第125話 ユウケイの怖さ
ミカゲ、ソラ、レンジ、アグリ、フジとアヤメは
フジとアヤメ、ミカゲとソラ、レンジとアグリに別れた。
ミカゲはソラへと訊ねる。
「どうだ?
「いや。ここはちょっと遠い」
「やはり一度近くに行かないとわからねえか」
「うん」
それから一日見張って分かったことは、情報にあった若い男女、そして同じく20代から30代の男性4人が出入りしているのが確認された。一度集まり話し合う。
「ビンゴだな。あいつら敵国だ」
レンジがはっきり言う。そこでフジが訊ねる。
「影山隊長はなぜ敵国ガーゼラ国の者だと断定できるんですか?」
変装しているのか見た目では分からず、妖気でも分からないのだ。
「まあー、感?」
とぼけた感じで応えるレンジに、フジ、アヤメはポカンと口を開け、アグリはくつくつ笑い、ソラとミカゲは知らぬ振りをする。
「なに、それ……」
アヤメが目を眇めてレンジに呟く。そんなアヤメにレンジは言う。
「九條アヤメ、お前ぜってえ俺のこと嫌いだろ? 態度に出しすぎなんだよお前は」
軽い口調で言うレンジにアヤメは眉根を寄せ嫌悪丸出しにする。そんなアヤメにフジは嘆息し注意する。
「アヤメ、態度に気をつけろ。一応影山隊長は軍でトップの特殊部隊の隊長だぞ」
「九條フジ君、い・い・方! おかしいぞー」
レンジは間髪入れずに突っ込む。そんなやり取りを見てアグリは、
「ぎゃははは! めちゃ隊長馬鹿にされてるー!」
と言ってから真顔になり、
「九條兄妹、態度に気をつけな。許される立場じゃないよね」
「!」
殺気をはらみながらフジとアヤメに注意する。いつもニコニコしてかわいらしいアグリとは考えられない態度にフジとアヤメ、そしてソラは驚き目を瞠り、恐怖で動けなくなった。
アグリは165㎝と小柄で、顔も女性と間違われるほどのかわいい感じの丸顔の童顔の24才だ。人当たりもよく女性隊員からは、かわいいと言われている。だから見た目からいつも特殊部隊隊員だと思われずに新人隊員だと思われることがしばしばだ。
だがアグリを知っている者は皆言う。「見た目で判断するな。あの人を怒らすと死ぬぞ」と。
そして付いたあだ名が、『笑顔の猛獣』だった。
今にも襲いそうな勢いのアグリにレンジは「やめろ。アグリ」とだけ言う。するとアグリは殺気を消し「はーい」と返事をしいつもの軽い感じに戻った。
緊張が解けた3人は自然と大きく息を吐く。
――殺気だけで殺された……。
フジとアヤメは冷や汗が止まらない。そんな2人にレンジは言う。
「わりいな九條兄妹。こいつ、俺のファンなんだ」
「……え?」
「俺のことになると融通が利かなくなるんだ。だからこいつの前で俺のこと悪く言うと、命の保証はないぜ」
笑顔で言うレンジにフジとアヤメ、ソラは目を点にする。
「失礼だなー。俺を危険人物みたいに言うなんてさ」
――いや、そうだろ。
とフジとアヤメ、ソラが思ったことは内緒だ。
するとそれまで黙っていたミカゲが真顔で注意する。
「アグリはただ上司に対する態度を指摘しただけだ。軍に所属しているお前達なら分かるな」
「はい。申し訳ございませんでした」
フジとアヤメは頭を下げて謝る。
少し空気が重くなったのを変えるようにミカゲが笑顔でアグリに言う。
「アグリ、ナギはいいのか? いつもレンジに舐めた言い方してるぞ」
「あいつはまだ軍に入ってないからね。それにあいつ、ユウケイ様の息子だし強いからな。逆らうと怖い」
まさかアグリから「怖い」という言葉が出るとは思わなかったミカゲ達は目を瞬かせる。
「あはは。こいつユウケイ様に半殺しにされたことあるからなー」
レンジが笑いながら言う。
「ユウケイにか?」
「ああ。こいつ、虎原市での敵国ガーゼラ国襲撃事件の時に一度プッツンしたんだよ。で、収拾が付かなくなったのをその場にいたユウケイ様が瞬殺でアグリを制したってやつだ」
それを聞いたミカゲが、ああと言う。
「あの時か。お前が敵の毒にやられて死にかけた時だったな」
「そうそう。あん時はほんと死ぬかと思ったぜ」
◇
2年前
虎原市にてガーゼラ国との和平交渉のために来ていたユウケイ達一行がガーゼラ国の襲撃を受けた。その時同行していた特殊部隊がその対応をしていたのだが、どこからか放たれた敵の矢がレンジの腕をかすった。そして少し経つと目が霞み始めたのだ。
「ちっ! 毒か」
その場に膝をつくレンジに気付き、フウマとアグリがすぐにやってきた。
「隊長!」
「わりい……毒にやられた……」
フウマは腰の鞄から解毒剤の入った注射器を出し、レンジの腕に注入する。
「すみません、この解毒剤だと、たぶん進行を遅らせることしかできません」
それを聞いたアグリが防戦しながら不機嫌丸出しの表情でフウマに訊く。
「副隊長、どういうこと? なんで効かない解毒剤持ってくるの?」
「違う。この毒が新しいものだからだよ」
「え?」
レンジもフウマの説明に頷く。
「だな。効き目が弱い毒性に似せて、最初すぐに症状が出なくしてあり、油断させたところに一気に効くようになってやがる……」
すると、レンジがその場に倒れた。
「! 隊長!」
熱が出て意識が朦朧としてきていた。
「くそ! 早く隊長を医者に見せないと!」
アグリはレンジの今にも死にそうな顔をして苦しむ姿を目にし、理性がフッとんだ。
「許さない……」
アグリの変化に気づいたフウマが叫ぶ。
「アグリ! 落ち着け! だめだ!」
だがその時にはアグリはその場から消え、一気に敵の中に入り、ところ構わず建物を破壊しながら敵を倒し始めた。フウマは舌打ちする。
「くそ!」
――ああなったアグリは隊長しか止められない!
だが今レンジは生死が危うい状態だ。フウマはすぐにインカムで他の者へと伝える。
「隊長が新毒にやられ危ない。それにアグリが切れた!」
『なんだって!』
『まじか!』
『アグリ先輩! やばいじゃないっすか!』
案の定、他の隊員も最悪の状況を把握する。
――どうする! このままだと隊長も危ないし、アグリがこの辺の建物、民間人までも殺しかねない!
フウマはギッと歯噛みする。刹那、隣に影が落ちた。
「!」
まさか簡単に間合いに入られるとは思わなかったフウマは驚き誰だと首を巡らす。見ればユウケイだ。
「ユウケイ様!」
ユウケイは膝を付きレンジに手を翳す。すると緑色の回復妖力がレンジを包みこんだ。
――なんて凄い治癒力なんだ。
強力な治癒力にフウマは驚き目を見開く。
――これが一條家の特殊能力。
すると苦しんで真っ青だったレンジの顔は生気を取り戻し穏やかになった。
「もう毒は消えた。レンジ、大丈夫?」
ユウケイの声掛けにレンジがうっすら目を開ける。
「ありがとう……ございます。もう大丈夫っす。だけどアグリを止めるほどの体力がないのでお願いできますか?」
「ああ。レンジはゆっくりしといて」
刹那、一気にユウケイの妖力が爆発した。その瞬間その場にいたガーゼラ国と特殊部隊は恐怖で動けなくなる。だがアグリだけが我を忘れているため攻撃しつづけていた。だが、
バアーン!
一瞬でアグリの後頭部を押さえつけ、地面に叩きつけた。衝撃でアグリを中心に周りのアスファルトに10メートルほどのクレーターができた。
「アグリ、いい加減にしろ」
「!」
低い圧のある声音にアグリは一気に正気に戻され、恐怖で動けなくなる。それがユウケイだと気づくのに相当時間がかかった。いつものユウケイとは比べ物にならないほどの冷たい目と声をしていたからだ。
「……は……い。申し訳ございません……」
どうにか声を絞り出して言う。ユウケイはアグリの頭から手を離し立ち上がると、その場から消える。そして一気にガーゼラ国の武装勢力を倒していった。するとレンジの時と同じく毒矢が一斉にユウケイを狙い放たれた。だがユウケイはその場から動かない。そして矢がユウケイまで2メートルとなった瞬間、すべての矢が一瞬で粉々になって消えた。
「ふん! 子供だましが」
ユウケイは呟くと、インカムで特殊部隊へ連絡する。
「特殊部隊、後は出来るね。任せたよ」
その言葉にフウマ達は我に返り一斉に動き出し、残りの残党を片付けたことがあった。
◇
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