第138話 ナギの見つけ方



「あちらの世界では無理なんだ。だから僕に知られるようにしたんだ」

「ユウリ様に探させるためですか?」

「うん」


 ――あの時、ナギはこのことを言っていたんだ。



        ◇



 サクラの夢を見て、ナギに問い詰めた時だ。


「ナギ、なぜ黙っているんだよ」

『ユウリ……すまない……』


 そう謝ってからナギはサクラが行方不明でどこにいるか分からないと話した。


『この国からは出ていないことは確かなのに、うまく隠しているのか、サクラの居場所が見つからない』


 珍しくナギの声が沈んでいた。


「ナギの魔法でも分からないの?」

『ああ。ここまで広い範囲だと難しい。それに能力で隠されてしまうと難しいな』

「じゃあ僕の探索能力はどうかな?」

『お前の?』

「うん。僕の昔の記憶に森でサクラちゃんを探している記憶があるはずだ。それならサクラちゃんを見つけることが出来るはずだ。あの時妖魔が森にいたんだ。それも妖力を探知する妖魔だった。だから僕は薄い探知能力を森全体に張り、サクラちゃんだけの妖力を探したんだ」

『妖力を追うのか?』

「すこし違うかな。説明が難しいんだけど、その人自体を追うんだよ。姿、形、声全てで感知するんだ。だから親しい人じゃなければだめなんだけどね。僕の能力は、知っている人限定という欠点があるけど広範囲可能ていうのが利点だ。不思議なんだけど、たぶんどこまでもいける」

『どこまでも?』

「うん。一條家の具現化の能力と似ているかも。イメージすれば出来る感じかな」


 具現化出来るようになったから分かる。探索能力も、この具現化の能力の延長なのだ。


『すごいな。見直したぞユウリ』

「でしょ」


 ナギには見えないのに胸を張ってみせる。するとナギはまったく関係ないことを訊いてきた。


『一つ訊くが、この能力は異空間でも可能か?』

「異空間?」

『俺とお前がどうして通話出来るのかの説明の時に異空間の狭間の話をしただろ』

「ああ。あれね」

『あの場所も可能か?』

「どうだろう。やったことないからなー」

『そうか』

「なんで?」

『いや、いつか必要になるかもの話だ』

「?」

『その時が来たら頼むな』

「どういうことだよ」


 するとナギが笑った気配がした。


『それは今はまだいい。まずはサクラだ』


 相変わらず肝心なことをすぐには言わない。だが確かに今はサクラだ。


「そうだね。僕がサクラちゃんを見つけた時は小さかったから時間がかかったけど、ナギならもっとうまく出来るよね? それをナギの魔法に当てはめてやれば出来るはずだ」

『ああ。大丈夫だ。これでサクラを見つけられる。ありがとな、ユウリ』

「絶対サクラちゃんを見つけて! ナギ」

『ああ』


 そこでナギはふっと笑う。


『この前の氷河の竜の時と反対だな』

「そうだね。じゃあ今度は僕が聞くよ。できないなんて言わないよね?」


 ナギは片方の口角をあげ鼻で笑う。


『誰に言っている。俺はお前みたいに出来ないとは言わない』

「うん、知ってるよ。僕はナギのことを一番知ってるんだから」

『ああ。そうだ。俺もお前のことを一番知っている』



        ◇



「その時はサクラちゃんを探す事の方が優先だったからそれ以上は聞けなかったし意味が分からなかったけど、たぶんこのことを言っていたんじゃないかって思うんだ」

「そうかもしれませんが、出来るのですか? その異世界の狭間にどうやって感知するのです?」

「うー。それを言われると……まったく」


 ユウリは今までの威勢が無くなりシュンとなる。やはりとディークはため息をつく。


「まあそうだろうと思いましたが、まあユウリ様にしてはまともな考察ですね」

「言い方が何か棘があるんだけど……」


 口を尖らせて文句を言うが、ディークは無視をし話しを続ける。


「私が思うにユウリ様の考えでよろしいかと思います」

「ほんと!」

「ええ。そして向こうの世界と通信されているガラス玉から異世界の狭間に接触してナギ様を探せばよろしいかと」

「え? あのガラス玉で?」

「ええ。一度そのガラス玉を見せてもらってよろしいですか?」

「うん」


 ユウリとディークはユウリの部屋へと行くと、ディークはガラス玉を手に取り魔力を流す。


「やはりそうですね」


 ディークは納得して微笑む。


「これは一般的に使われている通信手段の物を応用したものです」

「応用?」

「はい。普通はこのガラス玉に映像も映り、相手の顔を見て話すことも可能です」

「そうなの? でもこれは声しか聞こえないよ」


 ナギからも映像が映るとは聞かされていない。


「それは距離が遠いのと、ナギ様がおられる世界が魔力がない世界だからだと思います。これは自然にある魔力と通信する者の魔力を使って会話するものです。ですが、ナギ様の世界には魔力がないのと、ユウリ様も魔力がないのが大きな原因でしょう」

「それって、魔力が足りないから会話しか出来ないってこと?」

「はい。そうです」

「じゃあ探せないんじゃ」


 音だけでは見つけようがないのだ。


「会話だけですが、このガラス玉自体の機能は映像も声も出来るものです。そして魔力も通す。ですからユウリ様の妖力も通すということです」

「……ごめん、まったく意味が分からないんだけど」


 ユウリは申し訳なさそうに笑う。


「でしょうね。ユウリ様の頭では無理でしょう」

「さっきからすごい棘があるのは、ディークに内緒にしてたからかなー」

「……」


 否定しないということは、そうらしいとユウリは額に冷や汗を掻く。


「要はユウリ様の探索能力はこのガラス玉を通して出来るということです」

「でも異世界の狭間の場所ば分からないんだけど」

「先ほど瞬間移動の説明で入口と出口があるとお話しましたよね?」

「うん」

「このガラス玉の通信もそうです。ユウリ様の方を入口とすると、異世界の狭間を通ってナギ様の世界にあるガラス玉の出口へと行く。もし向こうの出口が塞がっていたらどうなります?」

「そうか! 異世界の狭間に留まる!」

「そうです。ですからサクラ様と通信をしなければ、異世界の狭間でユウリ様の妖力は留まるはずです」

「じゃあそれでナギを見つければいいんだね」

「そうなります。ただ……」

「ただ?」

「ナギ様は異世界の狭間に移動した瞬間、実体は無くなります」

「うん。そう言ってたね」

「だと霊魂だけの状態だということです。それをユウリ様が感知出来るのかが……」


 ――確かにそうだ。僕の探索能力は、ナギの姿、形、声全てで感知するものだ。霊魂だと姿、形、声も出せないはずだ。だけど!


「無理かもしれないけど、まずやってみるよ!」

「ユウリ様」

「ナギに何度も言われたんだ。やる前から無理だと思うな。出来ないと言うなってね」

「!」


 氷河の竜の時も言われたことだ。


『だからいつも言ってるだろ。やる前から出来ないと言うなと。お前の悪いところだ。一度とことんやってみてから出来ないと言え』


 そう言ったナギを思い出す。


「僕もそう思えるようになったんだ。やる前から出来ないと言ってやらないのはよくない。とことんやってみてから出来なかったって言おうって」

「ユウリ様……」

「それにナギが出来ないことを僕に託すわけがない。ナギは僕のすべてを誰よりも知っているやつなんだ。そのナギが僕に見つけろと言っているんだ。絶対に出来るはずだ」


 ディークはふっと笑う。


「ほんと、ユウリ様には驚かされます」

「え? なんで?」

「とても成長されたので」

「ほんと?」

「ええ」


 ――だからあなたを見ていたいんですよ。とは言いませんが。


「じゃあやってみる!」

「ええ。じゃあ私は私でやることがあるので」

「え? 何をするの?」


 ユウリは不思議そうな顔をする。だがディークは悪戯な顔をして応える。


「それは今は内緒です。ユウリ様はまずナギ様を見つけることに専念してください。どんなことをしても死なないナギ様ですが、いつまでも異世界の狭間に滞在しておれるわけではないと思います」

「そうだね。わかった! ナギを探すよ!」


 そう言うとユウリは椅子に座り、ガラス玉を睨む。


「ナギ、絶対に見つけるから! 待っててよ」


 そして目を瞑り、ガラス玉の中に集中するのだった。それを見たディークは微笑む、部屋を跡にした。




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