第116話 監視塔爆発①




 監視塔が朝早く爆発が起こり火事になったと一報が入り、駆けつけたレンジ達特殊部隊は目の前の全体が凄い炎に包まれている監視塔を見て固まる。消火作業はされているが、炎の勢いが凄いため消火が追いついていない。

 レンジは近くの消防隊を捕まえ訊く。


「この中の者達は!」

「わ、わかりません。ただ通報によると、5回の爆発と共に火が上がったようなので、中から開けることが出来ない監視化にあった者達は逃げ遅れている確率が高いかと……」


 レンジはギッと奥歯を食い縛る。


 ――なんてことだよ。ぜってい助からねえ。


 すると一緒に付いてきたアグリが言う。


「隊長、これってやっぱり……」

「ああ。だろうな。タイミングが良すぎる」


 その横にいたフウマが小声で訊く。


「やはり九條サクラ絡みですか?」

「だろうな。拉致が失敗し手に入らないとなり、消す方にシフトしたんだろうな」


 ――だとすると、あの3人の他にも仲間がいたということか? 


 レンジが見つけ出した3人、宰相の戸塚マサハル、保安部部長の深山ヨウゴ、そして監視官の横井ケンだ。きのうの拉致班を捕まえた後、身柄を確保した。だからあの3人がこの爆発を指示したとは考えにくい。


 ――計画が失敗したことを知ったとしても、この監視塔を爆発させるにはきのうの夜のうちにしなくてはならない。だとすると早すぎる。じゃあ最初から爆発も予定に入っていたということか? 


 だがどうやってやったのか? 拉致目的のため、極力見つからず騒ぎを起こさせないようにサクラを拉致することに重点を置いていたはずだ。現に拉致班はそうしていた。そして全員逮捕した。だとしたら、きのうの計画を知っていた者の中に反逆者がいるということなのか。だが計画を知っている者は、シンメイ、ミカゲ、ユウケイ、ナギ、そしてレンジ達特殊部隊のみだ。まずあり得ない。


 ――この中に裏切り者がいるとは考えにくい。じゃあ誰が?


 そこで今までの経緯を辿る。だが他に怪しい者はいない。


 ――どういうことだ? 何か見落としているのか?


 するとそこにナギが現れた。


「レンジ! サクラは!」 


 声を張り上げ詰め寄る。


「わからん……」


 それしか言えなかった。ナギは監視塔へと視線を向け、また瞬間移動しようとした瞬間、レンジがナギの左腕を掴む。


「よせ! 今から入っても助からねえ」

「離せ!」


 だがレンジは離さない。ナギは振りほどこうとするが、びくともしない。まさか力で負けるとは思わなかったナギは驚く。


「頭を冷やせ! ナギ!」

「放せと言っている!」


 ナギも大声で怒鳴る。だがレンジは放さない。


「いや放さねえ! どう見てもダメだ」

「見ないと分からない!」

「見なくても分かる!」

「なぜ言い切れる!」


 ナギはレンジの胸ぐらをレンジに掴まれていない右腕で掴み怒鳴る。そんなナギにレンジは嘆息し、そして真顔で淡々と状況を説明する。


「最初爆発が起きた。場所は監視塔の5ヶ所。地下、1階の左右、最上階の左右の出口付近からだ。そして一気に火が回った」

「!」

「ここまで言えばお前なら分かるだろう」


 案の定ナギは目を見開き、レンジの胸ぐらを掴んでいた腕を緩め離す。そして、監視塔へとゆっくり目線を向ける。


「……嘘だろ……」


 今までの勢いはなくなり、ただ立ち尽くす。もう中へと行かないだろうと思い、レンジは手を放す。


「まず事務所に戻る。お前も一緒にこい」


 だがナギはただ炎を見て立ち尽くしているだけだ。


「ナギ!」


 そこでやっとナギはレンジを見る。


「お前もこい」


 そう言って顎をしゃくる。ナギは大人しくしたがった。


 事務所に戻ると、ミカゲがやって来た。ソファーに下を向いて座るナギの姿を見てミカゲはナギの肩に手を置く。だがナギはそのままだ。


「大丈夫か?」


 大丈夫ではないことはわかりきっているが、かける言葉がこれしか浮かばない。ナギは下を向いたまま、「ああ」とだけ告げた。


 ――無理しやがって。


 レンジがミカゲにまず訊ねた。


「兄貴、状況は?」

「まだ火は消し止められてない。状況からして監視塔にいた監視下の者全員が絶望的ということだ」


 ナギの肩がピクっと動く。それをミカゲとレンジは横目で見ながら話を続ける。


「そして、これはテロと見ていいだろうということだそうだ」

「テロねー」


 ミカゲは鼻で笑いながら言い、そしてレンジは皮肉めいて応える。


「表向きはそう見せたいんだろうな。だがどう見てもサクラ狙いだ」


 ミカゲの言葉にナギが顔を上げ目だけを向けるが、ミカゲはあえて無視し話す。


「サクラがあの場所にいたことは知られていない。名簿にも載ってなかった」

「なんだと?」


 レンジが声を上げる。


「あり得ない話ではない。サクラは書類上は稀人ではないからな」


 検査では陰性だったが、サクラが万象無効ばんしょうむこうの能力の持ち主だと知っているために拘束したのだ。


「だが特殊規定が九條サクラには出ていたはずだ。ならば書類を誤魔化すことなんて出来ねえんじゃ」

「書類上には記載されていた。だがきのう付けで監視塔を出たことになっている」

「は?」


 レンジが声を上げる。


「何もかもぐちゃぐちゃじゃねえか!」


 そこで、さっき考えていたことが気になり口にする。


「なあ兄貴、今回の件どう思う? 監視塔爆破の爆弾は、最初の時点で設置されたものじゃねえ。拉致が失敗してから設置されたものだ。あの場所の監視システムとセキュリティのことを考えれば、事前に設置は絶対に無理だ。だとしても拉致するために停電をさせてからの設置も無理がある。停電してから九條サクラの部屋に現れた時間は5分もなかった。だとすれば、あいつらが設置したのは考えにくい。だからと言ってあの日、他にいたかと言えば、NOだ。あの場所に現れたのはあの10人のみだった。他はあの後一応フウマ達に調べさせたがいなかった。拉致班を捕まえてからすぐにナギがセキュリティを復旧させたから、その後に侵入し設置するのはぜってい無理だ。そう考えると、誰が爆弾を5カ所も誰にも見つからずに設置したかがまったくわからねえんだよ」


 お手上げだとレンジは嘆息する。するとミカゲが腕組みしながら言う。


「俺も同じ考えだ。誰がサクラを連れ出して爆弾を設置したのかは分からねえな」

「え?」


 ミカゲの言葉にレンジは驚き聞き返す。


「兄貴、今なんて言った?」


 ナギも顔を上げてミカゲを見る。


「サクラは生きていると言ったんだ」


 ナギは目を見開き声を上げる。


「サクラが生きている?」

「ああ」

「待て待て兄貴。九條サクラを殺すために爆破をしたんじゃねえのかよ!」


 ガーゼラ国が手に入られなければ、反対にガーゼラ国の脅威になるだけのため、それなら殺害したほうがいいと、サクラの暗殺がされたのではないのか。


「まあ普通ならそう考えるだろうな。だが、俺ならそこを逆手にとってサクラを連れ出すだろうな。そしてダミーの死体を置いて、サクラが死んだかのように見せるだろう」

「だがそうなると、誰が九條サクラを連れ出し爆弾を設置したんだよ」

「さあな」

「なんだよ。分からねえのかよ!」


 文句を言うレンジは放っておいてミカゲはナギを見る。


「お前ならどう考える? ナギ」

「――」

「今のお前なら何か浮かぶだろう」


 そう言って笑うミカゲにナギは少しムッとするが、その通りなので何も言わずに顎に手をあて考える。


 ――レンジの言う通り、サクラを拉致しに来た8人以外は妖力からして廊下にも怪しいやつは誰もいなかった。そして電気が落ちてから5分以内に部屋にやって来たところを見ると、やはり爆弾を設置するまでの時間はない。その後も俺が電源を入れに行った時も爆弾はなかった。だとすれば、やはり爆弾は俺が去った後の夜中ということだ。じゃあどうやって爆弾を設置した? 


 やはりそこでナギも行き詰まる。

 するとミカゲがナギを呼んだ。


「ナギ」

「?」

「お前はどうやって電源施設に入った?」

「? 父親のカードキーでだ」

「その場所にはお前の瞬間移動では無理だったんだよな」

「ああ。鍵がかかった状態だと非常用電磁波が出てアラームが鳴る設計になっているとミカゲが言ってたんじゃないか」


 何ボケたことを言うのだと怪訝な顔で言うナギに、ミカゲはにぃと笑う。


「そうだ。監視棟は一度セキュリティがかかると外からは解除できない。そして地下の電源施設は一番狙われやすいため、普段は厳重に管理され非常用電源が入るようになっている。だからあの場所は登録されたカードキーでしか入れない」

「!」


 そこでナギは気付く。そして両端の口角を上げる。


「そういうことか」



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