第129話 黒銀①



 サクラとソラは、ミカゲ達がいるマンションのに瞬間移動した。


「サクラ!」


 アヤメがサクラに気付き叫び抱きつく。


「お姉ちゃん」


 フジも声をかける。


「サクラ、無事でよかった」

「お兄ちゃん……」

「ごめんねサクラ! 助けてあげれなくて!」


 アヤメは泣きながら言うと、サクラは首を横に振る。


「ううん、大丈夫だよ。ナギが助けてくれたから」


 サクラはアヤメに笑顔を見せる。


「サクラ、大丈夫だったか?」


 ミカゲが声をかける。


「先生」


 そう言ってミカゲを見た時だ。


 ドクン!


 心臓が跳ねたと同時、頭の中で聞き覚えがあり声が響く。


 ――皇帝!


「え?……」


 刹那、サクラの意識は無くなり、一気に黒銀くろがねの妖力が爆発した。


「!」


 それに反応したのは、ミカゲとソラだ。


 ミカゲはアヤメの腕を掴み自分の後ろに引っ張り離し、ソラはサクラの両肩を押さえ、サクラごと窓から外へと押し出しベランダから飛び降り部屋から遠ざける。そして地面にサクラを抑え付け倒し馬乗りになり、サクラの両腕を押さえた。


「サクラ!」

「フジ! アヤメ! 待て!」


 ミカゲが止めるが、アヤメとフジは追いかけるようにベランダから飛び降りた。

 ミカゲは舌打ちするとアグリに叫ぶ。


「アグリ! このマンションが壊れないように結界を張れ!」

「了解!」


 ミカゲも窓から外に飛び出した。アグリはすぐに結界を張り窓から下を見る。


「どうなっている? なんだあの妖力は……」




 外の草むらでサクラに馬乗りになっているソラにアヤメが叫び、ソラの腕をひっぱる。


「ソラ! 何してるのよ! サクラから離れなさい!」


 だがびくともしない。ソラも無視をしてサクラを思いっきり押さえつけている。だが押し負けそうになっていた。その異様な光景にフジが気付く。


 ――ソラがさくらに押し負けるだと?


 それによく見ると、おかしい。ソラがサクラに妖力を使っていると思いきや、サクラがソラに妖力を放とうとして、それをソラがサクラの腕を押さえて阻止していた。


 ――どういうことだ? サクラはこれほど強い妖力は使えない! 誰だ?


 フジはアヤメの腕を捕みソラから剥がす。


「やめろアヤメ!」

「なんで!」

「あれはサクラじゃない」

「え?」


 アヤメはサクラへと視線を戻す。確かにサクラの妖力じゃない。


「……どういうこと?」


 するとその横にミカゲが来て説明する。


「あれは黒銀くろがねと言って、お前達も一度は聞いたことあるだろう。昔話の人物だ。そいつがサクラを乗っ取るためにサクラの中に潜んでいて、今そいつがサクラの意識を乗っ取り前に出た」

「!」


 フジとアヤメは驚き目を瞠る。


「どういうことですか? あの昔話の黒銀くろがねは死んだんじゃ?」

「そうよ! あの話では最後死んだはず!」

「作り話ではな。だが実際は今日まで人の体に乗り移って生きていて、今も皇帝の命を狙っている」

「!」


 フジとアヤメは驚き言葉を失う。


「そしてその目的を達成するために1年前サクラに乗り移った。だが黒銀くろがぬを倒すことを任されている三條家のソラがずっと封印してきたが限界がきて抑えれなくなり、黒銀くろがねが封印を強引に外し、サクラの意識を乗っ取り前に出た感じだ」


 ミカゲの説明に二人は目を見開く。


「なぜこのタイミングで?」

「俺に反応したんだろう。一応俺も影だが、シンメイと同じものを持ってるからな」


 それは皇帝ということだとフジとアヤメは理解した。


「サクラはどうなるんですか?」

「分からん。だが今最悪の事態ということだけは言える」


 ミカゲはソラとサクラ――黒銀くろがねを見る。


 ――これはヤバイな。ソラの封印を自力で外したのはサクラの無効にする能力も少なからず少しは関係しているのだろう。それにこのタイミングで出てきたということは完全にサクラは飲まれたということか!


「ちっ!」


 ミカゲは舌打ちし拳を握る。


 ソラは封印しようとするが力で押し負け封印できずにいた。


 ――くそ! なんちゅう力だ。攻撃を阻止するのに手一杯で封印までいけない!


「無駄だ。諦めろ」

「!」


 サクラとは違う男の声にソラは目を見開く。


「やはり黒銀くろがね! サクラは!」

「まだ微妙に残ってやがる。くそ! ピアスのせいだな」

「?」


 ピアスの意味が分からないが、まだかろうじてサクラの意識が残っていることにソラは安堵する。


「どけ小僧。俺はあいつに用があるんだよ」


 刹那、ソラは吹っ飛ばされ、黒銀くろがねはミカゲ目掛けて膨大な妖力を放った。


「!」


 ミカゲは咄嗟にフジとアヤメを囲むように結界を張り防御。だが威力が上回り結界が吹き飛ぶ。その風圧はその後ろにあるマンションへと行くが、アグリが張った結界でどうにか免れていた。

 砂煙と爆発で視界が見えない。


「!」


 ミカゲは瞬時に胸が床に付くほど体を低くかがむ。刹那、今ミカゲがいた場所に刃が横にかすった。黒銀くろがねが右手を妖力で刃物のように尖らせた妖刀で横一文字に切り裂いたのだ。


「ちっ!」


 黒銀くろがねは舌打ちすると間合いを取る。だが転瞬、光の閃光が黒銀くろがね――サクラの腹を貫いた。


「!」


 煙で見えないが、打ったのはミカゲだ。まさかサクラへ攻撃をするとは思わなかったソラは叫ぶ。


「先生! まだサクラの意識はある! なぜサクラを!」


 するとミカゲが応える。


「よく見ろ。サクラには効かない」

「え?」


 ソラがサクラ――黒銀くろがねを見れば、確かに無傷だった。


「やはり効かねえか」


 煙がなくなりミカゲの姿が見え、ソラ達は驚く。ミカゲの片目が金色だったからだ。


「ああ、今のでコンタクトが外れたか」


 するとサクラ――黒銀くろがねが言う。


「お前は誰だ。皇帝じゃないのか?」

「ああ。俺は皇帝の双子でだ」


 そこで黒銀くろがねも気付いたようだ。


「なるほどな。双子の片割れか。そういや今の時代の皇帝は双子だったな」

「ああ。そうだ」

「ちっ! 早とちりしちまったぜ。皇帝だと思って無理矢理意識を乗っ取ったのになー。まあいい。どうせもうこの体は俺のもんだ」


 それを聞いたアヤメが激昂する。


「そんなこと許さない! サクラから出なさい!」


 黒銀くろがねはアヤメを見て鼻で笑う。


「そんなことするわけねえだろ。それにサクラもその方がよかったんじゃねえのか?」

「え?」

「こいつはずっとお前達姉弟の足手纏いで迷惑ばかりかけていたとずっと思ってた。今回も迷惑をかけたっていない方がいいって思ってたんだぜ」

「!」


 フジとアヤメは目を見開き生唾を飲む。


「いっそうこのままいなくなったほうがいいって思ってたくらいだ」

「……」

「だからこのまま消えれて本人も喜んでいるぜ。これでお前達の迷惑にならないってな」


 するとソラが叫ぶ。


「嘘を言うな! それはお前がサクラを誘導したんだろ!」


 すると黒銀くろがねはソラへ冷たい視線を向ける。


「意識を乗っ取るにはその者を絶望に追いやり生きる気力を失わせ、体を手放すことを願わないと成立しない。だからお前はずっとサクラを絶望に追いやるようにしたはずだ!」

「うるせいぞ小僧。黙れ」


 黒銀くろがねが手を横に手を薙ぎ払うと、ソラの腹がスパッと一筋の線が入り、血しぶきが飛ぶ。


「くっ!」


 ――今、何が起こった? 結界を張っていたのに切られた?


 誰もその一撃が見えずに目を見開く。

 黒銀くろがねがソラへと言う。


「俺がお前を殺せないからっていい気になるな。別に殺さなければいいだけだ。手と足を切り落とせばいいことだ」


 そしてまたソラへと手を素早く横に薙ぎ払う。


「!」


 だがソラの前にアグリが降り立ち、剣でその見えない斬撃を断ち切った。


「アグリさん!」

「何、今の? ぜんぜん見えないけど」

「……え?」




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