第114話 サクラの処遇⑤
「サクラ落ち着け。俺だ」
その声を聞いて動きを止め、そして顔を上げて呟く。
「ナギ……?」
「ああ」
顔は暗くて見えないが、声や匂い、そしてこの胸の感じはナギだ。
「どうして……」
「お前が連れ去られるのを阻止しに来た」
「え? どういうこと?」
意味がまったく分からない。
「あまり時間がないから手短に話す」
◇
夕方、ナギがミカゲから呼び出され連れてこられたのがシンメイがいる皇居だった。そこにはユウケイとレンジもいた。
「父さんにレンジ?」
「おい! 呼び捨て!」
レンジが速攻に突っ込むが無視する。するとシンメイもそれには無視し嬉しそうにナギの所へ来た。あいかわらず皇帝の威厳がないなとナギは目を細める。
「やあナギ、久しぶりだね」
「お久しぶりです。陛下」
ナギは頭を下げる。横でまだブツブツ文句を言っているレンジは無視だ。
「話は聞いたよ」
サクラの件だ。
「サクラを出すことは出来ますか?」
「ああ。保安部には連絡を入れておいた。だから明日の朝サクラさんは解放されるはずだ」
「ありがとうございます」
ホッと肩をなで下ろすと、ミカゲが言う。
「だがここからが問題だな」
「だなー」
レンジも頷く。
「どういうことだ?」
首を傾げていると、ユウケイが言う。
「まさかサクラちゃんを解放すると思っていなかったガーゼラ国の奴らは、焦って行動に出るということだ」
「行動?」
「強引に連れ出すという強硬手段に出ると言うことだ、ナギ」
レンジが応える。「ナギ」と強調したのは、さっきナギがレンジを呼び捨てにした仕返しだろう。だがそこはあえて振れずに言い返す。
「そんなこと可能なのか? あそこは厳重に監視されてるんだろ」
「ああ。あの監視塔は2重ものセキュリティがかけられ、妖力での瞬間移動も出来ない。そしてその中にある部屋にも鍵がかけられているし、所かしこに監視カメラも付いている」
「そんな厳重な監視下にある監視塔から連れ出すことなんて出来るのか?」
どう考えても無理な話だ。
「普通は無理だな。だが1つだけ方法がある」
そう応えたのはユウケイだ。ナギはどういうことだとユウケイを見る。
「あえて監視カメラの電源を落とし、電源を切断すれば簡単に侵入できる」
ナギはそこで気付く。
「それって監視塔の者の中にもスパイがいるということですか?」
それに応えたのはレンジだ。
「そういうことだ。よくわかったなー。ナギ」
レンジが口角を上げて言う。そこでミカゲが反応する。
「レンジ、その言い方だと鼠の正体は判明したのか?」
「ああ。この件に関係した者だけは分かった」
「!」
「まず宰相の1人で、元イーサの幹部、戸塚マサハル。保安部部長、深山ヨウゴ。そして監視官、横井ケンの3人だ」
「なるほどな。その3人なら容易にサクラを監禁し、あの場所から疑われずに出せるな」
「だが証拠がねえ。うまくやってやがる」
レンジが悔しがる。
「そうだろうな。今までばれなかったんだからな」
そこでユウケイは話を戻す。
「そいつらは後だ。どうせ今捕まえてもしらばっくれるだけだからね。それなら完璧な証拠を掴んでからでも遅くない。まずサクラちゃんを連れ出されるのを阻止しなくてはならない」
そしてナギへ顔を向ける。
「そこでナギの出番だ。まずサクラちゃんを連れ出されないように守れ。だがサクラちゃんを連れ出してはだめだよ。反対にお前が犯人に仕立て上げられる」
「それは顔もばれないようにやれと言うことですよね?」
「そうだ」
すべてばれないようにやれということだ。
「分かりました」
◇
説明をしている間サクラただ黙って聞いていた。
「能力のことは聞いたか?」
「……うん。
――やはりサクラは知ったか。まあいつまでも隠し通せることではないしな。仕方ない。
「じゃあなぜ狙われているか分かるな」
「……うん」
サクラは下を向き小さく頷く。
「安心しろ。お前をガーゼラ国へは行かせない。そのようにお前の父も俺の父も動き、陛下も力を貸してくれた」
「陛下も?」
「ああ。だから心配するな」
そう言ってナギはサクラの頭に手を置く。その大きな手がサクラの全身を包み込んでいる感覚に陥り落ち着く。だがすぐその手が離れる。もう少しこのままでいてほしかったと顔を上げナギを見ると、倒れている者達を1人ずつ魔法で縛り上げ始めた。そして全員を縛ると、その場から消す。
「何したの?」
「処理してくれるやつに送っておいた」
「?」
その頃、特殊部隊の事務所で待機していたレンジが、いきなり目の前に現れた4人に驚く。
「おいおい、4人同時に移動させたのかよ。規格外だな、あいつ」
すると捕まった4人が目を覚まし、置かれた状況が把握できずにキョロキョロする。そんな4人にレンジは悪戯な顔を向けて言う。
「いらっしゃい。待ってたぜ」
同じ頃、サクラを乗せるために車で待機していた拉致班の仲間達は、あまりにも遅いことに不信に思い始めていた。
「遅すぎないか?」
「ああ。見つかったのか?」
「それにしては静か過ぎる。電気もまだ消えてるから見つかってはいないはずだが」
だがこの状況はよろしくない。すぐにサクラを連れ出しに行った仲間のスマホに電話する。だが出ない。
「やはりなにかあったみたいだ。作戦Bに移行。第2班行け!」
サクラはこの状況が落ち着かない。今、サクラはベッドと壁の小さなスペースにナギと密着するようにしゃがんでいた。理由は、また来るであろう敵から身を守るためだ。
――近すぎ! 恥ずかしいー!
だがそれだけだ。それよりも絶対の安心感がそこにあり、今までの不安はまったくなくなっていた。サクラは暗さに慣れた目で真横にいるナギを見上げる。ナギは玄関に集中しているからか見ているサクラに気付かない。その真剣な横顔にドキっとし見入ってしまていた自分に気付き、ばっと顔を元に戻す。
――何考えてるのよ、私!
だが、ナギから伝わる体温と匂いに落ちつく自分もいる。そしてそれを求めていることも――。
するとナギが少し動いた。どうしたのかと顔をあげれば、
「くるぞ」
直後、扉が勢いよく開き、また4人の覆面の男達が武器を持って入ってきた。
――やはり気付いてきたな。
確実にサクラを拉致しなくてはならないならば、もし失敗した場合の策も考えているはずだと見込んでいた。
「いない? どこだ?」
男達がサクラの姿がいないことに焦っている。そこをナギが魔法で4人を縛り上げた。
「なに!」
男達は不意をつかれ驚くが、
「こんな拘束!」
妖力を使い外そうとするが外れない。どういうことだと思っていると、ナギが目の前に立つ。
「無理だ。俺の(魔法の)拘束はお前達の(妖力)では外せない」
「誰だ!」
だが暗くてナギの顔を見ることが出来ず男達は苛立つ。
「くそ! 最初にここに来た奴らをどうした!」
「あいつらか? 送った」
「送った?……」
意味が分からずにいると、
「こんな風に」
と言って、また魔法でレンジの所に飛ばした。
「!」
いきなりレンジ達特殊部隊の事務所に飛ばされた男達は驚き、そして目の前のレンジ達を見る。
「また来ましたぜ。何人いるんだよ」
部下の
「ほんと、ポンポンやってくるなー」
そう言いながらレンジは4人の前にヤンキー座りをする。この訳の分からない状況だが、レンジ達の服装にだいたいの見当をつけながら恐る恐る一人の男が呟いた。
「お前達は……」
レンジはにぃっと笑い応える。
「ああ。ここ? 俺達、軍の特殊部隊の事務所ね」
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