最終章

第135話 ユウリとサクラ、再会①



 ナギがいなくなってから2週間が過ぎた。


「サクラ、元気そうだな」


 ミカゲがナギの家にサクラの様子を見にやって来た。


「はい。もう普通に生活出来るまでになりました」


 サクラは笑顔で応える。


「そうか。ナギが帰って来るまでここにいるのか?」

「はい。ユウケイおじさまもここにいていいと言ってくれました」


 サクラが目覚めたのはナギがいなくなった3日後だった。その後ユウケイからナギがいなくなるまでの経緯を聞いたサクラは、ナギが帰って来るまでユウケイの家に居させてほしいと願ったのだ。

 テツジ達は家に帰ってほしかったようだが、サクラの気持ちを優先してくれ、しぶしぶ了承した感じだ。


「何か手掛かりありましたか?」

「いや」

「そうですか……」


 ナギがいなくなってからずっとミカゲ達はナギを探していた。だが何の手掛かりも見つからずお手上げ状態だった。


「ユウケイも毎日天神郷てんしんきょうへは行っているみたいだが、まったくだ」

「いつ帰ってくるんですかね」


 そう言って笑顔で庭を見つめるサクラの姿はミカゲからしたら痛たましく見える。


「サクラ……おまえ……」

「先生、私は大丈夫です。ただナギが帰ってきたら文句を言いたいだけですから」

「文句?」

「はい。だってあれだけ待ってろと言ったのに、本人が待ってないんですから」


 そう言いながら微笑むサクラに、ミカゲは言いかけた言葉を飲み込む。本当の気持ちを押し殺し無理して笑っていることは分かっている。だがそれをあえて穿り返すことは今のサクラにとって残酷なことであり意味がないことだ。だからあえて気付いていないふりをする。


「ああ……そうだな」

「それに必ず戻ってくるって信じてますから」

「……」

「だってナギは言ったことは必ず守るやつですから」


 その言葉は嘘偽りはない本心からだろう。そしてミカゲも同じ思いだ。


「そうだな。あいつはそういうやつだ」

「はい」


 ミカゲが帰ってからサクラは自室に戻る途中ナギの部屋の前で足を止める。そして扉を開け、そっと中を覗く。ナギの部屋はそのままになっていた。


「ナギ……」


 ミカゲの前では大丈夫だと笑顔で言ったが、そんなことはない。自分のせいにするなと言われても無理なものは無理だ。現に自分のせいでナギがいなくなったのだ。考えるなというのが無理な話だ。だがみんなの前でそんな姿を見せたら余計に心配をかけてしまう。だから自分の胸だけに留めている。


 だがやはりナギの部屋を見るとナギを思い出してしまう。いつも窓辺のソファーの椅子に座っている姿。疲れたと言ってベッドに寝転んでいる姿。床で腕立て伏せをしている姿など。

 だからあえてナギの部屋には入るのをやめていた。


 サクラはそっと扉を閉め、自室に戻る。


「……うっ!」


 部屋に入り扉を閉めた瞬間、我慢仕切れず、その場に座り込み声を押し殺し泣いた。




 それから1週間が過ぎた。

 今日はサクラの父親のテツジの誕生日のため、家族で食事をして帰ってきたのが10時を回っていた。


「サクラ、まだ一條家にいるのか?」


 一條家まで車で送ってくれたフジが帰り際に言う。


「うん。ナギが戻ってくるのを待ちたいから」

「……そうか」


 サクラは車から降りると、助手席の窓が開き、アヤメが言う。


「さくら、また近いうちにご飯行こ」

「いいけど、お姉ちゃん仕事休めないでしょ」

「うっ!」

「だな。これから忙しくなりそうだからなー」

「どうにか休み取るわよ!」

「無理しなくていいよ。いつでも行けるんだから」


 サクラは笑いながらアヤメに言う。


「じゃあおやすみ」

「おやすみ」


 そこでフジとアヤメの車を見送るとサクラは門をくぐり中へ入る。そして警護の者に挨拶をし自室へと行く途中、ナギの部屋の前で止まる。


「?」


 ナギの部屋から何か聞こえていたのだ。


「なに?」


 サクラはそっとナギの部屋の扉を開ける。中は窓の月明かりでけっこう明るく見渡せた。サクラはぐるっと部屋を見渡すが、当たり前だが誰もいない。気のせいかと扉を閉めようとした時だ。


『~~~~』


 何か声が聞こえた。


 ――え?


 サクラは閉めようとした扉をもう一度開け、声の出所を探す。するとナギの机の上に光を発している玉があるのに気付いた。どうもそこから声が聞こえているようだった。なんだと思い耳を澄ませてみれば、やはり何か声が聞こえている。


「ラジオ?」


『……ナギ。いたら返事して』


 サクラは部屋へと入り、そっと近づく。するとだんだんと声が大きくなっていった。


『ナギ! どうしたんだよ! ナギ! いたら返事いしてくれ!』


 サクラは目を見開く。その声はよく知る人物だった。


「……ユウリ?」


 サクラはばっと光っている玉へと近づくともう一度叫んだ。


「ユウリ?」

『……え? サクラ……ちゃん?』


 そのその声はまさしくユウリだとサクラは確信する。


「ユウリだよね? そうでしょ!」

『うん。それよりサクラちゃん、無事だったんだ! よかったー』

「えっ、う、うん……」

『よかったー。もうどうなるかって心配してたん――』


 サクラは嬉しさと懐かしさなど、色々な感情がいっぺんに押し寄せ、ユウリの話はまったくサクラには入ってこなかった。ただ涙がこぼれる。


「ユウリだ……ユウリだ……。よかった、生きてた……」


 泣きながら言うサクラにユウリはどう対応していいか困りあたふたする。


『サ、サクラちゃん、泣いてるの? ご、ごめん、なんか僕した? あ、ど、どうしよ、泣かないでサクラちゃん。僕は元気だから』


 それからサクラが泣き止むまでユウリはずっと謝っていた。


『サクラちゃん、大丈夫? ど、どうしたら泣き止んでくれる? ごめん、僕がいけないんだよね?』








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