第118話 サクラの行方



 ソラの家についてナギは驚く。


「ミカゲ」

「なんだ?」

「十家門の家ってみんなこんな大きな敷地なのか?」


 この世界に来て分かったことが、ナギの家と敷地が他の家よりもかなり大きいと言うことだ。普通の家はそれほど大きくない。サクラの家もナギほどではないが普通の家の敷地の10倍はある。そしてソラの家もナギの家に匹敵するぐらいの敷地と家の大きさだったのだ。


「十家門は国から土地を与えられるからな。皆このぐらいの土地はあるな」

「さすが実力主義国だな」


 チャイムを鳴らすと門が自動で開く。そして1人の従者なのだろう者が頭を下げ中に案内した。

 応接室に通されると、そこにはソラが待っていて、第一声が「どういうことですか!」だった。

 ミカゲが事の経緯を説明する。


「サクラを狙ってということですか?」

「そう俺達は見ている」


 ソラは苦渋の顔を見せる。


「……サクラは無事ですよね?」


 質問なのか、自問自答なのか分からない小さな声で言うソラにミカゲは応える。


「ああ。俺はそう思っている。まずあいつがサクラを殺させるとは思わない」

「!」


 ここでいうあいつとは黒銀くろがねのことだ。


「もしサクラに危険が迫れば、黒銀あいつは妖力が万全でなくてもサクラと入れ替わり脱出するだろう。現にこの前の猪笹の時もそうだった。今回それをしなかったということはサクラの命は無事だということだ」


 それにはナギも同感だと思う。最初炎に包まれた監視塔を見た時はそれに気付かず中に確認に行こうとした。なぜあの時すぐに気付かなかったのか?


 ――やはりレンジの言う通り、俺は普通じゃなかったということのか……。


 改めて冷静ではなかったことに納得する。


「で、どうなんだ? サクラの居場所は分かるのか?」


 ミカゲが確認するようにソラへと問う。


「居場所は分かるけど、ある程度近づかないと分からない……」

「やはりそうか」

「それに……」


 ソラの顔が曇る。


「もう時間が……」


 それはサクラが黒銀くろがねに飲まれるタイムリミットが近いということだ。だが諦めるつもりは毛頭ないとナギはギッと奥歯を噛みしめる。


「それを考えるのは後だソラ。まずサクラを探す」

「ナギ」

「きのう俺はあいつに明日まで我慢しろと無理にあの場に留まらせた。あいつは相当精神的に参っていたのにだ……」


 それが悔やまれて仕方がない。


「ならまずあいつを見つけて安心させてやらなくてはならない」

「そうだね」


 ソラも頷く。

 すると、ナギのスマホにユウケイから連絡が入る。まずユウケイから連絡が入ることはない。だとすれば緊急ということだ。すぐに出る。


『ナギ、今どこだ?』

「ミカゲとソラの家です」

『ならちょうどいい。3人で家にこい』


 それで切れた。サクラ関係だと分かる。すぐに3人はナギの家に向かった。



 案の定ユウケイとサクラの父親のテツジがいた。ユウケイとテツジはミカゲに深々と頭を下げる。そしてテツジはナギへも頭を下げて謝ってきた。


「ナギ君、サクラの件で迷惑をかけてすまない」

「謝らなくていいです。テツジおじさんが悪いわけじゃないです。それに俺はきのうサクラを1人にしてきました。あの時にもっと警戒しておけばよかったと後悔してます」


 これは本当のことだ。


 もしあの時、サクラを連れ出していたら。

 もしあの時、サクラに防御強化をしておけば。

 もしあの時、もっと――。


 考えればいくらでも出てくる。後悔しかない。


「ナギ君、君こそまったく責任を感じなくていいんだ。それこそ君を巻き込んだことのほうが申し訳ない」


 するとナギは少しムっとする。それに気付いたユウケイが苦笑しながら言う。


「テツジ、それは言っちゃいけない。ナギが怒る」

「え?」


 それにはナギもテツジと同じ顔をしてユウケイを見る。


「許嫁ではあるが、ナギももうサクラちゃんの家族と同じだ」

「は?」


 ナギが反論するように声を上げるのを微笑みで返し、


「だからここはナギに任せてやってくれないか? そうしないとこの子は暴走する」


 言い方は引っかかるが、確かにただ待つだけはできそうにない。そんなナギとユウケイを見てミカゲは感心する。


 ――へえ。ユウケイのやつ、よくナギのこと分かってるじゃねえか。本当の親子みたいだな。


 テツジもユウケイの言い方からその意味を理解し、


「そうか。それならよかった。変な気を回してしまって悪かったね。じゃあナギ君にお任せすることにするよ」


 と、安堵の表情を見せてナギに言う。ナギと言えば、


 ――なにがよかったんだ?


 と、テツジがユウケイの疑わしい言葉で納得したことに疑問符が頭に浮かぶ。


「そういうことだ、ナギ。だからお前はお前が思った通りに動きなさい。もし何かあれば私がフォローする」

「父さん」

「サクラちゃんのことは公になっていない。だから私とテツジは勝手に動くことが出来ない。レンジ達特殊部隊は軍に所属しているが、他の軍の者とは違い自分達で自由に動くことが出来るから、あいつらは手伝ってくれるだろう」

「はい」

「まあ手伝うなと言ってもレンジは今回、色々と癪に障ることばかりされたからなー。黙っていないと思うけどね」


 そう笑うユウケイは楽しそうだ。それにレンジのことをよく知っている。


「父さんもレンジのこと、よく知ってるんですね」

「そりゃそうだ。小さい頃から知っている」


 するとミカゲが言う。


「ユウケイは俺とレンジのお世話係みたいなもんだったからなー」

「ほんと、特にお一人は問題児で、私を顎で使ってましたからね」

「誰だろうな? それは」


 ミカゲはとぼけて見せる。


「レンジは可愛い息子でしたね」


 そうなると、問題児は1人しかいない。


「まあ二人とも破天荒で、色々と問題を起こしてくれて大変だったのは一緒ですがね」

「それは違うな。ユウケイが世話したから、そうなったんだ」


 ミカゲが反論する。確かにユウケイもそちら系統の人間だ。


「どちらにせよ、ミカゲもレンジも父さんしか相手が出来なかったってことだろ?」


 妖力が半端なく強いミカゲとレンジに対応出来るのは、同じく皇族の血が混じっていて妖力が強いユウケイしか相手が出来なかったからだ。


 妖力が強い者は小さい頃はよく妖力が暴走する。皇族の子供の妖力は子供でありながら大人並だ。普通の者では太刀打ち出来ない。それを止めれるのは妖力が強い者のだけなのだ。


「まあ確かにあの時はユウケイしかいなかったな」


 ミカゲの言葉で、ナギは気付く。

 小さい頃からユウケイが忙しかったのは、ミカゲやレンジの世話もあったからだったのだ。結局それにより、ユウリは一人寂しい思いをしてしまった。仕方ないことだが、そんなことを知らなかった幼かったユウリは、父親は自分のことが好きではないのだと思っていた節がある。


 ――俺と一緒か……。


 ナギもそうだった。父親はナギを守るためにわざと距離を置いた。そのためナギは父親に嫌われているとずっと思っていたのだ。


 ――ここも一緒だったということか。


 色々な所でナギとユウリは共通点があることが徐々に分かってきていた。だからか余計にお互い身近に感じているのも事実だ。

 サクラの件が一段落したら、ユウリに教えてやろうと思うナギだった。


「まずサクラを探す。ソラ、一緒にこい」

「え?」


 ナギはソラの腕を持ち、その場から二人消える。


「あ、ナギ!」


 ユウケイの制止も訊かずに消えた今の息子にユウケイは嘆息する。


「はあ。まだ話したいことがあったのに」

「ナギ君、若い頃のユウケイにそっくりだな」


 テツジの言葉にユウケイは否定するかと思いきや、肯定した。


「否定はしないよ。確かに私の若い頃にそっくりだ。周りを気にせず突っ走る所は、自分を見ているようだよ。そして無計画で動いていない所も。だから大丈夫だろう」

「お前はそうだろうが、周りからすれば、ハラハラしてたまったもんじゃないけどな」


 苦笑しながらテツジが言うと、


「それは悪かったと今は思うよ。この歳になり、今のナギを見ていると、親や友はこんな気持ちだったんだろうなと分かるからね」


 ユウケイも肩を窄めながら弁解した。


「早く見つかるといいね、テツジ」

「ああ。そうしないとフジとアヤメが爆発しそうだ。今でも仕事を放っぽりだしてサクラを探しに行こうとしていたのを私がどうにか止めている状態だからね」


 フジとアヤメは皇族相手の護衛だ。休みもすぐに取れないのだ。そして仕事をさぼることなど出来る立場でもない。だがあの二人は仕事を辞めてまでもサクラを探しに行こうとしていたのだ。


「あの二人のためにもいち早くサクラを見つけないといけない」

「大丈夫さ。レンジ達も動いている。お前ももう仕事に戻らないとだめだろ?」


 ユウケイは時計を見ながらテツジに言う。テツジは仕事を中断してここに来たのだ。


「ああ。ユウケイもそうだろ?」

「ああ。こういう時、この地位は邪魔だな」


 本心で言うユウケイにミカゲが言う。


「ユウケイ、元々なりたくなかったからな」

「ええ。本当なら気ままな何も責任がない仕事に就きたかったですよ。でも私の性格を知っていた父にまんまとこのレールに乗せられちゃいましたからね。もう後戻りできません」

「残念だったな。俺の世話を任された時点でお前のその願いは消えたな」


 そう、ユウケイにミカゲの世話をさせたのは、ユウケイの父だ。ユウケイが十家門を継ぐことも軍の仕事をすることも嫌がっていたことを知っていたユウケイの父親は、皇帝の兄のミカゲの世話をユウケイにさせることを前皇帝に提案し、服従の言霊をユウケイにかけさせたのだ。


「ほんと、絶対断れないでしたからね。でも」

「?」

「今はそれでよかったと思ってますけどね」


 そう言ってミカゲに笑顔を見せる。


「そうか。ならよかった」


 ミカゲも笑顔で応えた。




――――――――――――――――――――――


 こんにちは!  碧心☆あおしん☆ です。


 こちらを見つけてくださりありがとうございます。

 そして、こんな拙い私の小説をここまで読んでいただきありがとうございます。


 第九章はここまでです。


 第十章で終われるかな? 

 完結まであと少し!


 もしよろしければ最後まで見守っていただけると嬉しいです(≧∀≦)♪

 よろしくお願いします(_ _)


 ではまた~!     



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