

 ラブホの件やモザイクの件はここでぎゃーぎゃーわめいても仕方ないようなので頭の片隅に置いておく。それよりもヒルデさんが言ったもうひとつの問題が気になった。


「それにしても……いきなり異世界とか言われてもねぇ。ちょっとファイヤーボールとか出してもらえません? あ、別にライトニングアローとかメテオレインでもいいですよ」

「ん? 実際に魔法を使って証明してほしいの?」

「うん。で、どうなの? 出せるの?」

「そんなもの出せないわ」

「じゃあこの件は一旦保留ということで」

「ちょっと待って……! 今証拠を見せるから……えっと」


 ヒルデさんは何かないかと周囲を見回し、それからはっと眉を上げて俺の股間を凝視した。


 おっと、熱い視線を感じるぞ……そんなに俺のコイツに興味があるのかな?


 段々露出狂の心理に近づいてきた気がする。もはや変態メーターは溜まっていく一方だ。

 そんな俺の股間をヒルデさんがびしっと指差した。


「証拠はそのモザイクよ! そんな非現実的な現象、魔法以外に考えられないでしょう!」

「なんだと……!?」


 言われてみればその通りだった。

 このモザイクが魔法なのかは謎だが、俺の知る限りリアルタイムで完璧にイチモツを隠すこの技術は現代の科学をもってしても不可能。強烈な光を当てるとか、プロジェクションマッピングで映像を投影する方法でもここまで精密に隠しきれないだろう。


 だがそうなると、異世界に来て最初にしたことが……チ○コの確認になるじゃないか。そんなのふざけてる。ロマンもへったくれもねぇだろ……!


 そっと心の中で不満を募らせていると、ヒルデさんが顔を背け、森の一角を眺めていた。その視線を追ってみれば、ラグビーボール型のドローンのようなモノがボディ下部からパソコンのウインドウみたいな画面を空中に投影していた。

 そこにはテレビのカンペのように『巻きでお願いします』と書かれている。



(次回に続く)

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