True Murderer
吾妻 遼平
第1話
桜振り散る春。今日は入学式の数日後。俺にとって新しい環境というものは慣れるのに時間がかかる。高校という舞台において関係を一から構築するのはとても気が滅入ることだ。
それに俺は変人という要素もあるせいか余計友達ができなかった。
中学時代もほとんど友達ができずに終わった悲しい過去がある。
悲しいなぁ。
〇 〇 〇 〇
朝、俺はもそもそと朝飯を食いながら朝のニュースを聞いていた。最後にじゃんけんをするこの番組は割と気に入っており、毎朝見る日課になった。
話題はつい最近の中学生の殺害未遂で意識不明の重体になったというニュースで持ちきりだ。
「やーねぇ。……何者かに襲撃されたらしい、だって〜。犯人が見つかってないらしいし怖いねぇ〜。…しかもこれ、あんた前通ってた中学校じゃない」
弁当作りの手を止めた母のが、驚いたような口調でそう言った。どんなニュースでも必ず感想をいう母に若干うんざりしながら、俺は適当に「ああ」と相槌を打ち、朝飯がわりの菓子パンを食べ切る。
そして、母から弁当を受け取ると、椅子に掛けてある鞄をも手に取り、
「いってくるわー」
俺はそんな言葉と共に家を出る。
まだ冬の名残が残っており外はひんやりと寒い。
だが、朝はこのくらいが心地よい。そんな涼風を受けながら風を切って自転車で疾走する。高校はうちから近い。わずか数分足らずで着けるのが唯一の我が家の良い点だ。
汗一つかかずに俺は学校へ到着する。駐輪場へ止めた後、校舎へ入り教室へ向かう。
教室はすでにほとんどの人が来ておりどうやら最後は俺のようだ。だが、先生はまだ来ておらずホームルームは始まっていない。
「よっ」
席についた時、前のやつが話しかけてきた。もうすでにグループ作りが始まっている中、話す人が俺しかいないところを見ると出遅れているようだ。まぁ、俺も人のことを言えないんだが。
「おはよう、星影。今日は早いね」
「なーに言ってんだ、総悟。これでも遅い方だぞ」
俺を馴れ馴れしく下の名前でよぶこの人物は
俺がこの高校へ来て初めて喋った人物であり、一般的な言い方をすれば友人なのだろうか。
一緒にいると何かと都合がいいだけで、そこには友情とか、これっぽっちも存在しない。だが、これをいうと怒らせてしまうのは中学時代に学習したため言わないが。
普段からこんなことを思っているため、世間一般では俺のようなやつのことを〝厨二病〟
というらしい。そんなものと一緒にするとはけしからん。
こんな感じで、俺の高校生活は星影と共に始まった。
〇 〇 〇 〇
「ーー ぃ!おい!三日月!起きろ!」
「ーー。ッ!?」
聞き覚えのある声により意識は強制的に覚醒する。
やべっ。ぼんやりしていた。普段俺の名前は呼ばれる機会が少なくうっかりすると直ぐに忘れてしまう。俺の名前は
「お前、寝てたからさ勝手に決めたけど男声パートでいいよね?」
ああ、合唱のパート分けね。歌なんて歌う意味なんてあるかどうかいつも思っていることだが、これもやはり口にしてはいけないだろう。
「ああ、助かる」
星影は自ら合唱を取り仕切る委員会みたいなもの入っている。……それしてもやはり複数でつるんでいると何かと便利だ。今回みたいにミスをしてもきっちり補填してくれる。恥ずかしいから言わないがこっそり感謝しているのだ。
…
練習がはじまった。わざわざ放課後に残ってまで練習するとか、たかが文化祭のコンクール如きに本気になってんの?今日もやりたい事があったのに……。
帰宅部の俺を早く返させてくれよ。
歌う曲は「ミラクル☆スターレイン」
なんじゃこの曲。いかにも勇気づけようとするのが目に見える浅い曲だ。……だが、どっかで聞いたことがあるな。
「なあ、この曲昔替え歌で流行らなかったか?」
俺は隣に立つ星影に何気なく聞いた。すると、不自然なほどに肩が跳ね上がり「え、あ、そうなの?…僕は知らないな…」と段々と小さくなっていく声できょどりながらそう言った。
普段明るいだけが取り柄の星影が珍しいと、若干訝しんだが俺はそれ以上は追求しなかった。
俺が言った「替え歌で流行らなかったか?」という言葉を後ろの誰かが聞き、記憶が掘り起こされ、ちょっとしたブームが再来した。クラスの男どもはこぞって休み時間でにその替え歌が歌うようになった。
その替え歌とは、原曲の明るい歌詞とは真逆の、貶すことに特化したような曲だ。聞く人が聞けば不快感を与える歌詞はやはり今聞いてもやはり不快だな。と俺はつくづく思った。
そして、
その歌が歌われ始めた日から星影は学校に来なくなった。
〇 〇 〇 〇
……ふむ。やはり話す相手がいないと孤立しているように見える。これじゃ不恰好だ。周りはグループ形成は終わっており俺が入り込む隙間はない。やや億劫だが、星影を呼び戻せるか……。そんなことを考えていた朝、俺はとんでもないニュースをみた。
「……です。昨夜未明、糸霧高校に通う川島康晃(16)さんが下校中、何者かに頭部をバールのようなもので殴打されました。通行人が警察に通報しましたが、その場で死亡が確認されました。警察は防犯カメラからの情報で昨夜から行方不明となっている星影悠斗容疑者をーー」
なんだ…?聞き間違いか?星影が殺人?……。心臓が跳ね上がる…。
……とりあえず学校へ行こう。
教室はあの話題で持ちきりだ。数名が俺のところへ来て何か知っているか聞くが、俺は何も知らないの一点張りだ。
こうして1日目が終わった。そして次に待ち構えるのは二日目だ。
「ーーー昨日昨夜未明、下校中の男子生徒ーーさんが頭部を鈍器で殴られ死亡しました。警察は昨夜起きた星影悠斗容疑者との事件に関連性が高いと見て捜査ーーー」
震えが、震えが止まらない。やはり星影だ。あいつが殺人を繰り返している。
改めてその事実を突きつけられ思考に耽っているとーー突然携帯の通知が鳴った。
「…ん?」
メールだ。そして相手はーーーー星影だった。
その差出人を見た時、今更ながら思い出した。彼と入学式初日に連絡先を交換したことに。
そして息を呑みながらメールの内容を確認した後、俺はゆっくりと準備を始めた。
〇 〇 〇 〇
朝、温度も落ち着きまた一段と夏へと近づいている今日この頃。俺はいつもより早く学校へ着いた。目的はもちろん、あいつに会うため。
俺は落ち着いた心でゆっくりと階段を上がり、屋上へ到着した。
そして、ゆっくりとノブを捻り開けた。
「や。待ってたよ」
幾度となく、その声の主と会話をし、話を弾ませてきた。聞き慣れた声の主は手をひらひらと手を振りながらベンチに座っていた。
ーーただしいつもの柔和な顔立ちではなく、狂気をその顔に貼り付けて……。
俺が姿を現したのを確認すると立ち上がり、俺に数歩近づく。
俺が先に口を開いた。
「一応、聞いておこう。どうしてこんなことをした」
「あれれ。普通、情熱的に『どうしてこんなことを!?』という風に聞くのがお約束じゃないのかな」
「もう、俺の感情はーーすぎて限界突破しただけだ。答えろ」
「そうだねぇ、まぁ理由としては君。君が主な原因だ」
指をさし微笑を浮かべる星影はかつて一緒に談笑していた頃と似ても似つかない。雰囲気だけは一流の殺し屋だ。そしてその彼から言われた言葉に眉を顰めた。
「俺?」
「そう、君さ。と、言っても君にはなんのことかさっぱりわからないかもしれないね。しゃーない。一から説明するためにはまずは僕の過去から話さないとね」
「手短に言え」
「つれないなぁ。じゃあ、ご希望通りに……。
……小学校時代から中学時代、僕はいじめられていた」
淡々と話しているが、衝撃的な内容に俺は目を見開く。これまで彼と話していてそんな様子は微塵も感じなかったからだ。
「それはそれは苛烈ないじめだったそうだ。物は隠され壊され捨てられ。そんなことは日常茶飯事だったよ。だからね。高校は彼らとは離れたここを選んだんだ。そう、逃げたんだよ。ふふふだけど運命って残酷だよね。逃れられたと思いきや気づけばすぐそこさ。
そう、あの替え歌さ。あれは僕のいじめの象徴。中学時代、外野が僕を貶す歌としてよく歌っていたよ。……よくもあんなものを思い出させてくやがって!…とまぁ、久しぶりに再燃した僕は勢いのまま、かつての主犯格達を殺めたってワケさ」
その答えを聞いて俺は遂に体の震えが止まらなくなった。
そんな俺の様を見て不敵に笑う星影。
「ふふふ!ようやく分かったかい!?次の標的は君さ!僕の思い出したくもない過去をーー」
「違うよ」
星影が何か勘違いをしているようなので、俺は静かに否定する。そう。今の俺の体の震えは恐怖ではない。ーー歓喜だ。
俺が話を遮ったのが不快だったのか星影は顔を顰める。
そんな彼の様子を尻目に俺は鷹揚な口調で話を続ける。
「俺は君にわざわざ殺されるためにここにのこのことやってきたワケじゃない。むしろ逆さ。……この前中学生が殺されかけたっていうニュースがあったよね?ーーあれの犯人は俺だ。元来俺は〝悪〟を許せない性……。故に犯罪を犯すやつは俺がこの手で始末してきた。例えどんなに小さな犯罪でもだ。……その分、君はやりやすい」
「何…?」
俺の言葉の意味が分からず星影は聞き返す。
「いくら俺でも証拠を残さず始末するのは手間がかかる。しかも前回の万引き犯は証拠を消すのに手間取って殺し損ねた。だが、君は自分から俺を殺そうとしている。正当防衛で手間が省ける。屋上から突き落としてもいいし、君の持ってるバールを奪い取るのもいい。……それに正真正銘お前がイカれたやつだと分かったからな、心置きなくやれる」
「…この殺人鬼め……っ」
「お前がいうな、かな」
そうして、星影はその手にバールを。俺は拳を構えた。
狂者たちによる宴が今始まる。
True Murderer 吾妻 遼平 @Zyeneshisu_0406
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