第128話 サクラ救出
ナギは少しの動きも逃がさないと集中する。ユウリから得た探知能力に自分の応用を取り入れたものだ。
ユウリの記憶は、まだ小さかったからかサクラ以外も妖力を拾っていた。だからナギはサクラの妖力のみに絞り、その周りの妖力も感知するように魔法で練り上げた。
――これだけサクラを感知出来ないということは、探知能力に反応しないよう強力な結界で隠しているのは確かだが、それでもずっと継続出来るわけはない。近くに行けば結界があるのは気付かれる。それがないということは、その前にこちらを察知し移動しているということだ。だとすれば、レンジ達が近づいた時には気づき移動するはずだ。
そしてナギの読み通り、微かだがサクラの妖力を感知した。
――いた!
だがすぐに動かない。相手が誰なのか分からない。サクラを連れてどこかに移動するのを待つ。移動するのは夜はまずしない。するとすれば朝一だ。そして移動した場所を確実にするため静かに待つ。そしてある場所でサクラの妖気が途絶えた。
ナギが動く。瞬間移動でサクラがいるマンションのある部屋に移動した。
「!」
サクラを含め5人が驚きナギを見る。そしてすぐにサクラの腕を持ち逃げないようにした灰髪の短髪の男にナギは目を細める。
――こいつだ。ルプラがサクラの家に襲撃された時にいたやつだ。
だが今この男よりもその横のサクラだ。
「ナギ……」
憔悴しきった顔で言うサクラに笑顔で応える。
「サクラ、待たせたな。よく頑張った」
サクラはただ頷くだけだ。
灰髪の短髪の男が言う。
「なぜここが分かった?」
ナギはフッと笑う。
「探索が得意な仲間がいるからな」
「へえ……」
灰髪の短髪の男はギッと歯噛みする。
――どういうことだ。探索能力は感知できるようにしていたはずだ。なのに俺の感知にひっかからなかっただと?
思いっきり動揺が隠せない灰髪の男にナギは心の中で笑う。
――感知出来なかったことに動揺している感じだな。そりゃそうだ。ユウリの探知能力の妖力は普通では感知出来ないほどの小さな粒子のようなものだ。普通じゃ感知出来ない。
妖力や魔力はは小さな粒子の塊のようなものだ。その粒子の大きさが一條家は小さい。そのため物質の実体化が可能であり、治療も同じく人体の細胞へと行き届く。
――灰髪がかけた探知の大きな網は、ユウリの小さな妖力は通り抜ける。ただそれだけだ。
ナギは一瞬の隙を狙い、サクラを自分の所に瞬間移動で移動させサクラの肩をがっしり抱く。
「!」
サクラを奪われた灰髪の男が歯噛みする。
「くそー! 女を取り返すぞ!」
灰髪が他の3人に命令する。ナギは地面に手を翳し魔法陣を出現させる。刹那、2人の人物が現れた。現れた2人も驚き声を上げる。
「は? まじか! ったく急にするんじゃねえ」
「! サクラ!」
声の主は、レンジとソラだ。
「ソラ、サクラを連れて行け」
その言葉にサクラはナギを見る。
「ナギ……」
「心配するな。後でな」
ナギは笑顔を見せサクラの頭に手を置き言うと、ソラへサクラを渡す。
「ソラ、後は任せた」
ナギが
「了解」
ソラが返事をした瞬間、その場からソラとサクラは消えた。それを見た灰髪の男達は驚く。
「何をした!」
「サクラを安全な場所に瞬間移動させただけだ」
「そんなこと出来るわけないだろ!」
灰髪の男が叫ぶ。それを聞いたレンジは「普通は出来ねえよなあー」と笑う。
「で、ナギ。こいつら捕まえればいいんだよな?」
「ああ」
2人の会話を聞いていた灰髪の男が笑う。
「捕まえるだあ? はっ! 俺らを捕まえることが出来るわけねえだろ」
灰髪の男が手を横に振る。すると4人全員の姿が消えた。だがナギとレンジは慌てない。
「ナギ」
「ああ。もうしてある」
「わかってるじゃねえか」
レンジはにぃっと笑うと、妖力を爆発させる。
「うっ!」
男達のうめき声が聞こえた。その後ナギは妖力を辿り3人を魔法の綱で拘束する。驚いているのは3人の男達だ。
「なぜ?」
「そんなもん、俺の妖力を爆発させれば、今みたいに苦しみ抑えていた妖力を見せるだろ。ただそれだけだ。でもやっぱり1人だけは無理だったなー」
灰髪の男だけは、やはりレンジの妖力には反応しなかった。
「ナギ、どうするよ」
「簡単だ。この範囲なら問題ない」
ナギは部屋いっぱいの床に魔法陣を展開させる。すると魔法陣が光り始めた。その後、誰もいない空間に1人のシルエットが浮かぶ。ナギはすぐに3人と同じように綱で拘束する。1人残った灰髪の男だ。
「なぜここにいるのが分かった!」
「そんなもん簡単だ。お前が教えたんだろ」
ナギは応える。
「俺が……だと?」
「ああ。お前は俺の瞬間移動を見て、そんなこと出来るわけないだろと言った。それはお前は瞬間移動が出来ないということだ」
「!」
「ならば、ただ姿を消せ、逃げが早いだけのやつだということだ」
そしてレンジが補足する。
「で、この場から逃げれないようにナギにシールドを張らせ、捕まえたってやつだ」
「くっ!」
灰髪の男は悔しがる。それを横目で見ながらレンジはスマホを取り出し、待機していたフウマに連絡を入れ、場所と人数を言い、すぐに来るように言う。
その間ナギは灰髪の男に質問をする。
「サクラを監視塔から連れ出したのはお前だな?」
「ああ。あの時はうまくいったのに、なんで今回居場所が分かった?」
灰髪の男はどうしても自分が見つかったことに納得がいかないようだ。
「それだけ俺の探知能力が優れていたということだ」
ナギはただそう言うだけだ。ユウリのことを言う必要はない。
「ふん。あえて言わねえってやつか」
「当たり前だ。この会話もすべてガーゼラ国に筒抜けだろうしな」
「……」
これはレンジからの情報だ。ガーゼラ国の工作員などにはすべて体内にチップが埋められていて会話がすべて登録され聞かれている。そのため、今この場だけだからと言って安易に口を滑らせれば、ガーゼラ国にすべて情報が流れてしまうことになるのだ。
「ふん。すべてお見通しか」
灰髪の男は鼻で笑う。
「俺が捕まったからって現状は変わらねえけどな」
吐き捨てるように言う灰髪の男にナギは感情もない冷たい表情で言い返す。
「別に俺はそんなことはどうでもいい。ただサクラを取り返せればそれでいい」
「ふん。女の情報はもう流れているんだ。またすぐに捕まるだけだ」
鼻で笑いながら言う灰髪の男にナギは胸ぐらを掴み顔を近づけ圧のある声音で言う。
「出来るならすればいい。お前達が狙った者を守っているのは一條家だということを忘れるな」
「! お前はじゃあ……」
「ああ。一條ユウケイの息子の一條ナギだ」
そう言うとナギは思いっきり威嚇をするように魔力を爆発させる。その強さでガーゼラ国の3人は気を失い、灰髪の男は失禁した。そしてナギは手を払い退けるように離し立ち上がる。だがまだ苛立ちを隠せずにいるナギを見てレンジは小さく笑う。
「気が済んだか?」
「……いいや」
「だろうなー。だがこれ以上は認めれねえ」
「分かっている。法律だろ」
「ああ。これ以上やれば、俺であっても庇いきれねえ。ユウケイ様にも影響がいく」
「だな。それだけは避けたい」
「良い心がけだ」
レンジは背を向けているナギの肩をポンポンと叩く。するとフウマ達がやって来たため、その場を任せてレンジとナギは戻ろうとした時だ。
「!」
ナギとレンジが反応する。
「ミカゲ?」
「兄貴?」
ミカゲの巨大な妖力を感じ、どういうことだとナギとレンジは顔を見合わす。尋常ではないミカゲの妖力に不安が過る。だがすぐに妖力が消えた。するとアグリから連絡が入った。
『隊長大変だ。九條サクラが暴走した!』
「!」
次の瞬間、ナギはその場から消える。
「こら! ナギ! くそ! フウマ、ここは任せる」
「了解!」
レンジもその場合から消えた。
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