第9話 銀髪美女とラ〇ホへ! でもそんなうまい話があるわけがなく……

 俺はある意味追い詰められていた。

 合コンがお開きになった後、俺たちはそれぞれ狙った女の子と一緒に店から出た。ここまではいい。俺も正平も拓美先輩も本日の戦果に満足だ。

 だがヒルデさんと一緒に夜の散歩をしていたらとんでもないことが起こった。

 七月下旬の海岸通り。日中は暑くても夜になると冷えた海風が身体を薙いで涼しい。おかげで酔いもさめ、酒で火照った体を冷ましてくれる。

 そんな時、ヒルデさんが「ちょっと休憩しない?」と提案してきたんだ。

 ヒルデさんの視線の先にあったのは煌びやかなビルで……いわゆるラブホと呼ばれる場所だった。


 え……ここって……ええ……!?


 半ばパニックになった俺の手を引き、ヒルデさんが受付で部屋を選び、ラブホの奥へ進んでいって――


 来た! 来てしまった! も、もちろん初めてのラブホだが……それにしても会って数時間の男と一緒に入るか普通!? 魔性だよ! 銀髪清楚お姉さんの皮を被った隠れビッチだよ! ひィィッどうしようどうしよ! 俺ちゃんとできるかなママ!


 そして今、部屋に入った俺は追い詰められていた。


「じゃ、じゃあ先にシャワー浴びてきてもらえる? 私、準備して待ってるから……」

「え、ええ。わかりました」


 若干うわずった声で答えると、俺はソファーに鞄を置こうと部屋の奥へ足を踏み入れた。

 シックな内装だった。天井は白、壁は落ち着いた色合いのブラウン。壁の構造はアルコーブのようになっていて、そこにクイーンサイズのベッドが半分埋まるようにして俺たちを待っていた。

 全体的におしゃれで、天井にシャンデリアこそついているもののそれほど豪華というわけでもない。ちょっとお高めなホテル感。正直、ラブホといえばお城のような外観に豪華な装飾が施された非日常な空間をイメージしていたが、こういう落ち着いた雰囲気の方が初心者には優しいのかもしれない。

 おかげでほっと息をつけた。ここは俺たち以外誰もいない二人っきりの空間なんだ。ラブホに入る時は通行人の視線でソワソワし、受付の部屋を選んでいる時はもっとソワソワしたが、ここにきて一週回って冷静になれた。


 最後に熱いシャワーを浴びて、もうヤるしかないと自分を追い込めば完璧だ。

 ベッドに座ってスマホをいじりだしたヒルデさんの脇を抜け、脱衣所に入る。手早く服を脱いでカゴに入れて浴室に入る。

 そこでシャワーを浴び、汗とチキンな自分を洗い流し、俺は脱衣所のドアに手を掛ける。そしてこの後の展開を夢想するように目を閉じた。


 グッバイ俺の童貞、そしてウェルカム快楽の園! いざゆかん性地へ!


 ヒルデさんを呼ぼうとドアを開く。たった二枚のドアを開けばヒルデさんがいる。バスローブを着るのもまどろっこしい。裸で脱衣所にヒルデさんを引きこむんだ。こういうのは勢いが肝心だ。

 そう思って一歩踏み込んだ瞬間だった。


「え……? なんですか、アンタたちは……!」


 脱衣所に戻ると、大柄の黒服が入ってきた。二人いる。二人ともスキンヘッドで、いかつい顔にサングラスをつけていて――って、どっからどう見ても危ない人じゃん!


成瀬翔なるせかけるだな?」


 えっ!? なんでこの人、俺の名前知ってんの!? いやよく考えろ俺、美人とヤる時に怖いお兄さんが出るってパターンは美人局だ……! えっ、それじゃあ美人局ってアレだろ。女がカモになる俺みたいな奴を誘って、行為後に彼氏とか、喧嘩強そうな男が出てきて『お前、俺の女とヤったな?』とか因縁つけてきて金を脅し取るやつだよな!? だったらヒルデさん、準備ってまさかこれのこと!?


「なに!? 俺まだなんもしてねぇよ! ヒルデさんとラブホに来たけど、まだ手は出してないから、見逃して――」

「騒ぐな! いいから大人しくしろ!」

「ちっ。こんなバカそうな奴が見世物なんて、大丈夫なんだろうな」

「それは我々が決めることじゃない。行くぞ」


 えっ、今見世物っていった……? なんの? 俺裸で拉致られて見世物にされるの、動物みたいに……クソっ! 嫌だ! そんなの――


「嫌っ! 冗談じゃねぇ、見世物とか! ふざけんな……ッ!」

「暴れるな! おい、こいつをとり押さえろ!」

「ああ!」


 あっさりと捕まった。

 俺は裸のままもがいたが、ふたりの大男の前では無力で「眠らせろ!」という声が聞こえたかと思うと、首筋に針で刺されたような感覚があって、それから――。

 意識が遠のく。瞼が重くなって、全身に浮遊感が生まれた。

 そして俺は、眠るようにすっと倒れた。



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