第3話 あの手この手で邪魔をする! ぜったい終末戦争(ラグナロク)を阻止してみせる!

 腕輪型の携帯端末を操作し、私はルーレットを回転させた。


「ですが、普通のルーレットのようにただ回転させて投げるのではゼウス様に対する冒涜もいいところです。確実に終末戦争に命中するでしょうから面白くありません」


 私は投影ウインドウを開いた。胸まで持ち上げた腕の上で光のパネルが現れ、そこに各種ギミックアイコンが見て取れる。そのうち『ランダムモード』と書かれたものをタップする。

 回り続けるルーレットの、色分けされた災害パネルが目まぐるしく入れ替わる。


「このように災害の内容がかかれたパネルを入れ替えることによって、ドキドキ感を演出し、さらに」


 続いて『曇りガラスモード』と書かれたアイコンをタップすると、電子パネルがすりガラスに覆われたように不透明になった。


「肉眼ではわからないようにすることによって、ゼウス様がダーツを投げてもどこに当たるか分からないようにします」


 ルーレットの妨害ギミックに、神々が納得の表情を見せる。


「確かに……ここまでしなければルーレットでダーツをする意味がないからな」

「ええ、そうでしょうなぁ。回転し、さらにランダムで配置が変わってもゼウス様なら目押しで当てられるでしょうし」

「さぁ、神々の運命、そして人類の命運をかけた一投です。果たしてこんなお遊びで決めてよいのでしょうか……答えは否です! なぜならこれはお遊びではありませんから」


 そう言うと、私はゼウス様に歩み寄った。ポケットから黄金のダーツを取り出し、手に平に乗せて恭しく差し出した。


「では、どうぞゼウス様」

「うむ」


 ダーツをつまみ上げ、半歩足を開いて構える。針先がルーレットに向き、ゼウス様が狙いをすますように片目をつぶる。


「「「「――ラグナロク! ラグナロク! ラグナロク! ラグナロク!」」」」


 終末戦争を望む声と一緒にパチパチと手拍子が響く。

 そして、鍛え抜かれた腕が一瞬動いたかと思うと――

 放たれた。ぐるぐると回るルーレットに、ランダムにパネルを入れ替わる電子パネルに。


 ザク……ッ!


 刺さった。外周付近。どうやらランダムにパネルの表記が動いているから、中心じゃなくて面積が広い外側を狙ったようだけど、大丈夫かしら……。

 いえ、大丈夫よ。回転し、ランダムで切り替わり、曇りガラスで的すら曖昧に見せてるのよ? いくらゼウス様でも……って、え!?


 端末のウインドウに点滅する文字を見て私はぎょっとした。


 終末戦争ラグナロク。刺さってる。ぶすりと容赦なく刺さってるわ……!

 そんな、嘘でしょ、ここまで細工してるのに――いえ、細工ならまだ出来るわ。曇りガラスモードがある今、入れ替えてもバレないわ。

 不正行為だけど、もうこれしかない。最後の手段よ。オーディン様だって私にこれをさせるために司会にしたようだし、強引な手段でもやるしか……でもどれに入れ替えようかしら? どうせならなるべく安全そうな……。

 巨大地震による津波(三〇メートル以上)。核戦争。巨大隕石飛来。あ……ダメだわ。どれも大勢の死者が出るじゃ……あ! これは……これなら終末戦争と同じ赤字で書かれているしすり替えてもバレないわ!


 ルーレットの回転が弱まっていく中、私は一番大丈夫そうなモノと終末戦争パネルを入れ替えた。

 そして回転が止まった。


「さぁ、曇りガラスモードを切って確認しましょう」


 何食わぬ顔でアイコンを押し、曇り加工がなくなると私は手振りで示した。


「お、おおっと! 今回のルーレットで選ばれたのは『神界特別企画! 異世界に飛ばしてみた!』です」

「…………」


 講堂が静まり返る。その数秒後「ゼウス様が外した……嘘だろ」とか「特別企画って何だよ?」という声がちらほらと上がってくる。


「おかしいのぉ? 確かに終末戦争に刺さったはずなんじゃが……それにさっきノイズのようなものが見えた気が……」


 不味い。さすがゼウス様。完全に欺くのは無理ね。だけど今の私は司会者。会話で誤魔化すこともできるわ。


「機材の不調でしょう」

「このタイミングでかね?」

「きっとゼウス様が投げたダーツが原因です。神の力は偉大ですから」

「うむ。そうか」


 どうにか納得してもらうと、私は端末のウインドウから『特別企画』の項目を開いた。

 ざっと内容に目を通し、それから微妙な反応をしている神々に視線を移す。

 これが、彼らの退屈を消し飛ばしてくれるものと信じて、私は企画の説明をするのだった。

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