第7話 ヒィィ! この合コンレベル高すぎ! ああどうしようもう帰りたいっ!

「なんで拓美先輩も驚いてるんですか……!?」

「いやぁだってさ。俺が呼んだのってよその大学の女の子たちだよ? もちろん日本人の。こんなグローバルな美人さんじゃ絶対ないはずなんだけど……」


 堪らず問いただした俺に気まずそうな笑みを返す拓美先輩。そんな二人の様子を気にしてか、北欧美人がおずおずと歩み寄ってきた。


「あ、あの……実はここに来る予定だった子たちが急な用事で来られなくなって、その代わりに私たちが来たのだけれど……」


 彼女がちらっとドアの方に視線を向けると、そこにはクールな秘書系美人に小柄で可愛らしいマスコット系女子までいた。しかも当然のようにこの二人も日本人離れした容姿だ。


 ヒィィ! この合コンレベル高すぎ! ああどうしようもう帰りたいっ!


 緊張で手足が震えてくる。だって三人が三人とも綺麗で、育ちが良さそうなお嬢さんなんだぞ? そりゃ高嶺の花過ぎて怯えもするだろ。

 自分じゃどうにもできないと悟った俺は、逃げの姿勢になっていた。


「ごめんなさいね、合コンのメンバーが全員入れ替わる形になっちゃって……」

「いやいいよ、気にしないで。俺たちも来てくれたのがこんな美人揃いで嬉しいし」


 銀髪美女相手でも臆することなく笑いかけた拓美先輩は「ね?」と俺に話を振ってきた。


「ま、まあ俺は全然いいけど……」

「そんなことよりさっさと始めよう。何か適当に頼んで……ここ、てんぷらが美味しいらしいぞ」


 すっかり萎縮してしまった俺に引き換え、正平は女の子そっちのけでメニューと睨めっこ。どうやら酒の肴を探しているらしい。野菜や海鮮の天ぷら、つまみの定番のえだまめが並ぶおかずメニューを一通り見てから、店員を呼んでその中から人数分の天ぷらの盛り合わせとビールを注文する正平。


「お嬢さん方は何を飲まれますか? もしお酒が飲めないなら、他にソフトドリンクもありますが」


 しかも相手の飲み物の好みまで率先して訊いているこの配慮。正平めっ、さっきまで帰りたいとか言っていたくせに、なんて『できる』奴だ……!

 これは俺もぶるってる場合じゃないな、と俺も自らを奮い立たせ、ハイボールや梅酒を頼む女性陣を尻目に自分もビールを注文。

 酒だ。酒の勢いがあれば女子と話せる。アルコールでテンション上げてこう作戦の開始だ。


 それから少しして、グラスやジョッキを持った店員が戻ってきて、みんなの手にお酒が行き渡ったところで、拓美先輩がビールジョッキ片手に対面の椅子に座った女性たちに微笑みかけた。


「それではあらためまして、本日の主催者の新堂です。女の子たちは気軽に拓美くんって呼んでくれていいよ」

「えぇ。よろしくね、拓美くん」

「いや、私は拓美と呼ばせてもらうよ」

「えっとじゃ、じゃあ私は拓美さんで……」


 素直に頷く銀髪美女に、すらりとした美女があしらうように言って、最後に小柄で童顔な子が遠慮がちに呟きつつ果肉入りみかんのハイボールをちびちびと飲んだ。


 この子、見た目は未成年だけどお酒飲んでるってことは二十歳越えてるんだよな……全然成人しているように見えない。高校生か……いや中学生にだって見える。


 そんなことを俺が思っている間、拓美先輩の自己紹介が続いていた。


「趣味は大学の部活でやってる射撃と料理です」

「凄いわね。日本で射撃なんて」

「確かに凄いね。競技用の銃でも銃刀法で規制されているらしいから、銃の所持は警察に所持許可を取る必要があるからね」

「へー、だったらこの国じゃ滅多にない技能じゃないですか」


 銀髪の美女もクール系美女も小柄な少女もいい感じに食いついている。銃なんて馴染みのない日本では珍しくてもマイナーすぎてさらっと流されそうだが、彼女たちの場合は違うらしい。外国人だから銃に抵抗がないのだろうか。


「まぁ射撃の話は置いておいて、あと二人、君ら自己紹介よろしく」


 拓美先輩に肘で突かれ、俺は反射的に背筋を伸ばした。


「あ、はい。えーっと、成瀬翔なるせかけるです……! 拓美先輩とは大学が同じで呼ばれました! 今日はよろしく……!」

「よろしくね。翔くんって呼んでもいいかな?」

「も、もちろんです……!」

 銀髪美女に向かって俺は頷いた。緊張して名前くらいしか言えなかったけど――って、しまった! 俺も趣味ぐらい言うべきだった!

 だがもう遅い。


「よろしくお願いします、翔さん」

「翔か……それでそっちの彼は」


 女の子たちが口々に俺を呼ぶと、次の自己紹介へいく流れができていた。

 壁際の席に座った正平が面倒そうに口を開く。


佐久間正平さくましょうへい。以後よろしく。以上」


 お前、興味ないからって無愛想すぎるだろ!

 あまりに素っ気ない態度にそう叫びそうになるが、俺はぐっと堪える。彼女たちを前にして興味ないとか口が裂けても言えねぇ。だってそんなことを言ったら場が完全に冷めるから……つーかこの先どうなるの? 正平はこのザマだし、めっちゃ不安なんだけど。

俺が心配している間、拓美先輩が壁際の席に座った銀髪美女に視線を向けた。


「じゃあ次、そっちの彼女から自己紹介よろしく」

「はい、ブリュ……いえ、ヒルデよ。仕事は地方のテレビ局勤務で、主に番組の企画担当をしているわ」

「じゃあ裏方なんだ。もったいない。その容姿ならモデルとかタレントとかになった方がいいだろうに。ねぇ?」

「まぁそうっすね。もしそうなったら俺たちは未来の人気タレントと合コンしているわけか……」


 拓美先輩に話を振られ、とりあえず褒めておくことにした俺。正直、こんな美人と話すなんて普段なら考えられない。緊張してヒィヒィ言っていたところだ。

 だが手元には酒がある。こいつをあおれば勇気が出る。元気が出る。この気つけ薬があれば根拠のない自信が生まれる。

 そういうわけで、気づけばグラスの六割ほど飲んでいた。


「なんて俺は運がいいんだ。こんな美人に出会うなんて、今日この瞬間で一生分の運を使い果たした気分だ」


 頬が火照り、耳までぽかぽかしてきたところで、俺は悩ましげに首を振った。


「えっと、もしかしてもう酔っちゃった? 早くない?」

「まさか。まだ一杯目ですよヒルデさん? いや、もし酔ってるとしたらヒルデさんの美しさにでしょうか」

「痛いわ。痛々しいわ翔くん。もう私のことはいいから、レギィ自己紹介して」


 なぜだろう。さらりと流された。



(次回に続く)

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