第139話 異空間の狭間の神気
それから2週間が過ぎた。何も進展がなく時間だけ過ぎていた。
そんな時、ずっと休んでいたソラが久しぶりに学校に来た。
さすがのソラも今回は懲りたようだった。
「ほんと、疲れた……」
「家で療養してたんじゃないんだ?」
「それならどれほどよかったか……」
そう言いながら遠くを見つめるソラを見て、サクラは聞いてはいけないことだったと反省する。するとソラが振り向き、すがるような顔を向けサクラに詰め寄ってきた。
「サクラ」
「ん? なに……?」
ソラの行動にサクラは一抹の不安が過る。こういう時のソラは限界を超えた時のソラだ。
「放課後、何があったか聞いてくれる?」
――やっぱり!
ソラは、普段あまり自分のことは話さないが、限度を超えた時、不満を爆発させるようにサクラにずっと話すのだ。その時のソラは、いつもの無口はどこへやら、饒舌にずっと話しているのだ。そして少しでも聞いていないと、「サクラ、聞いてる?」とチェックが入る始末。
それが最低でも1時間は続く。これがけっこうきつい。だがそれがソラのストレス発散方法ではあるため無下には出来ない。
「う、うん。わかった……」
顔を引きつけながら答える。
「じゃあ放課後ウエストの部屋で」
ソラは嬉しそうに言うのだった。
放課後、ウエストの部屋でサクラはずっとソラの愚痴を聞いていた。だがやはり1時間過ぎると集中力も切れてくるものだ。
ぼうっとして聞いていないと、すぐにソラから注意が飛んでくる。
「サクラ、ちゃんと聞いてる?」
「う、うん。聞いてる聞いてる」
慌てて答える。
――そうよ。ちゃんと聞いてあがなくちゃ。ソラをこうした原因は私なのだから。
するとまたソラは話し始めた。
結局サクラは、ソラの話を2時間近くずっと聞かされていたのだった。
すべてサクラに吐き出したおかげで、ソラは落ちついたようだ。だがその反対にサクラはげっそりと机に項垂れていた。
「どうした? サクラ」
――ソラのせいよ……。
心の中で反論する。そんなサクラにソラは訊く。
「あれから何か分かった?」
ナギのことだと分かる。サクラは顔を上げて窓の外を見て微笑む。
「ううん。全然。ほんと、いつになったら帰ってくるのやら……」
「諦めてないんだね」
「うん。当たり前でしょ。帰ってくるって言ったんだもん。ナギは必ず戻ってくるよ」
ソラを見て笑うサクラの心は本心からだと分かりソラは笑顔を見せる。
「そっか」
そしてソラは改めてサクラに質問する。
「ねえ、サクラ」
「ん?」
「ユウリって誰?」
「え?」
ずっと気になっていたことだ。
「ごめん、ずっとサクラの心の片隅に大きな存在としているから……」
サクラは笑顔を見せる。
「ナギの友達で、私の弟みたいな、私の一番の理解者の大事な子だよ」
ソラはフッと笑う。
「なんだ。俺よりも理解者なんだ」
「うん。当たり前でしょ。昔から知ってるんだから」
ソラは悪戯な顔をする。
「ナギ、かわいそう。許嫁なのに、他の男を大事だって言ってる」
「残念でした。ナギにとってもユウリは一番の理解者で大切な存在なの」
――そう、ナギとユウリはお互いの記憶や気持ちを共有している一心同体のようなものなんだから。それに――。
「ナギを見つけるのはユウリなんだから」
それにはソラは驚いた顔を見せた。そんなソラにサクラは笑顔を見せる。
「だから私はただナギを待つだけなんだ」
その言葉は本心からの言葉。それを分かってソラも微笑む。
「そっか」
「うん。で、見つけれなかったら怒ってやるんだから」
「ユウリ、かわいそう」
「ユウリだけじゃないわ。ナギが帰ってきても怒るんだから! 勝手なことしてって!」
「あはは。ナギも帰ってきたくないかもね」
ソラとサクラはお互い顔を見合わせ笑うのだった。
ユウリがナギを探し始めて3か月が過ぎた。
ナギを探し始めた最初の頃は、異空間の狭間に探査能力を使うことがうまく出来ずに苦戦を強いられた。そして何度も挑戦すること1ヶ月、やっと異空間の狭間の探索が出来るようになったのはよかったが、無限に存在するであろう広大な場所でナギを探すのは容易ではなかった。
サクラとは3日に1度話すようにしていた。それはユウリが能力を使わない日を作るためでもあった。だがサクラと話さない時はユウリはずっと能力を使いナギを探していた。
最近では、焦りからか公務そっちのけでガラス玉とにらめっこをしている次第だ。
「ユウリ様、大丈夫ですか?」
ソファーに寝転んで休んでいるユウリにディークが紅茶を出しながら気遣う。
「うん」
「あまり根詰めてもいけません。紅茶をどうぞ」
「ありがとう」
ユウリは起き上がると紅茶をすする。
「なかなか見つかりませんね」
「うん。やっぱり霊魂だけだと僕のにもヒットしない。もうけっこうお手上げだ」
そう言ってユウリはふんぞり返る。
「やはり異空間の狭間では、何も反応しないんですね」
「いや、微妙だけど、僕の父さんの気に似たものを感じるんだよね。でもナギのじゃないから」
「ユウリ様のお父様のですか?」
「うん。うちの父さん、2つの気を持っててさ。1つは妖気で、もう1つは神気なんだ」
「神気……ですか?」
「うん。うちの父さんは皇族の血を引いているんだ。皇族っていうのが神の子孫だから神気も持っているんだよ。その神気に似たものだけは感知するんだよね」
そこでディークは目を見開き、前のめりになる。
「それってユウリ様の世界の神気ってことですよね?」
「うん」
「おかしくないですか? そんなものが異空間の狭間で感じるっていうのは。あの場所は霊魂のみのはずです」
「! 確かに!」
ユウリもふんぞり返っていた体を起こす。だがすぐに疑問がよぎり手を顎に当てて首を傾げる。
「でもなんで神気を感じるんだろう?」
「神気ということは神の力ですよね。何らかの力が働いていてもおかしくないと思います」
「確かに! じゃあそれがナギ!」
「わかりませんが、ユウリ様がそれしか感知出来ないということは、そういうことなんじゃないですか?」
ユウリは立ち上がると、ガラス玉が置いてある机の前に来て能力を使う。やはりその神気しか感じない。
「ディーク。この神気をこちらに呼ぶ」
ユウリの妖力が膨れ上がる。そしてユウリの横の床に魔法陣が現れた。驚いたのはディークだ。
「ユウリ様! それは魔法陣では!」
「うん。そんなようなもの。ナギの記憶から同じようなものを再現した」
「再現ですか……」
――確かにユウリ様の能力は物質を具現化するものだ。だとすると魔法陣も同じ原理で出来るということか。
ディークは口角を上げる。
――ほんと怖いお方だ。下手すればナギ様よりも怖いのでは。
するとユウリが叫ぶ。
「くるよ!」
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