第8話 俺が選ぶのはこの子だ! ターゲットロックオン! この子を絶対モノにするぜ!

 首を捻る俺をよそに、ヒルデさんが腫れ物を見るような目を逸らし、隣に座ったクール系美人を促した。


「ふふっ、褒められてるんだから素直にお礼を言ったらどうだ?」

「あんなの私が耐えられないでしょ、いいからさっさと自己紹介しなさい」

「はいはい分かったよ」

 ひらひらと手を振ってからクール美人が俺たちに向き直った。

「レギィだ。親しい者はそう呼ぶが、君たちも気軽に呼んでくれて構わない」


 自信に満ち溢れた切れ長の目は綺麗な黄色。眉目秀麗で最初の印象通りどこまでもクールな女性。けれど照明に映える紫色の髪は背中までのポニーテールでちょっと可愛らしい部分もある。それにモノトーンでシックな服装が合わさってお洒落な女子大生感があった。

 そんなレギィさんは脱力したように肩を落とし、一息ついてから言葉を続けた。


「趣味は……女にしては少し変かもしれないが銃器収集だ」

「ほう」


 ざっとテーブルに置いた拓美先輩の箸がレギィさんの方に向いた。興味ありの合図だ。

「じゃあさ、どの銃が一番お気に入りなんだい?」

「H&KのPSG1だ」

「ああ、あれか。専用のスコープが付いてる重たいスナイパーライフル」


 拓美先輩がそう言うと、レギィさんがクールの顔を明るくした。


「おお分かるのか……!」

「もちろん。PSG1はいい銃だ。シューターに合わせてストックを調整できるところなんて競技用の銃に似てるしね」

「そうなんだよ。私の身体に合わせて調整できるし、専用のスコープだってワンタッチで弾道修正できる優れものだ」

「でもあれって八キロ以上なかったっけ? さすがに重たすぎて携行には向かないだろ」

「何を言う。重たいからこそ同一目標に対して連射がきくんだろ」

「たしかにねぇ。重い銃って射撃時のブレが少ないし」


 なにやら二人で盛り上がっている。拓美先輩とレギィさんは銃の話題で持ち切りだ。その様子を俺は「PSG1……なんだ?」と終始呆然としていた。


 だが別にいい。はなからレギィさんみたいなクール系美人は難易度が高すぎる。隙がないというか、綺麗すぎてこっちが萎縮してしまう。だからここは先輩に任せてもう一人の子を狙おう。


 そう思って俺は最後に残った気弱そうな女子を見据えた。


「この二人は置いておいて、次の子。自己紹介してくれるかな?」

「は、はい。えっと、フリストっていいます。今日はヒルデお姉さまに呼ばれてきました」


 おっかなびっくりと口を開く様はまさに小動物。一生懸命にはきはきと喋る姿はいじらしい。中学生くらいに見える童顔に、桜のように可憐なロングヘア。そして碧眼の色に合わせた淡い青色のワンピースはふんわりとして涼しげな印象。若干猫背気味で上目遣いになっているのもグッドだ。全体的に『可愛い』が溢れている。

 今回の合コンで来てくれた女性陣の中では、なんとなく話しやすそうだ。


 やっぱこの子しかねぇだろ。ヒルデさんじゃ失敗したがこの子なら。


 俺の視線が熱いものに変ったところで、フリストちゃんはハイボールのグラスに視線を落とし、自信なさげに言葉を続ける。


「趣味は、アニメ鑑賞です。最近は過去作を見返してます。ドラガンボールとか」

「ふぅん、どうせ改とかスーパーとか言うんだろ」


 正平が鼻を鳴らすと、フリストちゃんは静かに首を振った。


「いいえ、GTです。私、元祖の頃のドラガンボールを集める冒険活劇が好きで、その頃を思い出させてくれるGTも好きなんです。宇宙を舞台にボールを捜し求めるところがなんだか失った冒険心を呼び覚ましてくれますから」


 その瞬間、テーブルに置いた正平の箸がざっとフリストちゃんに向いた。


「えぇ分かりますよ。俺も子供の頃見たっきりですが、主人公が子供の姿に戻るところがビジュアル的にも元祖と似ていて好感が持てますからね」


 この野郎、さっきまで興味なさげにしてたくせに動きやがった!

 不味い。このままじゃ取られる。勝負を仕掛けるなら今だ……でも何で勝負を決めるんだ?


 そう思っていると、ドアが開いて店員が天ぷらの元合わせを持ってきた。

 全員に料理がいきわたったところで、俺はふっと笑う。


「これだ……おい正平、天ぷらを賭けてじゃんけんしよう。勝った方は負けた奴からひとつおかずを貰うってのはどうだ?」

「なにをくだらんことを。今いいところなん……いいだろう。ここはハッキリ勝敗をつけようじゃないか」


 面倒そうに息をついた正平だったが、俺の箸がフリストちゃんに向いているのを認めると拳を突き出してきた。

 そして運命のじゃんけんをしたのだが――


「悪いな、翔。海老天はいただていくぞ」

「ああ……好きにしろ」


 結論から言うとあっさり負けた。

 なんということだ。女どころか海老天まで取られてしまった。

 終わった。俺の合コン……フリストちゃんくらいしかいけそう子がいないのに……これからどうしよう。まだ始まったばかりなのにな。

 だが失意に沈んでいると、天ぷらの盛り合わせがのった皿がさっと寄せられた。


「もう、そんなしょんぼりしちゃって。良かったら私の食べていいわよ」


 そこには銀髪の女神がいた。


「あ、ありがとうございますヒルデさん……!」


 いるじゃないか。優しくしてくれる素敵な女性が。

 気づけば、テーブルに置かれた俺の箸は優しく微笑むヒルデさんに向いていた。

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