第121話 ユウリの夢
ユウリは、ばっと起きる。だが部屋はまだ真っ暗だ。
「なんだ……今の夢は……」
ユウリが気付いた時にはなぜか真っ暗な場所にいた。どこだと周りを見ても薄暗い空間があるだけだ。不安を抱えながら当てもなく歩き、遠くに誰かがいることに気付く。誰だと近づくとサクラだ。
「サクラちゃん?」
だがサクラはただじっと体操座りをして下を向いて泣いているだけだ。
「サクラちゃん! サクラちゃん!」
ユウリはサクラの元に行こうとするが、なぜかそれ以上側に寄れない。足がなぜかその場に張り付いたように動けないのだ。
「あれ? どうなってるんだ?」
するとサクラの周りの地面から黒い煙が立ち上り始め、サクラの後ろに顔が見えないが男性が現れた。そしてサクラへ何かを囁き始めた。ユウリは眉を潜める。
――誰だ?
口元しか見えず、何を話しているのかは分からない。一瞬泣いているサクラを慰めているのかと思うが、すぐに違うと否定する。
――あいつは良くないやつだ!
「サクラちゃん! サクラちゃん!」
大声で呼ぶがユウリの声はサクラに届かないのか、まったく気付く様子はない。その間もだんだんとサクラの周りの黒い煙は大きくなり、そのうちサクラの周りの地面が蟻地獄のように下へと沈んでいく。
――あれは昔の僕みたいだ。でもなぜサクラちゃんが?
そう思っている間にどんどんとサクラは地面へと吸い込まれるように体操座りをしたまま沈んで行く。
――だめだ!
ユウリは全身で叫ぶ。
「サクラちゃん! そっちに行ったらダメだ!」
するとサクラが顔を上げてユウリを見た。
――気付いた!
だがすぐにサクラはまた膝を抱え顔を埋めてしまった。するとまたどんどんと沈んでいく。
「サクラちゃん! サクラちゃん!」
だがさっきは届いた声も今はまったく届かない。
「なぜだよ! なんで届かないんだよ! サクラちゃん!」
――くそ! どうしたらいいんだ! ナギはどうしたんだよ!
するとユウリの反対側が光った。なんだと見れば、1人の背の高い男性が現れた。
「ナギ?」
なぜかユウリはそう思った。ナギを見たことがないはずなのに、なぜかその人物がナギだと認識しているのだ。
するとナギもユウリに気付き驚いた顔を自分に向けた。だがすぐにサクラへと首を向ける。
「サクラ!」
やはりその声はナギそのものだ。ユウリもサクラを見る。するとサクラが顔を上げて呟いた。
「ナギ?」
するとナギがまた叫んだ。
「何してる! 行くな! 諦めるな!」
「ナギ……」
「迎えに行くと言っただろ! 俺は言ったことは守る! だから諦めるな! 絶対に諦めるな!」
「ナギ……」
サクラは立ち上がりナギへと歩もうとしていた。すると沈んでいた地面が元通りになり、後ろにいた男は舌打ちし消えた。
ユウリはふっと笑う。
「ほんとナギって凄いや。サクラちゃんを引き戻すんだから」
そこでユウリは目を覚ましたのだ。
「なんかリアルな夢だったな。ナギも出てくるなんて……。ナギってああいう顔してたんだ。って確証はないけど」
でも聞いていた黒髪と背が高いことなど当てはまる。そう聞いていたからユウリが勝手に作り出した顔なのかもしれない。
「それにしても、サクラちゃんになにかあったのかな……。あんな夢みるなんて……」
どうしても気になって仕方がない。
「明日にでもナギに聞いてみよ」
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