第124話 レンジの説教
「九條フジ。アヤメの言動の理由を都合の良いようにすり替えるな」
「――」
フジは息を呑む。
「兄貴もちゃんと言ってやれ」
「レンジ、今はよせ」
ミカゲが制するがレンジは止めない。
「いや。今言わなかったらいつ言う。そうやって甘やかすからこういう態度に出るんだ」
アヤメは唇をギュッと結び苦渋の顔をする。
「俺の目には、九條アヤメは妹が見つからないことの焦りと苛立ちを、この場にいないナギにただ八つ当たりをしているようにしか見えないが? 違うか?」
「……」
「なぜここにいないだけで、ナギがサクラを探していないと結論づける。おかしいだろ」
「レンジ」
ミカゲがそれ以上言うなと名前を呼ぶ。
「わかってるよ。だけどよーナギがかわいそうじゃねえか。あいつはあいつなりにちゃんと九條サクラを探しているんだぜ」
レンジはミカゲに言うと、またアヤメへと視線を戻す。
「九條アヤメ、お前のその包み隠さない態度を悪く言うつもりはないが、感情だけでそういう態度をナギに見せてナギは何か言ったか?」
「――」
アヤメは何も言えずに黙る。
「あいつのことだ。お前に反抗することはねえだろ」
アヤメはぐっと唇を引き締める。
「お前の妹を思う気持ちは分かっている。もう1週間も妹の消息がつかめねえんだ。そりゃ心配だろう。焦る気持ちも分かる。だがなーナギに当たるのはお門違いだ。そんなもんガキがすることだ」
「……」
アヤメはただ下を向いてぐっと唇を噤む。
「昔のナギのことは兄貴から聞いた。まあお前達がそう思う気持ちは分かる。俺でもそう思っただろうからな」
――今のナギからでは想像がつかねえけどな。
レンジはミカゲから引き籠もりだったこと、そしてアヤメがどう思っているかを聞いていた。だがレンジが知っているのは今いるナギだ。ユウリを知らないため、どうしてもナギと結びつかなかったのだ。
「お前とナギの間に何があったか知らねえ。だが今お前が抱いている感情は今この場にいらない感情だ。分かるか?」
「……はい」
穏やかな口調で言うレンジの言葉は、すべてを見透かされたような、それでいて鋭さがあり、アヤメは顔を上げレンジを直視することが出来ない。ただ下を向いて返事をするだけだ。
「それに九條フジ。お前も悪い。九條アヤメのナギへの態度は昔からなんだろうけどよー、ちゃんとダメなもんはダメだと言ってやらねえとな。まあ言えねえのは、お前も九條アヤメと同じ感情をナギに持っているからだ」
「……」
フジも図星なのだろう。ただ目線を下に向けて黙る。
「昔はそうだったかもしれねえ。だがなー今は違うだろ? なぜ今を見てやらねえ」
フジとアヤメは十分に分かっていた。だがどうしてもそこから抜け出せないでいるのだ。
――それだけ長い時間だったということなんだろうな。
「2人共、顔をあげて俺を見ろ!」
レンジは圧のある声音でフジとアヤメに怒鳴るように言う。強制的に顔を上げさせるためだ。案の定2人は、レンジの迫力のある声にビクっとし顔を上げて背筋を伸ばし見る。そんな2人にレンジは笑顔を見せ、そして今度は反対に優しく静かに言う。
「いい加減、その
「……」
「お前達は十家門の人間で、これから軍を引っ張って行く立場になる者達だ。将来上に立つ者が感情で行動を左右されて下にあたられてたら、下の者はたまったもんじゃねえ。絶対についてこねえぞ。だから気をつけるんだな」
「はい」
「申し訳ございません」
フジとアヤメはレンジに頭を下げて謝る。
「俺もずっと持っていた
「隊長……」
「今言った言葉は全部俺が言われたことだ。最後の言葉もその誰かさんからの受け売りだ」
そう言ってレンジはミカゲを見れば、ミカゲはふっと笑う。
レンジ自身も昔、その身分から色々とあり、復讐だけを考えていたことがあった。少しのことでもすぐに怒りや憤りを感じ感情丸出しで行動していたのだ。だがミカゲがその
だがそれは容易ではなかった。どれだけミカゲに反抗したことか。
共に行動するようになり、ミカゲの方が自分よりも酷い仕打ちだったことを知り、そしてミカゲ自身にも諭されたおかげで長年の
だからなのだろう。アヤメとフジには誰かが言ってやらないと駄目だと強く思ったのだ。
「そういうことだ。わかったな。もう一度ちゃんと自分と向き合ってみろや」
「はい」
「はい」
アヤメとフジは素直に返事をする。そんな二人にレンジは微笑み付け加える。
「それにナギはちゃんと妹を探している。心配するな」
そう言われてもピンとこないアヤメとフジだ。だがレンジはそれ以上説明せず号令を出す。
「じゃあ1時間後ここに集合。準備してくれ」
一旦解散になった。
残ったミカゲがレンジに感心したように話す。
「お前が九條兄妹にあんなこと言うとは思わなかったな」
「兄貴と一緒さ。昔の自分と重ねちまったってやつだ」
ミカゲは腕組みをし鼻で笑う。
「あいつらは俺が言わなくても分かってるんだよ。ただきっかけがないだけだ。どうやって抜け出せるのか分からないだけなんだ」
自分がそうだった。どんなに恨んでも、どんなに復讐をしようとしても意味がないことを分かっていたのだ。だがそう思わないと自分自身が保てなかっただけだ。
「他のやつに言われて気付くんだ。そこから出ていいんだって。その先にはもっといいもんがあるってことをな」
「……そうか」
「そう教えてくれたのは兄貴だろう。なんだよその、俺は知りませんでしたみたいな態度は!」
「昔のことは忘れただけだ」
「よく言うぜ」
ムッとして踏ん反り返るレンジにミカゲは笑う。
するとちょっと気まずそうな顔を見せ、ボソッと本音を言う。
「結局あいつらの為というより、ナギが悪く言われたことに腹が立っただけなんだけどな……」
昔の子供だった頃に戻ったような態度を取るレンジの頭にミカゲは手を置きよしよしと撫でながら言う。
「まだまだだな」
だがレンジは嫌がることなく、
「うるせい……」
と照れた顔を腕で隠しながら小さく文句を言うだけだ。
昔よく、ミカゲが褒める時にしてくれた行動だ。言葉では「まだまだだな」と言うが、最大限の褒め言葉だった。
――今でも嬉しいもんだな。
レンジは口元を緩ませるのだった。
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