第120話 サクラの夢
――なぜ私はここにいるのだろう。お父さんや兄と姉のように妖力が強いわけじゃない。無効にする特殊能力? そんなもの何の役に立つのか。今まで何の役にも立たなかったじゃない。いつも九條家のお荷物だったじゃない。それなのに今さら必要だからと連れ去られ、自分で逃げることも出来ずにここにいるなんて……。また迷惑かけてるだけだ。
頭の中で声がする。
「お前はもう死んだことになっている」
「生きていると思っている? じゃあなぜ何日も助けにこない。普通ならすぐ探しだし助けに来るだろう。ナギだったか? あいつの力ならすぐ見つけることが出来るはずだからな」
「しょせんお前は形だけの許嫁。あいつに愛されているわけじゃない」
「家族もそうだ。足手まといのお前がいなくなって反対にホッとしてるんじゃねえのか? そんなことない? 表では可愛がってくれても心の中まで鬱陶しいと思っていたに決まってるだろ」
もう何回も言われ続けている言葉だ。最初は違うと否定していたが、日が経つにつれて自信がなくなっていた。その声の主も分からない。
最初は警戒したが今は慣れてしまった。
悪魔なのか?
反対に真実を告げている存在なのか?
もうそんなのどうでもよくなっていた。言っていることは間違っていないのだから。
――誰でもいい……。そのとおりなんだから……。
そこで最後に見たユウリが浮かぶ。
――ユウリ……。今ならユウリの気持ちが分かる気がする。こんな気持ちだったんだろうね。私、ユウリの気持ち、分かっていたつもりだった。でも違った。こんなに辛かったんだね。ごめんねユウリ。ちゃんと分かってあげれなくて。
サクラはその場に座り体操座りをして顔を埋める。
――もう疲れた……。どうでもいい。私は死んだことになっているから誰も助けに来ない。だったらもう生きていても……。
すると、
「サクラちゃん! そっちに行ったらダメだ!」
聞き慣れた声が聞こえ顔を上げる。やはりユウリだ。
――ユウリ? なんでユウリが? あ、そうか。今ユウリのことを思っていたからだ。じゃあこれは夢なんだ。
そしてまた顔を抱えた膝に埋める。すると後ろから声がする。
「そうだ。もう疲れただろう」
――うん。そうだね。
「もうお前を必要とする者は誰もいない。だからそのまま眠れ。そうすれば楽になるぜ」
――楽になる……。
「そうだ」
――そっか。もう考えなくていいんだ……。
「そうだ。眠れサクラ」
――うん。
その時だ。
「サクラ!」
今度はナギの怒鳴り声が聞こえた。
「ナギ?」
サクラは顔を上げてナギを探す。するとナギがユウリの反対側にいた。
「何してる! 行くな! 諦めるな!」
「ナギ……」
「迎えに行くと言っただろ! 俺は言ったことは守る! だから諦めるな! 絶対に諦めるな!」
「ナギ……」
サクラは立ち上がる。すると後ろで「ちっ!」と舌打ちが聞こえた。
そこでサクラは目を覚ます。
「……夢?」
時計を見れば夜中の3時だ。いつの間にか寝てしまったようだ。ずっと思い詰めていたためなのか、夢でも考えているとは思わなかった。それにユウリとナギが出てきたのには驚く。いま一番会いたい2人だからだろう。
そして力なく笑う。
ヘタレのユウリがとてもしっかりしていたのが意外だった。
「あんなしっかりしたユウリ、あり得ないなー。でも……」
夢に出てきたユウリは自分の妄想のわりにはリアルだったと不思議がる。少し髪も伸び体格も少ししっかりしていた気がする。それに顔も昔のように明るくなっていた。最後にあった時のユウリとは大違いだ。
「今いる場所がユウリにとって良い場所で、夢で見たみたいに元気なユウリならいいな……」
そう願ってしまう。こんな時ですらユウリの心配をしてしまう。やはり弟のような存在だったため心配で仕方がない。
それにその後出てきたナギだ。
「ナギ……。信じていいかな?」
迎えに行くという言葉を――。
「ナギは絶対に約束を守るはず。なら信じてみよう」
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