第123話 サクラの行方



 サクラがいなくなって1週間経ったが、まだ見つけることが出来なかった。


「どこにいったんだ。ここまで探していないとは」

「ほんとに。まったく感知出来ない」


 ミカゲとソラはずっと国境の近くの街を重点に探していた。2人は噴水の縁に座り休憩する。


「先生、サクラ、ガーゼラ国には連れて行かれてないんだよね?」

「ああ。国境付近の警備は強化している。だからこの国にいるはずだ」

「ここまで探して見つからないなんて。やっぱりもうサクラは殺されて……」

「それはない。黒銀くろがねがそうはさせないはずだ。それにナギもサクラは精神的に危ういが生きていると言ってただろ」

「そうだけど……」

「あいつは嘘を言うやつじゃない。お前が一番わかっているだろ?」

「……ええ」


 ソラは頷く。確かにナギは嘘を言ってなかった。だがナギが根拠もなく言うことはない。どうしてそう言い切れるのか理由は言わないから分からないが、何かそう確信出来ることがナギにはあったのだろう。


「ソラ、なぜ今回ナギの心を読まなかった?」


 ナギがなぜそう言ったのか、ソラなら心を読めば分かることだ。


「言っときますけど、俺はむやみやたらに心を読めるわけじゃないです。今回ナギの心は読めなかった。それは読まれるのをナギが強く拒否したからだと思います」


 そこで強く望めば心を読むことは出来ないのだとソラは初めて気付いたほどだ。

 そしてその時のナギの表情を思い出す。


「心は読めなかったけど、その時のナギの状態はわかりました。あんな状態のナギの心を無理矢理読むほど俺は腐ってないです」

「そうか」

「で、そのナギは何してるんですか?」


 そう言い切っていたナギは、きのういきなりサクラを探すのを止めて家に籠もってしまったのだ。


「あいつのことだ。何か考えがあってしているんだろう」


 ミカゲはそう言うがソラはどうしても納得いかない。サクラが見つからず落ち込んでいるのは分かる。だが早く見つけなくてはならないことは分かっているはずだ。それなのに家に引き籠もるとは何事なのかとソラはいらつきを覚える。


 ――本当にサクラのこと、思ってるのか。


 するとレンジからミカゲへと連絡が入った。新しい有力な情報が入ったようだ。


「ソラ、特殊部隊の事務所に行くぞ」


 2人はすぐにレンジ達の特殊部隊の事務所に戻る。すると、そこにはフジとアヤメもいた。2人はミカゲに頭を下げる。

 結局フジとアヤメも休暇を取りサクラの捜索をしていた。


「兄貴、どこにいたんだ?」


 レンジが訊く。


牛越うしごえ市だ」

「牛越市ってとり市の横だよな? あんな所まで行ってたのか」


 ガーゼラ国に一番近い西の街だ。車なら8時間はかかる場所だが、ミカゲはプライベートジェットで行っていた。さすが皇族だけある。

 そこでレンジは、ミカゲの後ろにいるソラに気付く。


「お! 三條家の息子か。ひさしぶりだな」

「こんにちは」


 ソラは頭を下げる。


「レンジ、新たな情報とは?」


 ミカゲが訊く。


「市民からある情報がきた」

「市民?」

「ああ、アグリ」

「はいな」


 呼ばれたアグリは壁に地図を写し出す。それはガーゼラ国とは逆の方向にある町、卯之木うのき町だった。


卯之木うのき町のマンションに、最近気のいい若者の男女2人が引っ越してきたと情報が入った」


 それには特殊部隊、フジとアヤメ、ソラが眉を潜める。どこに怪しい要素があるのかわからない。犯人ならば極力話さないように、目立たないようにと距離を取るはずだ。それに男女なら夫婦かカップルだ。


「それのどこが怪しいんですか?」

「そいつら、情報をくれた店の店主の所にいつも買い物に来るらしいが、2人分にしては毎回多いらしい。だから何人家族かと聞いたんだとよ。そしたら2人だが、よく友達が来るだの、よく食べるだのと応えたみたいだ」


 するとミカゲが言う。


「怪しいな」

「だろ?」


 レンジはにぃと笑う。だが他の者は首を傾げる。まったくおかしなところがないのだ。


「隊長、どこが怪しいんすか? 友達が来るから大量に買って行っただけじゃないですか」


 アグリが言えば、フジも同感だと応える。


「確かにそう考えるのが普通ですね」


 だがレンジとミカゲは、それが怪しいんだと言い、ミカゲが説明する。


「店主は何人家族だと聞いたんだ。普通なら、結婚していたなら2人と言うだろうし、もし結婚していないなら自分の家族の人数を言うだろう。友達が来るなんてわざわざ言わねえ」

「ですが、もしかしたら店主が食材の量を見て、あまり多いため家族が多いのかと思って聞いたかもしれないと思って応えたんじゃないんすか?」


 フウマが言う。


「普通そう考えるよな。だが店主はただ家族は何人だと聞いただけだ。沢山買う理由を聞いていない。普通聞いていないことをわざわざ言うか? 言わないだろ。それだけそこを気にしているということだ。だからそいつらはそういう回答をしたんだろうな。だがまず新婚かカップルの家に毎日遊びに来るか? こねえだろ」

「確かにそうですね」

「それにそういうやつらほど聞いてないことをよくしゃべる傾向にある。調べるに値するな」

「ああ。それに俺の直感が怪しいと言っているしなー。兄貴もだろ?」


 レンジが顎に手を当てながらミカゲに同意を求める。


「まあな」


 それを聞いたアグリが笑う。


「ほんと、皇族の血ってこええなー」

「失礼だぞアグリ。隊長はともかく、ミカゲ様に対しては良くない」


 フウマが注意すると、


「おい。俺はいいってどういうことだ」


 レンジが納得いかないと突っ込むと、


「言葉通りですよ」


 とフウマが返して笑いが起きた。その光景を見ていたソラは、


 ――特殊部隊って特殊だな。


 と思うのだった。


「で、ナギから連絡は?」


 レンジがミカゲに訊く。


「ないな」


 するとアヤメが不満ありありの顔で質問してきた。


「ミカゲ様、ナギはなぜ一緒に行動しないのですか?」


 普通許嫁なのだから探すのが当たり前だろと言外に含ませる。


「あいつはあいつでサクラを探している」

「本当ですか? ただ逃げてるだけなんじゃないのですか!」


 昔からユウリを見てきて感じていることを言っているアヤメだ。どうしても昔のことが過ってしまう。


「アヤメやめろ。ミカゲ様に言ってどうする」


 フジが真剣な表情で注意しミカゲに謝る。


「ミカゲ様すみません。アヤメはサクラのことになると周りが見えなくなるので……」

「いや、いい。分かってるから大丈夫だ。それに妹を心配するのは当たり前だ」


 その様子を見ながらレンジは目を細め低い声音で言う。


「それは違うだろ? 九條アヤメ」


 どういうことだと皆がレンジを見る。


「九條アヤメ、なぜそんなにナギを敵視する」

「!」

「九條フジ。アヤメの言動の理由を都合の良いようにすり替えるな」






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