第127話 ユウリの能力をナギの能力に
「何か気になることがあるんですか?」
「ああ。あまりにもこの部屋に証拠があり過ぎる」
「どういうことですか?」
それにはレンジが指を指しながら説明する。
「所々ガーゼラ国の者だというのが分かる証拠がちらほらある。まず壁にガーゼラ国の者が信仰している神ジルバーンだ」
見ればそこにはライオンのような顔の男性の全体像が書かれたタペストリーが掛かっていた。
「そして机にはガーゼラ国人が好んで食べる食べ物に、体を強化するガーゼラ国人全員が飲んでいるとされる錠剤らしきもの」
「それの何が変なんですか? 私達が急に入ったから隠す暇がなかったたけじゃ?」
アヤメの疑問にミカゲが応える。
「そう思うよな。俺らは急に来たんだからな。そしてサクラはこの場にいなかった。
だとすれば、サクラとは関係なく、ただガーゼラ国の者がいただけだと印象づけれる」
「!」
「あいつらは俺らがサクラの妖力の痕跡が分からないようにした。ガーゼラ国の者は嗅覚が鋭いからな。妖力や匂いの痕跡を残さないようにするのが得意なんだろうな。現にサクラの妖力は俺らでは分からなかった」
「確かに俺らではサクラの妖力の痕跡はわかりませんでした」
フジが言う。
「だがあいつらは1つミスをした。俺がいたことだ」
ミカゲは両端の口角を上げる。
「俺のマキラはどんなに痕跡を消しても分かるからな」
「それは、どんなに消してもですか?」
「ああ。ガーゼラ国の者達や俺達は、その場所についた妖力と匂いの元を消すが、その場所に妖力は思念としても残る。その思念として残っている妖力をマキラは感知するんだ」
ミカゲは、足下にいる体を小さくして床の匂いを嗅いているマキラの頭を撫でながら言う。
「痕跡からして、今日の朝方にここからサクラは連れ出されているのは確かだ。だとすれば、きのう監視していたのがばれていたということになる」
「!」
「そして俺らが今日この場所に乗り込むことも想定していたはずだ。逃げることを考えているのなら、夜中のうちにガーゼラ国の物はすべて処分し逃げたはずだ。だがそれをしていない」
「じゃあわざとあいつらは捕まったということですか?」
「たぶんな。だがそこが問題じゃない」
ミカゲは眉間に皺を寄せる。レンジもそれに頷く。
「だな。完璧に妖力を消し、ゲンにも気付かれずにこの場から九條サクラを連れ出したやつの方が問題だ」
――たぶんそいつは、ナギが言っていたやつだな。
ナギがルプラを倒した後に、ナギにも気付かれずにサクラを狙って近づいてきた者がいるとナギから聞いていた。ナギ曰く、ルプラの覚醒種よりも強かったらしい。
――厄介だな。これまで完璧に気配と姿を消し、ましてやサクラまでも気付かれずに連れ出すことが出来るとなると、最初にサクラを連れ出した者もそいつということになる。だがなぜそこまで出来るのに国境を越えない? いや、超えられないのか。
「兄貴?」
いきなり黙り混んだミカゲを不思議に思い、レンジが声をかける。
「あ、わりい。何でもない」
ふとソラの視線を感じ見れば、心を読んだのだろう、何か思うような顔を向けている。それに対しミカゲは笑顔を見せ、「大丈夫だ」と心の中で言う。
――超えられない理由は、やはり
――理由はともあれ、
「じゃあもうサクラはガーゼラ国に!」
「いや、それはない。ガーゼラ国への道はすべて封鎖してある。そう簡単に行けるもんじゃない。能力を使って出ようとしてもばれるようになっているからな」
ばれる理由は違うが、フジ達に
「でもどこにいるのか分からないですよね」
「その通りだ。だがこれで場所は分かるはずだ」
ミカゲは片方の口角を上げて言う。
「ナギが見つけるだろうよ」
それにはレンジも頷く。
「だな。あいつの包囲網に引っかかっただろうからな」
「? 包囲網?」
アグリが訊ねる。フジとアヤメも意味が分からないと眉を潜めている。
「ああ。ソラ、お前はナギから聞いたよな?」
レンジが黙っているソラへと訊ねる。ほんと、こういうところがやりにくいと心の中で嘆息しながら頷き返す。
「はい。きのうの夜に聞きました。ナギはこの国全土に包囲網を張ってることを」
「ちょ、ちょっと待って。全土ってこの国がどれだけ広いと思っているんだよ。そんなもん無理に決まってるじゃん」
アグリが信じれずに言う。フジとアヤメもそうだ。言ったソラすら本当は信じがたいことなのだが、現実だからしょうがない。どう応えようかと逡巡していると、ミカゲが代わりに応えた。
「だがあいつは全力でこの国全域に探知機のようなものを張って、少しのサクラの妖力を逃さないとしていたのは事実だ。だから今頃はサクラを見つけているはずだ」
その頃、サクラの前にナギがいた。
「ナギ……」
「サクラ、待たせたな。よく頑張った」
ナギは涙を流すサクラに笑顔で応えた。
◇
時間を少し遡る。
ナギはユウリにサクラが拉致された経緯を話し、なかなか見つからないことを話した。
「この国からは出ていないことは確かなのに、うまく隠しているのかサクラの居場所が見つからない」
『ナギの魔法でも分からないの?』
「ああ。ここまで広い範囲だと難しい。それに能力で隠されてしまうと難しいな」
『じゃあ僕の探索能力はどうかな?』
「お前の?」
『うん。僕の昔の記憶に森でサクラちゃんを探している記憶があるはずだ。それならサクラちゃんを見つけることが出来るはずだ』
ナギはすぐにユウリの記憶を辿る。確かにユウリが言う記憶があった。
『あの時妖魔が森にいたんだ。それも妖力を探知する妖魔だった。だから僕は薄い探知能力を森全体に張り、サクラちゃんだけの妖力を探したんだ』
「妖力を追うのか?」
『すこし違うかな。説明が難しいんだけど、その人自体を追うんだよ。姿、形、声全てで感知するんだ。だから親しい人じゃなければだめなんだけどね』
ユウリの説明を聞きながらナギは記憶を辿る。確かにユウリの言う通り凄い微量の探知能力が森全体に張り巡らされていた。だがまだ幼かったユウリはうまく出来ず、結局サクラを見つけたのはずいぶん後だった。
『僕の能力は、知っている人限定という欠点があるけど広範囲可能ていうのが利点だ』
「どこまでも?」
『うん、一條家の具現化の能力と似ているかも。イメージすれば出来る感じかな』
「すごいな」
『僕がサクラちゃんを見つけた時は小さかったから時間がかかったけど、ナギならもっとうまく出来るよね? それをナギの魔法に当てはめてやれば出来るはずだ』
ユウリが笑顔で言う。
――そうさ。僕が見てきたナギの記憶の中の魔法は誰よりも凄い。ならば僕の能力の原理が分かれば簡単に応用が効くはずだ。
果たしてナギは応えた。
「ああ。大丈夫だ。これでサクラを見つけられる。ありがとな、ユウリ」
『絶対サクラちゃんを見つけて! ナギ』
「ああ」
そして次の日からナギは国全体に探知能力を張り巡らした。それに気づいたのはやはりミカゲ、シンメイ、ユウケイ、ヤマト、レンジのみだった。
ミカゲがまず気づいた。
――ナギか。探知能力か。 それにしては微妙だな。だが国全土に張ったのか?
ユウケイも気付く。
――ほう。探知能力か。その応用編だな。そういえば小さい頃サクラちゃんをこれで見つけていたな。
そしてレンジだ。
――なんちゅう難易度のもん張りやがった。あいつ、底知れねえな。
シンメイも「なかなかやるね。ナギ」と笑顔を見せる。そして
「頑張れ。ナギ」
と願うのだった。
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