二章 森の賢者モード

第10話 全裸で異世界に召喚!? この後どうなる!?

「ん……」


 頬を撫でる草のような感触。それからひゅーと吹く風が全身を撫でる。

 身体を起こし、周囲を見渡すと辺りは少し開けた場所で、どこかの森なのか木々に囲まれていた。


「え……ここ、どこ……? 俺たしか、ラブホで黒服に……ってそうじゃん! 拉致られたんだった!」


 慌てて飛び起き、誰もいないか確認する。そこには、怖いお兄さんどころか誰もいなくて……空模様はほとんど雲のない満月。

 そのおかげでライトがなくても周りの風景が見て取れる。だが見れば見るほど自分に起きた出来事がハッキリと脳に焼きつくようで余計に混乱した。


 ここはどこなのか? なんで俺はここにいるのか? というかなんで、裸で外に捨てられてるのか――


 そうだ! 裸だ!


 あまりに衝撃的な事態に気が動転して失念していたが、現在のステータスは裸一貫。生まれたばかりのベイビースタイルだ。

 こんな格好誰かに見られたら不味い。普通に捕まる。

 そう思って俺は、とりあえず手で自分の股間を隠そうとした。

 だがその瞬間、衝撃的事実が脳天を駆け抜けた。


「うッ、うおッ!? 俺のチ○コが……!?」


 股間に視線を下げるとそこには、粗いモザイクがかかっていた。

 さっきまでこんなのなかったのにどうして……? こんなエロ動画みたいなモザイクがなんで股間に引っ付いているんだ……?

 分からない。だからとりあえず腰を振ってみた。


「こ、こいつ……ッ!? ついてくるぞ……!」


 どんなに激しく動いても追ってくるモザイク。前後に振っても、左右に振っても、完璧に追尾してくる。その様は意地でもイチモツを世間様に見せない信念を感じるほどだ。

 となればこうするしかない。

 俺は股間に触れてみた。


「ま、まぁ……普通にあるよな、俺のチ○コ……腰振った時にぺちぺちサオが当たってたし……」


 慣れ親しんだイチモツの感触にほっと安堵する。

 とはいえ、冷静に考えると裸で外に放り出されているのだから全然安心できなかった。

 幸い気温はそんなに低くないが、風が吹く度に思わず身構える。普通に肌寒い。


「くそっ……なんでこんな目に遭わなくちゃならないんだ……?」


 俺は歯噛みし、それから自嘲気味に息をついた。


「ははは……あんな美人とヤれるかと思ったら美人局で、文字通り身ぐるみはがされて森に捨てられるとか、今日はホントついてねぇなぁ……ん……?」


 その時、背後で小さな足音が聞こえた。


「目が覚めたようね、かけるくん」


 澄んだ声がした方に振り向くと、ヒルデさんの姿があった。

 だがなぜか服装が違う。半袖のブラウスに落ち着いた色合いのスカートだったものが、黒いラインが入った白い軍服に黒タイツで、腰に精緻な装飾が施された細剣まで携えていた。

 ここにきて急に軍服コスプレ。冷静に考えると、人気のない森の中でこんな格好でいきなり出てきたヒルデさんに、何だよその格好は、とツッコミを入れるところだろう。

 ただ残念なことに今の俺は冷静でなかった。

 裸のまま詰め寄る。


「どういうこと、ヒルデさん! 美人局じゃなかったの!? それに、ここどこ!?」


 服装なんてどうでもいい。今は、自分の身に起きたことの方が重要だ。


「落ち着きなさい。ちゃんと説明するから」


 やけに冷静な調子でそう言うと、ヒルデさんは桜色の唇をゆっくりと開いた。


「ここは、ウィルヘイム王国ビフレスト領。あなたは異世界に来たのよ」

「う、うん……?」


 あまりに突飛なセリフに思わず首を捻る。

 ラブホから黒服に捕まって異世界へなんて……こんな異世界転移があってたまるか。そんな異世界モノなんていうベタなファンタジーより女体のファンタジーを体験したかったよ……美人局じゃないようでほっとしたけど、この展開どうしてくれよう。

 もう色々と台無しだった。



(次回に続く)

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