一章 ハイスペック合コン
第4話 合コンに誘われたんだが、俺は……
天井の照明が嫌味なほど眩しかった。
紫色がかった黒のくせ毛を悩ましげにわしゃわしゃと掻く。そして自宅のリビングのソファーにぐったりと身を沈め、俺――
「うぅ~……」
「どうしたの? そんな難しそうな顔しちゃって」
「はぁあぁぁ~……」
「ねえ、ちょっと聞いてる? そこ、真ん中に座られると邪魔なんだけど?」
「んむぉおおお……」
「駄目だこいつ人語話せない……スライムの擬人化かな?」
無愛想ながら可愛らしい声を耳にしつつ、ソファーのど真ん中に陣取ってスライムごっこ。やる気がない時や悩んでいる時はこれに限る。よって無視して継続。
「むぅううう……」
「いい加減鬱陶しいんだけど。唸ってないでさっさと場所空けて」
首だけぐるりと回したそこには、少し不機嫌そうな表情の少女が立っていた。
デフォルメされたアザラシがプリントされた淡い色のパーカーにチェック柄のスカート。肩上までの髪を小さく片方だけ結った髪型と小柄な体型と合わさって小動物的可愛らしさがある格好。幼めだが利発的な顔立ちは俺に似てクールな印象なものの、テレビのリモコンで俺の肩をつんつんするのはせっかちでちょっと困る。
テレビ前のソファーに陣取りたいのか、ずずずっと俺を押しのけ、隅に追いやってくる。隣にどさっと羽衣が座ったところで、俺はおもむろに口を開いた
「妹よ。恋愛って出会いのインパクトが大事だとは思わないか?」
「何、いきなり……ドラマの話? それともアニメ?」
「違う。現実の話だ……」
ふっと自嘲気味な笑みを浮かべ、俺はリビングを見渡した。
四人掛けのダイニングテーブルに収納棚、五十型のテレビやソファーがあるだけのシンプルなインテリア。これだけ家具を置いても広々したリビングはくつろぐには十分すぎるほど開放感があるが、俺の鬱屈とした今の気分からすると自分のちっぽけさを味わうようでどうにもリラックスできないでいた。
「現実って、何かあったの?」
「いやまだなにも。でもこれから起こるかもしれないんだ」
「と、いいますと?」
「合コンに誘われた」
「へー、いいじゃん。行ってきなよ」
「だがここで問題がある。合コンにくるような出会い厨女は俺が受けつけないんだ。無理だろ。対象外だ。股のゆるい恋愛脳ばかりだからな。冗談じゃねぇ」
「それは偏見だよ。出会いの数だけ恋愛があるものでしょ」
「俺は王道な恋愛がしてぇーんだよぉぉぉ……ッ!」
「もぉー、面倒くさいなー」
羽衣がじっとりとした視線を送ってくるが、俺は華麗に無視し、妄想を膨らますように両手を胸の前でわしゃわしゃとした。
「そう、たとえば……朝の登校中にぶつかった少女が実は転校生で、そのあと教室で再会し、ラブコメ的な展開があって付き合うことになる。そんなベタベタな恋愛がしてぇんだよ。合コンじゃこの興奮を味わえないからな……!」
「いや、お兄ちゃんはすでに大学二年生だからそんな甘酸っぱい学園ラブコメからわりと遠いところまできてるよ」
「うう……っ」
今のは効いた。転校生シチュエーションがあるとしても高校生までだ。そんなの分かってる。だが妹の口からあらためて聞くとなかなか衝撃的だ。辛ぇ。現実が辛ぇよ。
渋い顔で俯き、やるせない気持ちを鎮めようとする俺に羽衣の無遠慮な声が降り注いでくる。
「で、結局どうするの?」
「保留にしてある」
「散々のたまったくせに保留とか、やっぱり未練あるんじゃん」
「だって彼女欲しぃもん……!」
ついに本音が出てしまった。この歳になっても彼女の一人もできたことない寂しい男の悲痛な叫びだった。
「お母さーん。お兄ちゃんが彼女欲しいけど合コンは嫌だって贅沢いってるよー」
駄々っ子のような俺を見かねてか、羽衣が援軍を呼んだ。
(次回に続く)
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