第110話 サクラの処遇①
すべて終わった後、ナギとソラはヤマトの部屋へ来ていた。そこにはヤマトから事前に事情は知らされていたミカゲもいた。
ナギはヤマトに訊く。
「サクラはどうなりました?」
「事情徴収しているみたいだね」
「大丈夫なのですか?」
「状況が分からないからなんとも……。稀人の管轄は保安部だからね。でもすぐにどうこうなることじゃないから大丈夫だと思うよ。それに一條さんに連絡を入れたから、なんらかの処置はしてくれると思うけど……」
そこでヤマトの顔が陰る。
「ただサクラさんがナギの許嫁である以上、一條さんは少なからず関係者だ。保安部は家族や関係者である一條家と九條家の言うことを簡単に受け入れることはしないだろうね」
「それは父親の権力でも無理だということですか?」
あまり好きではないが、権力でどうにかなるならしたい。背に腹はかえられない。
それに応えたのはミカゲだ。
「無理だな。保安部や調査機関テミスは、軍事機関ザルバと行政機関イーサとはまったく別の機関だ。公正さを重視するために存在する。どれだけ十家門の力を使っても動かないだろうな」
「じゃあどうしようもないということか?」
「今のところはな。だが見つけたのがレンジだ。なら大丈夫だろう」
ミカゲの言葉にナギとソラは眉を潜める。
「レンジってあの特殊部隊の隊長の影山ってやつか?」
「そうだ。あいつはああ見えて正義感に強く洞察力には長けている。少しでもおかしなことがあればどうにかしてくれるはずだ」
「ほんとに大丈夫なのか?」
レンジの外見と態度を思い出し、ナギとソラは不安しかない。そんな2人の考えを読み取りミカゲは苦笑しながら言う。
「ああ。見た目はあんなんだが、あいつは信用していい」
「ミカゲはやたらとあの影山というやつを買ってるんだな」
するとヤマトが応える。
「レンジ君は皇族の血が入っているからね」
それにはナギとソラは驚く。
「でも皇族でも十家門でもないし、名字も違いますよね」
ソラが疑問を口にすると、
「あいつは俺の父親の妹ハルカ様の子供だ」
とミカゲが隠すことなく応えた。
「ハルカ様の? でも確かハルカ様は……」
「ああ。もう亡くなっている」
前皇帝の妹のハルカは心臓病で亡くなっていた。
「公にはされてないが、ハルカ様は妊娠していたんだ。そしてレンジを産んで亡くなった」
「!」
「結婚してなかったからな。公には出来なかったんだ。で、レンジはハルカ様の護衛で父親である影山家に引き取られたってわけだ」
「だからか」
ナギはレンジを思い出す。レンジの目の色と妖力が父親のユウケイと似ていたのだ。
「まだ若いよな? それなのにもう隊長なのか?」
「レンジは確か26才だったか。特殊部隊は選りすぐられた者の集まりの精鋭部隊だ。戦争では最前線で戦い、特級レベルの妖獣も特殊部隊の仕事だ。そして隊長になれる者は、統率力があり妖力が強い者のみがなれる。だから年齢は関係ないんだ」
それにしてもとナギとソラは思う。
「なんか特殊部隊の連中、普通じゃないよな?」
ナギの言葉にミカゲとヤマトは苦笑する。
「だな。あの部隊は強い奴らばかりだからか、おかしなやつが多いんだ」
「レンジ君の影響が大きいかもね」
「確かにな。あいつが隊長になってから、余計におかしくなったな」
ミカゲが遠い目をしながら言えば、
「でも、レンジ君がああなったのは、ミカゲさんの影響も大きいですよね。レンジ君はミカゲさんの一番弟子ですから」
「え?」
ナギとソラはミカゲを見る。ミカゲはただ黙って明後日の方向を見ているだけだ。
「否定しないんだな」
ナギは笑う。
「うるせい」
そんなミカゲを笑っていると、ミカゲが真剣な顔になる。
「ナギ」
「?」
「動くなよ」
「……」
「お前の能力なら簡単にサクラを救出することはできるだろう。だがそれは一時しのぎに過ぎず、すぐにサクラは捕まり逆戻りだ。そして手助けしたお前も捕まる」
ミカゲは真剣な顔でナギへ言う。
「確実に救い出す方法を優先しろ」
「ああ。わかっている」
レンジは特殊部隊の事務所のソファーにふんぞり返るように頭を背もたれに預け上を向き目を閉じていた。
「隊長? どうしたんすか?」
部下で副隊長の
「なんかわかんねえことや納得できねえことが多くてな……」
「あの九條サクラのことですか? それとも三條家の息子がしたことですか?」
ソラが記憶を書き換えたことは、ヤマトから説明があった。理由はサクラの能力を知られたくないからだと言われたが、だからと言って手放しに納得出来る内容ではない。だが皇族であるレンジには、三條家が関わっていること、ヤマトが許していることから、なんとなく想像ができたので、納得はしていた。
「三條家の方はまあいい。それよりも九條サクラの方だ。九條サクラから急に発せられた巨大な妖気。あれは危険だ」
「あれが
「違うな。あれは九條サクラの妖力じゃねえ。別のやつの妖気だ」
「別人? 九條サクラの中に何か入り込んでいるってことですか?」
部下の、一瞬女性かと思うほどの童顔の佐久間アグリが訊く。
「たぶんな」
「妖魔か何かに取り憑かれてるということですか?」
「それはわからねえ。だが一條ナギの態度。遠くて会話は分からなかったが、あれは敵に対しての態度だ。許嫁に向けるものじゃねえ。殺気が半端なかったからな。そして三條ソラが瞬間移動で現れ、九條サクラを拘束し、何か能力を使った後、邪悪な妖気はなくなった。そして九條サクラは倒れた。たぶんあれは九條サクラの中にいる別人を封印か何かをしたんだろう」
「封印ですか?」
「ああ。そうじゃなきゃ説明がつかねえ。だがその後が意味がわからねえ。なぜそんな危険なやつが中にいる九條サクラをあいつらは隠そうとする。普通なら親に頼んでどうにかして中のやつを引きずり出そうとするのが当たり前――」
そこでレンジははっとする。
「そうか。親も知っているということか」
「一條様と九條様もですか?」
「ああ」
そうなると余計に意味がわからなくなる。
――なぜそこまでして隠す?
「やはり軍に入り込んでいる敵国ガーゼラのやつらに知られたくないからですかね?」
「それもあると思うが、それは
レンジは腕組みをする。
――一條家と九條家、そして三條家も絡んでいて、ヤマト様もそれを知っている。ということは皇族も絡んでいるということか。なら後で訊いてみるか。
「あとは、保安部だな」
「保安部で何かあったんですか?」
「まあな」
レンジは保安部でのことを話す。それはまったく納得いくものではなかった。
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