第122話 ナギの夢



 ナギはふとユウリに呼ばれたと思った瞬間、何もない空間にいることに気付く。そして目の前にサクラが膝を抱えて下を向いていた。


 ――サクラ!


 ここはどこだと思った時だ。


「ナギ?」


 誰かに呼ばれ、声のした方を見れば、1人の少年がいた。初めて見る顔だがすぐに分かる。


 ――ユウリ?


 驚き見れば、向こうも驚いているようだった。なぜユウリがと思うが、それよりもサクラが気になり顔を戻す。するとサクラがどんどんと地面に沈んでいっていた。それにサクラの後ろにいるやつだ。


 ――黒銀くろがね


 何故か黒銀くろがねだと確信する。黒銀くろがねはサクラにずっと何か話しているが、ナギには聞こえない。それに黒銀くろがねはナギとユウリに気付いていないようだ。


 ――どういうことだ?


 まったく意味が分からないが、沈んでいくサクラは絶対に止めなくてはならないと直感で感じる。瞬間、叫んでいた。


「サクラ!」


 するとサクラが気づき、顔を上げてこちらを見て驚いた顔を見せて呟く。


「ナギ?」


 懐かしい顔がそこにあった。だがその顔に生気はなく、最後に見た時よりもひどい状態だった。


 ――やはり限界か。


 サクラの元に行こうとするが、なぜか体が動かず行くことも歩くことも出来ない。今すぐにでも側にいってやりたいと思うが、どうあがいても魔法を使おうとしても動かない。だが今もサクラはゆっくりと沈んでいっている。このままではサクラが危ない。

 だから叫ぶ。


「何してる! 行くな! 諦めるな!」

「ナギ……」

「迎えに行くと言っただろ! 俺は言ったことは守る! だから俺を信じろ! もう少し頑張れ! 絶対に諦めるな!」

「ナギ……」


 すると沈んでいたサクラの周りの地面が普通に戻り止まった。すると後ろの黒銀くろがねは舌打ちし消えた。同時にサクラが立ち上がり、泣きそうになりながらこちらにこようとするが、サクラも動けないようだ。


「サクラ! もう少し頑張ってくれ! 必ずお前を見つける!」

「うん……」




 そこでナギは目を覚ました。


「今のは……」


 あまりにもリアルな夢で頭が混乱する。


「サクラの精神世界か……」


 サクラの耳のピアスが光って見えた。あれは天陽大神そらのひなたのおおかみからもらったピアスだ。それが光っていたということは――。


天陽大神そらのひなたのおおかみが力を貸してくれたのか」


 それしか考えられなかった。そして黒銀くろがねからの侵略の最後の砦になっていることを確信する。


「どちらにせよ、時間がないということか……」


 そこでユウリもいたことに気付く。


「ユウリ……だったよな?」


 でもなぜユウリがいたのか?


 ユウリにはサクラのことは話していない。下手に心配をかけたくないからだ。


 ――俺とユウリが繋がっているからか。だがなぜユウリも精神世界に?


 天陽大神そらのひなたのおおかみがサクラの精神世界に呼び寄せたと考えるのなら、なぜユウリに見せたのかが分からない。


「まあいい。それは後で考えることにして、今はまずサクラを見つけ出すことが先決だ」


 天陽大神そらのひなたのおおかみの力が働いていても、サクラの精神状態が限界だということが今のでわかった。


「原因は黒銀くろがね!」


 黒銀くろがねがサクラの精神状態を壊そうとしているのは、サクラの体を乗っ取るため。


 ――精神状態を崩壊さえ体と切り離し奪うのだろう。


 なら一秒でも早く助けてやらなくてはならない。

 生きているのだから!




 黒銀くろがねは舌打ちする。


「あと少しでこの女、持ち堪えやがった。なぜだ?」


 何かきっかけがあったはずだと考える。だが分からない。


「まあいい。どの道あと少しで落ちる」




 その日の夜、久しぶりにユウリと話す。そしてユウリの言葉にナギは驚いた。


『ナギ、1つ聞きたいんだけど』

「なんだ」

『サクラちゃんに何かあった?』

「……なぜそう思う?」

『変な夢を見たんだ……。サクラちゃんが1人うずくまっていて、どんどん落ちていく夢だ』


 そこでやはりあの時いたのがユウリだったのだとナギは思う。


『そこにナギもいた。初めて見たけどあれは君だった』

「……」

『ナギ、本当のことを教えて。サクラちゃんは元気なんだよね?』

「――」

『ナギ、なぜ黙っているんだよ』

「ユウリ……すまない……」



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