第117話 監視塔爆発②
「そういうことか」
「何か分かったのか?」
レンジが訊く。
「ああ。このカラクリが分かった。犯人は元々あの監視塔の中にいたんだ」
「どういうことだ?」
「監視対象者として、サクラ同様あの場所に監禁されていたやつってことだ」
「は? だがあの場所は鍵が掛けられてるだろ」
「ああ。普通ならな。だが元々サクラを拉致するために配置された間者なら、サクラの部屋に行く前にその者の部屋もカードキーで開けておけば自由に出れる」
「!」
「あいつらはサクラの部屋も普通にカードキーで開けていた。ならばそのカードキーでそいつの部屋の鍵を開けることは可能だ」
「なるほどな。そしてそいつに地下の電源施設のカードキーを渡しておくということか」
「ああ。最初にまず電源を落とすために地下の電源施設に行って隠れていたんだろうな。そして俺が帰った後そのカードキーでもう一度電源を落とし、持っていた爆弾を設置。そしてサクラの部屋へ行きサクラを寝かしたか気を失わせたかし、1人であの場所から運びだした。そしてタイマーであの場所を爆破させた」
「じゃあそんなカードキーを持つやつなんてそういねえな。すぐに調べさせるぜ」
「ああ。頼む」
「じゃあもう九條サクラはガーゼラ国に連れて行かれたのか?」
それにはミカゲが否定した。
「まだこの国にいるはずだ。一応もしもの時にサクラを国外に出さないために国境すべてを厳重に見張らせていたからな。すぐに国外に行こうとするのは無謀なことだ。だとしたら、どこかに隠れているとみた方がいいだろう」
「わかった。俺達で九條サクラを探してみる。だから元気だせナギ」
「別に俺は元気だ」
心外だと言わんばかりの顔を見せるナギに、レンジは半目になり言う。
「お前、それ本気で言ってるのか? さっきまで下向いて消沈していたやつが」
「ただ下を向いていただけだ」
「はあ。兄貴、兄貴の弟子、自覚ねえぞ。頭のネジ緩んでねえか? あれで元気だったらしいぜ」
大袈裟に嘆息しながら言うレンジにナギはムッとして横を向く。少しは自覚があるようだとミカゲは苦笑する。
「おっ? 少しは自覚があるようだなー」
「黙れ。レンジ」
「だから呼び捨てにするな! それに言葉使い! 俺はお前よりも先輩で軍では一番上の特殊部隊のた・い・ちょ・う!」
言い聞かせるように言うが、ナギはまったく気にせず、
「だからなんだ。俺はまだ軍に入ってない。それにレンジはレンジだろ」
と言い放つ。
「ったく、さっきまでしょんぼりしていたやつだとは思えねえな」
「は?」
そんなナギを見てミカゲが笑う。
「あはは。レンジ諦めろ。今のナギは珍しく自分の感情に戸惑って余裕がねえ状態だ。許してやれ」
ナギは余計なことを言うなと、今度はミカゲを睨む。
「はあ。先が思いやられるな。そんな態度だとやっていけねえぞ」
自分を棚に上げて言うレンジに、ミカゲは「お前が言うか」と苦笑し、ナギはと言えば、
「大丈夫だ。ちゃんと人を選んでやっている」
と鼻で笑う。そこでレンジが気付いた。
「おい! 待て! その言い方だと俺はその対象じゃねえってことかよ!」
「ああ。そうだ。よく分かったな」
そう言って笑うナギに、レンジは顔で抗議をするようにギッと歯を見せて食いしばる。その様子を見ていた特殊部隊の者達はゲラゲラ笑って言う。
「隊長が言いくるめられてら。おもしれえ」
「あはは。笑えるー」
「いいコンビだな」
そんな部下にレンジはあたるように叫んだ。
「お前らうるせいぞ!」
ナギも少し笑顔を見せているのを見て、
――ちょっとは戻ったか。
とミカゲは少し安堵し微笑むのだった。
特殊部隊の事務所を後にしたナギは、ミカゲの車に乗ると唐突に言う。
「ミカゲ、知ってたな」
「何をだ?」
「犯人がもう1人いて爆弾を設置したことをだ」
「知ってたというよりもそうだろうと思っただけだ。それしかないからな。俺らは拉致犯の裏を掻いた。その俺らの裏を掻く奴だっているだろうという話だ」
そう言いながら少し憂いを纏うミカゲにナギは自分を重ねる。ミカゲもナギも命を狙われることがあった。そのため身を守るために裏の裏を掻くことが日常茶飯事になっているのもある。特にミカゲは自分ではなくシンメイだったかもしれない。
「どうやってサクラを見つけるんだ?」
ナギは窓の外を見ながら訊く。時間との闘いだ。闇雲に探しても意味がない。
「今からソラに会いに行く」
「ソラ?」
「ああ。あいつは
「連絡したのか?」
「ああ。ソラにはお前と会う前に連絡した」
サクラが拘束されてから毎日のようにナギにどうなのかと連絡がきていたのだ。三條家にも情報はつかめないためだ。
ちなみに今学校は夏休みに入っている。幸いにもサクラが拘束されて二日後には夏休みに入った。サクラは体調不良で休んだことになっているため、誰もサクラが拘束されていることは知らない。
「あいつはサクラのことになると異常なほどに過保護になる。知った後が面倒そうだ」
ナギが目を細めて言う。第三者目線で言っているナギにミカゲは、
――お前の許嫁だろう。ソラのサクラに対する態度に何とも思わねえのか?
と心の中で突っ込む。
「ソラはサクラのことが好きなのか?」
「あいつ曰く、そういうのじゃないらしい。サクラのことが心配で放っておけない。悲しむところが見たくない。どうにか助けてやりたいだけらしい」
「……え」
「親や兄妹みたいな感じなんだろうな。フジとアヤメみたいな位置付けだな」
「……」
「まあその気持ちは分からんでもないな。サクラは放っておくと自分の殻に閉じこもる癖があるからな。それに強くない」
そう淡々というナギに、ミカゲは気が遠くなる間隔になる。
――こいつら気付いてないのか? それにソラの言うこと聞いてこいつは何も思わないのか?
ミカゲも恋愛関係は詳しいわけではない。だがその感情の意味は分かる。
「お前ら、似た者同士だな」
「は? ぜんぜん似てないぞ」
ナギは、どうしてそう言うのかがまったく分からないと眉を潜める。
「お前ら2人相手にサクラ、大変だな……」
ここにはいないサクラにミカゲは同情する。
「どういう意味だ?」
本当に分かっていないナギに、説明するのが面倒だとミカゲは小さく嘆息する。
「そのままの意味だ。いいか、今の話サクラにはするなよ。あいつ落ち込むぞ」
「?」
余計に意味が分からないと首を傾げるナギだった。
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