第106話 合同訓練②



「ではまず、作戦を言うぞ」


 大まかな作戦は天宮が言った通りだが、細かい作戦はこうだ。


 まず左右からコウメイと第3部隊の総リーダーがいるA班が右からまず猪笹いのささをおびき出す。そしてナギとソラがいるB班が左から猪笹いのささをサクラとエリカがいるC班が待機している落とし穴がある場所まで誘い込み落とす。そして催眠弾で猪笹いのささを眠らせ、口から妖銃を撃ち込み仕留めるというものだった。


「いいか。ぎりぎりまで絶対に猪笹いのささを刺激するな。もし怒らせたりすると暴走して人間に突進してくる。一度、目を付けられるとずっと狙われ手が負えない。だから絶対に最後まで気付かれないよに」

「はい」

猪笹いのささはこの奥の岩穴に1匹いることが確認されている。では皆配置につけ!」


 総リーダーの号令で、それぞれ所定の場所に移動をした。


 各3班がそれぞれの配置に移動すると、C班の女性隊員のリーダーがサクラとエリカに話しかけてきた。


「私はC班リーダーの早瀬と言います。よろしくね」


 早瀬は笑顔で言う。とても好印象の女性だ。すると早瀬はサクラを見る。


「あなたが九條さんの妹さんね」

「あ、はい」

「私、九條アヤメ先輩と知り合いなの」

「そうなんですか?」

「ええ。アヤメ先輩の2つ下なんだけど、学生の頃からすごく良くしてくれたわ。その時によくあなたのことを話してたのよ」

「え?」

「すごくかわいい妹だっていつも言っていたわ。でも一條家の息子の許嫁になったって、すごく怒っていたけど」

「あはは」

「すごく気弱で頼りがいがないヘタレな男だって言ってたけど、今日一條君を見たけど、アヤメ先輩が言うような子には見えないわよね」

「あ、はい……。違いますね」


 ――別人ですから。


「じゃあ今はもうアヤメ先輩は許したのかしら?」

「あ、まあ……どうなんでしょう……」


 この前の感じからして、まだ完全には許していない感じだとサクラは。


「アヤメ先輩は上の方に行っちゃったから、なかなか会えなくなってしまったから、もし会ったらよろしく言っておいて」

「はい。伝えておきます」


 すると無線で開始の合図が来た。


「じゃあまず私達はここに猪笹いのささを陥れる穴を掘るわよ」

「……掘る……」


 サクラとエリカは思う。


 ――まさかスコップか何かで手で掘るのだろうか。


 そんな2人の思いを読み取ったのか早瀬と他の軍の女性隊員達は笑う。


「うふふ。手で掘ると思った? そんなことしてたら夜になってしまうわ」

「ですよね」

「この機械を使って掘るのよ。少し離れてね」


 そう言って出したのが手持ち鞄ほどの大きさの機械だ。それを早瀬は地面に置きスイッチを押すと静かに動き出した。


「事前にどれだけの大きさの穴を掘るかを設定してあるから、後は勝手に掘ってくれるわ。それにとても静かだから妖獣などにも気付かれないにくいわ」


 するとA班が猪笹いのささがいるとされる洞窟の前に到着したと連絡が入った。そしてB班も洞窟から少し離れた場所に待機したと連絡が入る。


 計画では、A班とB班が猪笹いのささを洞窟からおびき出し、サクラ達のC班の場所まで誘導し、落とし穴に落として催眠弾で眠らせて仕留めるという流れだ。


「私達の穴が掘り終わったら始まるわ。私達は猪笹いのささの姿が見えたら、かがり火を妖力で他の場所に逃げそうな場所に炊いて防御しこの落とし穴に誘導するわよ」

「はい」



 その頃、ナギとソラは洞窟を見渡せる少し離れた場所から様子を窺っていた。

 じっと中の様子を見ているナギにソラがナギだけに聞こえるように話しかける。


「ナギ? どうしたの?」

「なあ、洞窟の中に猪笹いのささ1匹なんだよな?」

「そう言ってたね」

「それは本当か?」

「え?」

「ここからは少し遠いから確実じゃないが、1匹じゃない気がするんだが」

「1匹じゃない?」

「ああ。ソラ、お前わからないか?」


 ソラの特殊能力で分からないかということだ。だがソラは首を横に振る。


「ごめん、俺のは人間専用だからね。動物系は」

「そうか。この感じ……」


 そこでナギはB班のリーダーの隊員に話しかける。


「あのー、猪笠いのささは雄ですか? 雌ですか?」

「ん? どっちなんだろうな。そこまでは聞いてないな。なぜだ?」

「もしかして雌じゃないですか?」


 それを聞いていたソラが声をかける。


「ナギ、それって……」


 するとC班の穴掘りが終ったという連絡が入り、A班により作戦が開始された。ナギ達は洞窟へと視線を向ける。

 少し経つと、A班の者達が中へ細粒弾を投げ入れた。すぐに煙が洞窟からモクモクと立ち昇り始める。煙で猪笹いのささをあぶり出す戦法だ。


「俺の感覚からして、子供が何匹かいる感じだ」


 すると猪笹いのささが出てきた。そしてその周りに子供の猪笹いのささ5匹。


 「やはりそうか」


 それを見たB班のリーダーが叫ぶ。


「やばいぞ! 子供もいたのか!」


 尋常ではないリーダーの声にナギとソラは眉を潜める。子供がいたぐらいで何がそれほどやばいのか。


「何がやばいんですか?」

猪笹いのささの子供は、大人の猪笹いのささよりも体は小さいが、ほぼ同じ強さだ」

「というと、5匹いるということは強さは5倍……」

「ということになる」


 無線が入る。


『こちらA班! 猪笹いのささに子供5匹いた! B班はA班の援護!』

「そうなるよな。行くぞ!」


 その無線を聞いたナギ達B班は一気にA班へと向かう。


 A班達はいきなり出てきた猪笹いのささの子供達にそれぞれ襲いかかられていた。

 コウメイも1匹に襲われ苦戦を強いられる。結界を張り防御するが、突進の威力ですぐに結界は破られた。


「ちっ!」


 猪笹いのささの子供は方向転換し、またコウメイへと突進してくる。


 ――こいつ、確実に俺を狙ってきてやがる!


 そして他の者を見れば、やはり1人1匹が確実に狙いを定め襲っていた。軍の者も自分で手一杯で学生のコウメイを気にとめる者は1人もいない。


 ――くそ! やはり軍のやつでも下の奴らだからな。こうなるよな。


 猪笹いのささの子供を避けながらわざと左右に大きく移動する。だがやはりコウメイを狙って突進を繰り返し、近くに他の軍の者がいても見向きもしなかった。


 ――やはりこの猪笹いのささの子供、俺1人を確実に狙いを定めて仕留めに来てやがる!


「ならばこれでどうだ!」


 コウメイは水の妖力で丸い玉を作り猪笹いのささへと放つ。水玉で猪笹いのささの子供を包み込窒息させようという戦略だ。案の定、猪笹いのささの子供は苦しさからもがき始める。だが、あと少しというところで、猪笹いのささは動きを止めた。


「?」


 刹那、猪笹いのささの子供が光を発した瞬間、大爆発が起きた。妖力の爆弾のようなものだ。


「なに!」


 爆風と水滴で一瞬視界を奪われる。顔を腕で覆い爆風と水滴から身を守るコウメイの脇に猪笹いのささの子供が強烈な突進を喰らわせた。


「がっ!」


 コウメイは勢いよく後ろに飛ばされ地面にたたき付けられる。


「くそ! 脇バラやられた!」


 刹那、目の前に猪笹いのささの子供がコウメイに噛みつこうと口を開けて襲ってきた。だがコウメイに噛みつく前に猪笹いのささの子供の背中に剣が上からまっすぐに刺さる。見ればナギだ。


「ナギ……」

「先輩、生きてます?」

「ああ。なんとか」


 ナギが剣を抜くと猪笹いのささの子供はその場で動かなくなった。そこでコウメイは眉を潜める。


「なんで剣が刺さるんだ? すごい固い皮膚だったんじゃ?」


 説明では、皮膚は硬く、剣などは刺さらないということだったはずだ。


「子供は柔らかいみたいです」

「てか、お前、剣なんか持ってたか?」


 一緒にいた時は持っていなかったはずだ。


「あ、出し入れ自由なんで」


 ナギは剣を消したり出したりする。コウメイは笑う。


「それもお前の特殊能力か」

「はい」

「さすが一條家だな。特殊能力が特殊過ぎるわ」


 コウメイは顔を引きつらせて笑った。



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