第134話 最終手段



「ナギが犠牲になるって言ってるんだ」

「どういうことだ……」


 するとナギが説明する。


「俺に黒銀くろがねの魂を乗り移らせ、異空間の狭間に転移する」

「異空間の狭間に転移? 分かるように説明してくれ」

「簡単に言うと、この世界じゃない場所に移動するということだ」

「……その異空間の狭間に入るとお前はどうなる?」


 レンジは静かに聞く。


「そのまま行けば、肉体は消えるだろうな」

「消える……だと?」

「ああ。異空間の狭間は霊体しかいけない場所だ。もし異世界へ移動する場合、一度その場所で肉体はなくなる。そして新しい世界に霊体が来た時、新たに記憶していた肉体が再生されるんだ。だから異空間の狭間に飛べば、肉体だけはなくなり、黒銀くろがねの霊魂はその場に永久に留まるか、違う世界に行くかは分からない。これが一番良い案なんだよ」


 そこでレンジはすべてを理解し目を見開く。黒銀くろがねのことを言っているが、ナギも同じことなのだ。


「お前、何を言っているのか分かっているのか?」

「ああ」


 ギッと歯を食いしばり、そして叫ぶ。


「ばかか! そんなもん納得いくわけねえだろ!」


 するとミカゲも叫ぶ。


「そうだ! 絶対にだめだ!」

「ミカゲ、じゃあ何が正しい。このまま途中で止めれば黒銀くろがねはサクラの体に戻り、サクラは消滅し、乗っ取った黒銀くろがねは、疲弊しているミカゲや父さん達を即座に殺すだろう。そしてその足でシンメイ陛下の命も奪うぞ」

「――」


 ミカゲ達は何も言えない。


「陛下とミカゲ達皇族が全員死んだらどうなる。皇族全員殺され、この国は終わりだ」

「だが」

「俺のことは気にしなくていい。元々この世界の人間じゃないからな」

「……どういうことだ?」


 レンジだけが驚き目を見開く。やはりヤマトはうすうす気付いていたようだ。


「だからミカゲ」

「ナギ!」


 するとユウケイが遮るように叫んだ。


「バカなことを言うんじゃない! この世界の者じゃないだと? だからなんだ!」

「父さん……」

「この世界の人間じゃなくてもお前は私にとって大事な息子だ! だからナギ! そんなこと言うんじゃない!」」


 ミカゲはユウケイを見て「その通りだ」と微笑む。

 だがナギは憂いな目をし弱々しく笑う。


「だが俺は父さんとは……」

「血のつながりがないとでも言いたいのか?」

「……」

「それがなぜ重要なんだ!」


 ナギは目を見開きユウケイを見る。


「そんなもの何の意味もないだろ! お前を思う気持ちが一番重要だろ!」

「!」

「私がお前を息子だと思っているんだ! それがすべてだろ! それ以外何が大切だ!」

「父さん……」

「お前が私を父親だと思っていないかもしれないが、そんなの私には関係ない! お前が何と言おうと私の大事な息子に変わりはないんだよ!」


 ナギの心に熱いものが流れ、目頭が熱くなる。


 ――ほんと父さんは……。久々に泣けるな……。


 本当の父親からは聞けなかった言葉をユウケイがくれた。それが何よりも嬉しかった。


「ありがとう、父さん。俺も残念ながら父さんを本当の父親だと思っている」


 これは嘘偽りのない本心からの言葉だ。これはユウリの記憶がそうさせたのかは分からない。 ただ、ユウケイは初めて会った時からナギにとって父親だった。


「ナギ……」


 ユウケイは一瞬とても嬉しそうな顔を見せ、またすぐに真剣な顔になる。


「なら分かるだろ! どこに息子が自ら命を絶とうとしているのを許す親がいるか!」


 ナギはギュッと拳を握る。ユウケイのナギを思う気持ちが重くナギにのし掛かる。


 だがこればかりは譲れない。


「ありがと、父さん。でも俺もこれだけは譲れない!」


 ナギはユウケイを真っ直ぐ見る。


「ナギ……」

「お願いだ。もうこれしか良い案がないんだ」


 ナギは懇願するようにユウケイに頭を下げる。そしてミカゲへ視線を向けた。


「ミカゲも分かっているよな? 天陽大神そらのひなたのおおかみもそれを望んでいるということを」

「……」


 ミカゲはぐっと奥歯を噛む。そう、天陽大神そらのひなたのおおかみはそれを望んでいるのが感覚で伝わっていた。


「ナギ。どんなに天陽大神そらのひなたのおおかみが望んでいるとしてもなー、それしかないと分かっていてもなー……納得出来ないことってあるんだよ……」


 ミカゲは苦しそうに言葉を綴る。そんなミカゲにナギは小さく笑う。


「ああ。納得しなくていい。人間なんだからな。その気持ちだけでいい」

「バカか!」


 そう叫んだのはレンジだ。


「納得しなくていいだと? そんなもんあるわけねえだろ!」

「レンジ……」

「納得しなかったことをした後、どうなるか知っているのか! 後悔と絶望しか残らねえんだよ! 特に残された者はなー! 死ぬまで後悔するんだぞ! それを分かって言ってるのかお前は!」


 ナギはフッと笑う。自分を庇って死んだ父親の最期が過る。


「ああ……よく分かっている……。だから二度と後悔したくないんだ、レンジ」


 そう言って笑うナギにレンジは何も言えなくなる。


「……おまえ……」


 そしてナギは笑顔を消し言う。


「悪いな。こればかりは譲れない。俺の望みはただ1つ。俺はサクラを死なせたくないだけなんだ」


 ――約束した。サクラを助けると。そしてユウリともサクラを守ると。


 だから譲れない。

 確固たる決意を見せるナギを見てレンジは悟る。


 ――ああそうか。こいつ、大切なやつを亡くしているんだ。


 だが時間は迫っていた。もう4人の限界が来ていたのだ。


「お願いだ! 俺の提案を呑んでくれ!」


 ナギは頭を下げる。するとミカゲが言う。


「ナギ、応えろ。お前は死ぬ気なのか?」


 金色の目がナギを見据える。場違いにとても綺麗だと思ってしまう。そして嘘は付けないなと――。


「俺は死ぬつもりはない」


 するとミカゲが口角を上げる。


「その言葉信じるぞ」

「ああ。絶対に戻ってくる」

「ユウケイ、死ぬ気はないんだとよ。ならいいだろ?」

「……」


 だがユウケイはただ黙って苦渋の顔を見せる。そんなユウケイにナギは叫ぶ。


「父さん! お願いだ! 俺を信じてくれ!」

「……ナギ」


 ナギとユウケイはじっと見つめ合う。先に折れたのはユウケイだった。結局最後は親は子の言うことを優先するのだなと自分の親馬鹿さに呆れ嘆息する。


「わかったよ」

「父さん、ありがと」

「だがこんな願いはこれで最後だ。わかったね」

「はい」

「ナギ、サクラちゃんに伝えることは?」

「自分を責めるなと。そして必ず戻ると」

「わかった。必ず伝える」


 ユウケイは笑顔で応えた。


 そしてミカゲが最後に叫ぶ。


「ナギ! 必ず戻ってこい! 分かったな!」

「ああ」

「ならいい! お前に託す!」


 そして黒銀くろがねの霊魂はナギへと入れられた。


「行ってくる」


 刹那、ナギはその場から消えた。





――――――――――――――――――――――




 こんにちは!  碧心☆あおしん☆ です。


 こちらを見つけてくださりありがとうございます。

 そして、こんな拙い私の小説をここまで読んでいただきありがとうございます。


 第十章はここまでです。


 第十章で終われなかった(^_^;)

 長くなったので一旦ここで切ります。


 でも次が最終章です。

 あと少しだ~! ゴールは目の前!


 もしよろしければ最後まで見守っていただけると嬉しいです(≧∀≦)♪

 よろしくお願いします(_ _)


 ではまた~!     



――――――――――――――――――――――



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る