第115話 サクラの処遇⑥
「ああ。ここ? 俺達、軍の特殊部隊の事務所ね」
その言葉に「やはりそうか」と男達は項垂れた。
レンジは立ち上がると、「後は残りの残党だな」とスマホを取り出し、監視塔の外で待機している副隊長の
「フウマ、待たせたな。いいぜ」
『了解』
そして通話を切る。その様子を見ていた捕まった男の1人が目を見開きレンジに叫んだ。
「まさか、お前ら計画を知ってやがったのか!」
「いや。知らねえ」
「え」
「ただそうだろうという仮定だ」
「そんな仮定だけで……」
「ああ。なめちゃもらっては困るぜ。こっちには場を踏んだ優秀なやつが沢山いるんだ。これぐらい先読み出来なければ、戦争なんてやってられねえぜ」
――そう。こっちには、ミカゲ兄貴とユウケイさんと俺、そしてナギがいるんだ。わからねえわけがねえ。
2度襲ってくることを指摘したのはナギだ。その説明を聞いてレンジは驚き、そして疑問を抱く。ナギの説明はどう見ても危険な場を幾度も踏んだ者の考えなのだ。一度も戦場を知らないはずの学生がそのような考えになるのが納得がいかない。
――意味わかんねえなー。
もっと分からないのが、その話を聞いていたシンメイとミカゲ、そしてユウケイにヤマトだ。誰もそのことに疑問を持つ者がいない。反対に分かっているような口ぶりなのだ。
――ありゃ全員知っているな。さすが皇族組というとこか。まあ俺も一応皇族組だが、あの人達とはレベルが違い過ぎだからなー。
血筋の濃さから言ったらユウケイと変わらない。だがユウケイの父親の家系がサラブレッドで妖力が半端なく皇族並みなのだ。一條家も皇族の血が濃い家系なのだろう。だからかユウケイにはミカゲ達ほどの皇族の濃さがある。皇族と違うのは従魔がいないだけだ。
それに一応レンジも皇族の血が混じっている。だから善悪は分かる。
――まあ、悪いやつじゃねえしな。
ましてや皇帝シンメイと兄のミカゲがナギを気に入っている。ならこれ以上深掘りすることはない。それにレンジ自身もナギを気に入っているのが一番の理由だ。
――うまくやれよ。ナギ。
レンジはナギに後は託すのだった。
レンジからの連絡をもらい通話を切ったフウマは、少し離れた場所にあるワゴン車2台を見ながら一緒に待機していた部下の佐久間アグリと宮岸セイジに言う。
「連絡が来た。行くぞ。アグリ、セイジ」
「ほいな」
「りょうーかい」
アグリとセイジはそれぞれ、一気に2台のワゴン車の運転席にいる2人へ近づき、銃を突きつける。
「動くな」
2台のワゴンにそれぞれ乗っていた男2人は驚き、降参だと手を上げる。その後ろにいたフウマはワゴン車のタイヤをパンクさせる。ワゴン車も重要な証拠になるからだ。
「これでよし」
車から引きずり出され、縛り上げられた拉致班の2人が言う。
「お前ら特殊部隊……」
「そうだ」
「なぜお前らが出てくる」
「は? そんなの当たり前じゃん。最初に隊長に喧嘩売ったのがお前らだからだよ」
アグリはそう言って笑った。
ナギはサクラに計画をざっと説明し、最後に言う。
「さっきも話したが、もし明日何か聞かれたら何もなかったと言え」
「……うん」
「明日ちゃんと解放されるから、明日まで待て」
「……うん」
どこか元気がない返事をするサクラにナギは首を傾げる。
「どうした?」
「え? ううん。何にも……」
そう応えるサクラはやはり元気がない。その理由はだいたい想像がつく。
「なんだ、寂しいのか?」
わざと冗談ぽく言う。
「なっ! そ、そんなんじゃ!」
案の定サクラは声を張り上げて反論するが、すぐに下を向き消沈した。もっと突っかかってくると思っていたが、サクラはそれ以上言ってくることはなかった。こりゃ重傷だとナギは小さく嘆息し、サクラの頭に手を置きポンポンと叩く。
「じゃあ明日な」
「うん」
そう言ってナギがサクラから離れた時だ。
「ナギ!」
サクラは咄嗟にナギの腕を掴み止める。
「どうした?」
つい掴んでしまったとサクラは戸惑う。1人になるのが不安だとは言えない。だがナギにこれ以上迷惑をかけたくないと自分の気持ちをぐっと抑える。そして首を横に振る。
「……いや……なんでもない……」
そう言って笑顔を見せサクラは手を離す。
「ごめん。止めて。明日ね」
そう言ってまた下を向き、くっと唇を食い縛る。
「……」
ナギはサクラの背中に片手を回し、そっと自分に抱き寄せ胸に押し当てる。
「明日までの我慢だ。だから頑張れ」
「ナギ……」
少し離し目線をサクラに合わせ笑う。
「わかったな!」
サクラは満面の笑顔を見せ、思いっきり頷いた。
そしてナギはサクラを離すとその場から消えた。
サクラはベッドににうつ伏せに寝転び、枕に顔を埋めた。
ナギはサクラと別れた後、電源を復旧ささるために地下の電源施設へと行った。
やはり電源の場所の扉は、厳重なセキュリティが掛けられていた。
――魔法はダメだったな。
鍵がかかった状態だと非常用電磁波が出て、妖力や魔力などの能力を感知しアラームが鳴る設計になっているため魔法は使うなとミカゲから言われていた。
ナギはポケットからカードキーを取り出す。以前ユウケイからもらったものだ。ほんとユウケイの地位に感謝だ。
――停電でも開くんだよな?
恐る恐るキーを差し込み暗証番号を入れる。するとガチャっと音がして開いた。
ナギは安堵し中に入り電源を入れる。そしてまた鍵を閉めその場を急いで瞬間移動で去った。
ナギが次に現れたのは、レンジがいる特殊部隊の事務所だった。そこにはミカゲもいた。
「おっ! お疲れさん」
「ご苦労だったな、ナギ」
レンジとミカゲが労いの声をかける。
「許嫁はどうだったよ?」
レンジが訊く。
「ああ……」
そう応えただけでナギはそれ以上何も言わないため、レンジはミカゲを見て両肩を竦め、ミカゲも苦笑の顔を返しナギへと言う。
「これで明日サクラは解放される。よかったな」
「ああ。じゃあ俺は帰る」
そしてまたナギはその場から消えた。そんなナギを見てレンジは首を傾げる。
「どうしたんだ? あいつ。なんか元気なかったな」
「サクラが心配なんだろ」
ナギは部屋に戻り、ベッドに寝転び目を閉じる。
「……」
サクラの辛そうな顔が脳裏から離れない。
「無理しやがって……」
相変わらず自分の思いを隠す。それが腹立たしくも思う。サクラに腹を立てているわけではない。そんなサクラに何もしてやれない自分に腹が立つ。
ナギは両手で頭を抱え横を向く。
このような気持ちは前にもあった。父親が襲われた時だ。だがあの時と少し違う。あの時は自分に力がなかった。だが今は違う。力があるのに守ってやれない。あの場所から出してやれない。そして不安を取り除いてやることが出来ない歯がゆさがそうさせる。
「くそ!」
だが明日になればサクラは解放される。
「明日までの我慢だ。サクラ。頑張れ」
だがサクラが解放されることはなかった。
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