第113話 サクラの処遇④
その頃、サクラは監視施設の部屋にいた。
「はあ……」
大きな窓の外を見ながらため息をつく。もう何回ため息をついただろうか。
窓の外にはキラキラ光る湖が広がり、その周りには木や草花が生え、遠くには雪を被った山々が連なっている。そして小鳥のさえずりも聞こえ、たまにリスなども現れ木の実を食べてはまたどこかへ消えていくという、とてもおだやかな自然が広がっていた。
だがこれは本物ではない。窓の形をしたホログラムだ。
今サクラがいる部屋は、窓1つない1LDKのちょっとしたマンションだ。冷蔵庫には食料がびっしり入っている。キッチンもあるためちょっとした料理ができるようになっていた。
だがなぜか包丁はない。その代わりキッチンハサミがあり、それで食材は切れということらしい。
そして普通のマンションと違う所は、脱衣場以外は監視カメラが付いており、扉は鍵がかかっていて開かないというところだ。扉の下にはちょっとした小扉があり、そこからご飯が運ばれてくる。いわゆる監禁状態だ。
テレビはついているが、今はただBGM代わりについているだけだ。スマホもパソコンもない。情報や外との連絡が取れるものはすべて没収されてしまった。服もここで用意された上下スウェットを着ている。ほぼ囚人扱いと変わらない。
「いつまでここにいるんだろう」
まず最初に気付いた時には保安部の一室だった。そこで稀人の検査をすると告げられ、色々な機械を付けられ調べられた。最初、結果は出なかったのですぐ帰れると告げられたが、少し経つと、まだ疑いがあるからすぐには帰れないと聞かされた。そして次の日、
説明では、結果がちゃんと確定するまでの間だと言われたが、もう3日経っている。もうそろそろ結果が出てもいいのではないか。だがどうすることも出来ないため半分あきらめモードだ。
結局やることがないため、ぼーっとしてしまう。そうすると訓練の時のことが自然と浮かぶ。
――猪笹王が噛みつこうとした時、なんか声がしたな。
もうダメだと思った時、頭に直に声がしたのだ。
『ちっ! 俺が出ねえと駄目か』
その直後意識が飛び、気づいた時のには保安部にいたのだ。
――あれは誰の声だったんだろう。
聞いたことがない男性の声だった。
――エリカさん達は大丈夫だったのかな。
あれからどうなったのか聞かされていない。無事であると願うしかない。
そこでふとナギを思う。
――ナギは私のこの状況、どう思っているだろう……。
普通なら面会に来てくれてもいいのではないかと思う。だが父親やフジとアヤメも面会に来ないと言うことは、やはり面会自体が出来ないのかもしれない。
――理由はそれだけだよね?
面会が出来ないから会いに来てくれないだけだと自分に言い聞かせる。
――もし面会が許されていたら? 父親や兄と姉は仕事が忙しくて来れないだけだったら?
あまり考えたくないとサクラは首をぶるぶる降る。
ナギにとってサクラは知り合って半年しか経っていない形だけの許嫁だ。ナギの態度から、学校が一緒の居候の友達ぐらいでしか思ってないだろう。だとすれば、まったく気にしていないと考えた方がいいだろう。そう思うとなぜか悲しくなり淋しい。だがそれが現実だと言い聞かせる。
これ以上考えないように窓の外の画像をぼーっと見るしかなかった。
フジとアヤメは、父親のテツジの仕事の部屋に来ていた。
「父さん、まだサクラは出してもらえないの?」
アヤメが机をバンと叩きながらテツジにくってかかる。
「こればかりは身内である私達ではどうすることも出来ん」
テツジが渋い顔をしながら言う。
「分かっているが、まったく情報が俺達に入ってこないのはどうかと思うけど」
フジは冷静にテツジに抗議する。
「私もそうは思うのだがな。どうもサクラに特殊規定がかけられているようだという情報を聞いた」
「なんだって!」
「嘘でしょ!」
フジとアヤメが声を上げる。
「だから誰も面会が出来ないみたいだ」
「そんな……」
「でもなんでサクラにそんな特殊規定が適用されたんだ? やはり
フジが眉を潜め自問するように言う。サクラが捕まった時にサクラの能力のことをテツジから聞かされていた。なぜ今まで黙っていたのかとフジとアヤメは怒ったが、能力が能力だけに仕方ないことだと無理矢理納得した。
「だろうな。
テツジはの苦渋の表情をし応える。
「ユウケイおじさまは動いてくれないの?」
アヤメがすがるような目で訴える。
「ユウケイも動いてくれてはいる。だが一條家もサクラの許嫁という立場で近しい関係という位置付けになるため、あまり効果がないようだ」
「くっ!」
「でも大丈夫だとユウケイが言っている。あいつの大丈夫は信用していい。だからもう少し様子を見ることだ」
テツジはそこでこの話はなしだと終止符を打ち、部屋を出て行った。残されたフジとアヤメはもうこれ以上出来ることはない。
フジはアヤメの肩に手を置く。
「親父もああ言っているんだ。もう少し様子をみよう」
「うん」
その夜、サクラはベッドに横になっていた。何もすることがないためベッドでごろごろしていたのだ。すると部屋の電気、テレビとあらゆる電化製品の電源が落ちた。
「え? 停電?」
すると誰かがやってくる足跡がしたと思うとサクラの部屋の前で止まり、鍵がガチャっと開いた。
「え?」
サクラはベッドから起き上がると、ドタドタと4人の人影が入って来た。暗くてよく見えないが男性だということは分かった。
「な、なに?」
驚いている間に、サクラの両腕を掴まれる。
「ちょ、ちょっと! な、なに?」
「九條サクラだな。一緒に来てもらおうか」
「!」
そこでここの管理棟の者ではないことに気付く。
「あなた達、誰?」
「大人しくしてもらおうか」
その時だ。目の前の者がバタっと倒れた。すると、サクラの腕を掴んでいた両方の者も「うっ!」と言う声と共に倒れる。
サクラは意味が分からずにいると、もう1人の男が叫ぶ。
「おい! どうした?」
その言葉で何かこの者達の予想外なことが起きていることがサクラにも分かった。
「おい! 返事を――」
そこで、その者の声が途絶え、ドタっと倒れる音だけが響く。
――な、何が起こったの?
真っ暗で状況が分からず恐怖が押し寄せる。体を強ばらせていると、腕をぐっと引っ張られた。
「!」
サクラは驚き、どうにか逃げようと暴れる。
「いやっ! 離して!」
すると、後頭部を押さえられその者の胸元に顔を押しつけられ声が落ちる。
「サクラ落ち着け。俺だ」
その声を聞いて動きを止め、そして顔を上げて呟く。
「ナギ……?」
「ああ」
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